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ぎこちない朝食


「おはようございます、ハレノ様。昨夜はよく眠れましたか?」

「お、おはようございます。は、はい。よ、よく、眠れました……」


 着替えてから一階の食堂に下りて、先に水を飲む。

 その間にハレノ様がパツンパツンになったワンピースを着て現れる。

 う…………うーーーん……。

 まあ、ハレノ様のサイズの服って……うちには、まあ……ない、わよ、ねぇ。

 どうしようこれ。

 ひとまず今日の予定はハレノ様の服を作るところからかしら?

 お父様かエルキュール殿下に頼めばお金は出してくれるでしょう。経費で。


「本日はなにをしたい、とご希望はございますか?」

「え、ええと……い、いいえ……あの……よ、よく……わ、わからなくて……」

「そうですわよね。それで、わたくしから提案なのですが、ハレノ様のお召し物をご用意したいと思っておりますの。長期間の滞在となるかと思いますので、肌着と下着も含めて多めに。もちろん、お金はこちらでお出ししますわ」

「え……え……で、で、でも……えっと」

「おでかけされるのがお嫌でしたら、商人を屋敷に呼びますのでご安心くださいな。もしかしたら、こちらの世界のお召し物は、ハレノ様の世界のものとは違うかもしれませんので、商人に『こういうものが欲しい』と要望を伝えていただければ似たものをお作りできるかもしれませんわ」

「そ、そんな……そ、そこまで、していただくのは……」


 案の定、控えめというか遠慮がちというか。

 借りを作りたくない、迷惑をかけたくない、怖い。

 そんな心理が透けて見えるようだ。

 とはいえ、その気持ちはよくわかる。

 人に親切にされるというのは、その裏になにか自分を搾取しようという思惑があるのではないかと勘繰ってしまう。

 貴族ならば尚更。

 ましてハレノ様はこの世界に来てすぐに『聖女として瘴兵と戦い、国と女神の生まれ変わりを守ってほしい』と頼まれたはず。

 ハレノ様からすればわたくしも『自分を戦わせるために媚びている』と映るだろう。

 実際、いつかは……と思っている。

 だから親切にもするし、彼女の生活のすべてはサポートしようと思っているけれど――わたくしはそれだけではなく、ハレノ様に自信を持ってほしい。

 ハレノ様が一人の人間としてこの国を好きになって、守りたいと思ってくれた方が嬉しい。

 わたくしは……それなりにこの国に生まれたことを誇りに思っているし、この国を愛しているから。


「わたくしがハレノ様に、この国を好きになっていただきたいのです。突然この世界に呼び出して、こちらの都合ばかり押しつけてしまって申し訳がありませんもの。せめて、わたくしたちが守りたいこの国のことを知っていただきたいのです。女神の生まれ変わりである少女にも、ぜひ会っていただきたいですわ。とても優しくていい子なのですよ」

「女神の、う……生まれ、変わり……」

「ええ。いつかお会いしてくださいませね」


 フィアナはとてもいい子だもの。

 きっと仲良くなれると思うのよね。

 しかし、ハレノ様の食事はあまり進んでいない。

 嫌いな食べ物でもあったのかしら?


「あ……あの……し、し、質問、しても、いい、ですか」

「まあ。なんでもお聞きくださいな。わたくしでわからないこともお調べしますわ」

「っ……、あ……あの……も、元の世界に、か、帰れないのでしょうか……?」

「元の世界に、ですか。そうですわね――」


 頰に手を当てて考え込む。

 すぐにお帰りになりたいのだろうか?

 それは……こちらとしては困るが……。


「ハレノ様が召喚された時と、昨日お会いした魔法師の方を覚えておいででしょうか? あの方は世界的にももっとも優秀な魔法師と言われております。あの方ならもしかしたら知っておられるかもしれませんわ」

「あ、あのちょっと、怖い、ひと……」

「まあ、ええ……そうですわね?」


 怖い、ように見えたのね。

 まあ確かに背も高いし、目つきも悪かったし、恐ろしく見えたのかもしれないわね。


「ブリジット・ジヴェ様とおっしゃる方ですわ。わたくし、召喚の儀についてはまったくわかりませんが、あの方は他国に留学して多くのことを学んできた方。元の世界に帰る方法がなくとも、作り出せる方だと思います」

「じゃ、じゃあ……」

「ええ、お聞きしてみますね」


 婚約に関しては父が判断することだから、わたくしからはひとまずハレノ様の希望ということでお手紙で質問をしてみましょう。

 それで勘違いをさせないように、慎重に手紙を書かないと。


「すぐには……か、帰れないんです、ね」

「それに関しては申し訳ありません。わたくしとしても、この国の事情に巻き込んでしまったことは本当に心苦しく思っております」

「そ、それは、あの……いえ、だ、大丈夫、で、す……あの……ひ、姫菜(ひめな)が、ひどいことを、してしまったの、で」

「まあ。昨日のことでしたら本当にお気になさらないで? あの程度、些細なことですわよ」


 ふふふ、と笑うと非常にぎこちなく笑い返される。

 ぎこちなくとも笑ってくださるようになったのは進歩だろうか。


「他になにかご希望はございますか?」

「すぐに、帰るのは……む、無理ですよね?」

「おそらくは、無理かと」

「そ、それじゃあ……私……た、戦いに行かなきゃ、行けないんですか……? た、戦いに行かなきゃ、殺されるんですか……?」

「昨日ジヴェ様がおっしゃっていたことを気にしていらっしゃるのね」



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