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弟妹とハレノ様


「参考にさせていただきますわ。わたくしは薄味に慣れてしまっているので、ハレノ様の感想は新鮮です」

「そ、そうなんですね」

「ええ」

 

 まあ、離れであるこの屋敷に調味料が少ないのは継母の嫌がらせでもある。

 わたくし自身もシェフも、その環境に慣れてしまっていた。

 家の外の人間からすれば、この薄味は異様。

 口に合わないのは仕方ないわね。

 ――ん? あら? それなら……。

 

「城の食事もお口に合いませんでしたか?」

「城のは……ひ、姫菜(ひめな)に全部、取られて……」

「まあ……」

 

 つまり、ヒメナ様がハレノ様の分まで食べていたの?

 食欲があっていいことだわ。

 でもそれならそれで、ハレノ様の食事のお代わりをお持ちすればいいだけの話では?

 城の者はそんなこともしなかったのかしら

 

「お代わりを頼まなかったのですか?」

「そんなこと、できない……! 姫菜(ひめな)が、そんなことしたら、たくさん持って来させて……食べきれない量、食べることになる……!」

「お腹を空かせてしまうよりはいいのでは?」

「作ってくれた人に、申し訳、ない……。わ、私、家が、貧乏で……食べ物は、大事……」

「そうなのですね。その考え方は素敵ですわ。わたくしもそう思います」

 

 食べ物は貴族であっても無駄にはできない。

 特に我が国のような、バミニオスの亡国と隣接しているような国は。

 肉や野菜は南側に生産が集中しているが、女神の生まれ変わりを探す瘴兵の増加で生産性は年々低下している。

 定期的にユリッシュたちの騎士団部隊が各地に遠征して瘴兵を討伐しているが、手が回らなくなってきているのが現状。

 だからこそ余計に食糧は大切。

 わたくしは貴族だから、まだ毎日の食事に困ることはないけれど……。

 

「お食事中失礼いたします。ユシス様とアリス様がいらっしゃいました」

「どういうこと? あの子たちが……? どうしたの?」

「わかりかねます」

「わかったわ。ハレノ様、少々離席いたします。どうぞゆっくりとお食事を続けてくださいませ」

「あ……は、はい……」

 

 どうしてかしら?

 あの子たちも今は朝食の時間のはず。

 食事のあとは学園に登校。

 なんでこんなところに?

 

「おはよう。こんな朝早くにどうしたのかしら?」

「お姉さま!」

「姉様……」

「あらあら」

 

 談話室に行くと、アリスが飛びついてくる。

 すでに涙を流していて、ひっくひっくと嗚咽を漏らす。

 これは……。

 

「お継母(かあ)様と喧嘩でもしたの?」

「うん。だって……あの人、平民のくせに姉様の婚約に口出ししてたんだ。昨日王宮魔法師のすごい人から姉様に婚約の申し込みがあったんだろう? それを無視して、女好きの金持ちジジイに姉様を“売る”って言ったんだ……! あのババア!」

「まあ、口汚い。どこで覚えてきたのですか? そんな言葉」

「うっ」

 

 どうせお継母(かあ)様からだろうけれど……。

 平民を蔑むようなことを言うくせに、治安のよくない平民の言葉を使うなんて矛盾している。

 ユシス自身が『平民は〜』なんて言っているのだから、自分が“平民のような”言葉を使うことで自分が傷つくだろう。

 馬鹿な子。

 可哀想な子。

 そんな些細なことにこだわって……一人で傷ついて。

 

「お継母(かあ)様がそう言っているのは知っています。ですが、わたくしの婚約に関してはお父様がお決めになることですわ。お継母(かあ)様に決定権はありません」

「ほ……本当? お姉さま、変な人のところにお嫁に行かされたり、しない?」

「ええ。お父様もそこまで私情では動かないはずよ。侯爵なのですから」

「そ、そうよね……お父さまはちゃんと、お姉さまのことを、考えてくださるわよね?」

「ええ」

 

 アリスの頭を撫でる。

 ……そうね、せっかく二人が来ているのだから――。

 

「ところで、二人とももう朝食は食べたの?」

「「まだ」」

「それでは一緒に食べましょう。ハレノ様をお一人で食事させてしまっているの。二人のことも紹介したいと思っていたから、ちょうどいいわ」

「え!? 聖女様に!?」

「ええ」

 

 やはり元々会いたがっていたアリスの反応は大きい。

 ユシスもおずおずとだが「い、いいの?」と不安そう。

 もちろんだ、近々紹介することをハレノ様にも了承していただいている。

 二人を連れて食堂に戻ると、ハレノ様はお皿を空にして目を丸くしていた。

 

「まあ! 全部食べてくださいましたの?」

「だ、出されたものは、の、残したくなくて……」

「苦手な味だとおっしゃっていたのに、ありがとうございます! シェフも喜びますわ」

 

 わたくしが喜ぶ中、ハレノ様の視線はだいぶ怯えを含みながらわたくしの後ろの方へと向けられる。

 ああ、気になりますよね。

 ハレノ様は見るからにキョロキョロとし始めた。

 人見知りが発動しておられる。

 

「ああ、この二人ですか? 昨日話しましたわたくしの弟と妹ですわ。どうやら朝早くに親と喧嘩になってしまったらしく、わたくしのところに避難してきましたの」

「あ、そ、そうなんですね……」

「まだ朝食を食べていないということなので、食べさせるついでハレノ様へ紹介しようと思いまして」

「初めまして! あ、あたくしアリス・ラクルテルと申します」

「ユシス・ラクルテルと申します」

「あ。えっと、京ヶ瀬(きょうがせ)晴乃(はれの)といいます……」

「ハレノ様の世界では苗字が先だそうです。ですから、名前はハレノ様ですね」

「よろしくお願いします! ハレノ様!」

 

 アリスはいつも通りだが、ユシスはかなり引き気味。

 想像していた聖女像とは違っていたのだろう。

 なんだ? ユシス、お前もエルキュール殿下のようなこと言うのか?

 右ストレートかしら?



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