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召喚されてきた少女たち(6)


「くっ……」

 

 周囲の視線がわたくしに集まってしまったせいか、ヒメナ様が強く睨みつけてくる。

 嫌がらせがわたくしにまったく相手にされていない、効果がないと知ってわかりやすく苦虫を噛み潰した顔になるなんて幼いというか、なんというか。

 

「しかし――それに比べて聖女と共に召喚されてきた娘のなんという醜悪さか」

「ジヴェ様」

 

 結局立ち上がったジヴェ様が、ヒメナ様を睨みつける。

 先程まで媚を売っていた相手に睨みつけられたヒメナ様は、居心地悪そうに視線を背けた。

 わたくしが静止の意味で名前を呼ぶが、一瞥されて再びジヴェ様はヒメナ様を睨みつける。

 ああ、これはダメそうね。

 

「あーし悪くないでしょ。勝手に呼び出して人の予定とかめちゃくちゃにしてきたのそっちじゃーん!」

「そうだ。貴様にはなんの庇護もない。だからこそこの国の王侯貴族が後ろ盾もないお前たちに庇護を与えようと言っている。それをいいことに、随分と尊大な態度を取るものだ。今のお前たちには、なんの後ろ盾もない状態だぞ。国の害にしかならぬというのなら、殺してしまっても構わぬのだぞ。貴様は聖女ではないのだから」

「っ……」

 

 まあ――そうね。

 彼女たちの立場は、『聖女』と『聖女の予備』。

 我々にとって重要なのは『聖女』であって、『聖女の予備』の重要性は低い。

 なによりこの性格の差。

 聖女たるハレノ様は慈悲深く、思慮も分別もある。

 反対にヒメナ様は淑女らしさのかけらもない。

 このままでは扱いに差が生まれるのは避けられないだろう。

 頰に手を当てて、ヒメナ様の次の言動を待つ。

 ここで改善が見られないと、ジヴェ様の言った“最悪”を現実にさせないためにも、ヒメナ様には言動を改善していただかなければならない。

 しかし――。

 

「ジヴェ様、お二人はこの世界に来たばかりです。確かにヒメナ様の言動は問題があると言わざるを得ませんが、なにもかもが違う世界に突然連れてこられては攻撃的になってしまうのも無理のないことでしょう。今、ジヴェ様ご本人が言われた通り、お二人には後ろ盾がないのですよ? 恐ろしくて仕方ない。だから身を守るために攻勢に出る。威嚇する仔猫のようなものでございましょう。そのような言い方をされてはますます怯えさせてしまいますわ」

「む……」

 

 わたくしの物言いはさぞ、ヒメナ様を逆撫でしたことだろう。

 今までで一番、憎しみのこもったような顔で睨みつけられた。

 そうよね? あなたのようなタイプは同情されるのが一番効くものね?

 屈辱よね? わたくしに庇われて。

 けれどね……。

 

「ハレノ様とヒメナ様は、わたくしが相談役として後ろ盾となるよう殿下に頼まれておりますの。ですからどうかわたくしに免じて、今回のヒメナ様の言動はお許しくださいな。しかし、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。なにかお詫びの品を贈らせていただきますわ」

 

 ふふふ、ヒメナ様ったらものすごい悔しそうな顔。

 歯軋りの音が聞こえてきそう。

 きっとこれまでは暴力と暴言で、人を思い通りにしてきた人間なのだろうな。

 わたくしもそちら側の事情を詳しく知っているわけではないが、わたくしの継母はヒメナ様のような人間が多くいた界隈出身だから表面上は知っているのよ。

 だから、あなたのような人間との“戦い方”はそれなりに心得ているの。

 最近は継母にやりすぎてしまわないよう、手加減まで覚えたくらいには。

 

「す、素敵……」

「なんて寛大な方なのかしら……」

「エルキュール殿下もお可哀想。これほどの淑女と、聖女様と結婚するからと婚約破棄されたのでしょう?」

「こら、あなたたち」

「「し、失礼いたしました」」

 

 女官の一部からは羨望の眼差しのようなものを向けられるが、メイドはわたくしが目の前にいるのに話し始めてしまう。

 このあたりは教養の差だと思うけれど、仮にも城仕えのメイドがはしたない。

 

「殿下の――婚約者であらせられたか」

「ああ、その婚約は破棄しておりますわ。王家は積極的に聖女様を保護したいからと。わざわざ婚約白紙ではなく、責は王家にありと表明のために破棄という形を取ってくださいましたの」

 

 なにやら声色が落ち込んだようなジヴェ様。

 一応、王家のフォローも入れつつ事情を話すと少し顔を上げられた。

 まあ、『だからと言って次の婚約者がすぐ見つかるわけではありませんが』という事実は続けて話すことをしない。

 だってなんか、それを言ったらこの人そのままわたくしに婚約を申し込んできそうなんだもの。

 すべて言わぬが金ですわ。

 

「つまり今は婚約を解消していると」

「え、ええ」

「では俺が婚約を申し込んでもいいと」

「こ……婚約に関しては家の関係もございますので、ラクルテル家の方に問い合わせしていただければと」

「なるほど。了解した」

 

 ああ、これは家に問い合わせが来る感じか。

 筆頭王宮魔法師から婚約の申し込みがあったら、父もさすがに頷くかしら?

 

「う、うざあああい! あーし、あんたの世話になんかならないから! あーしはお城に住むんだから!」

「あらあら」

 

 そう叫んだヒメナ様が部屋から飛び出す。

 今の状況からだと、完全に“ただのわがままなおこちゃま”にしか見えない。

 だからだろう、ジヴェ様も深めの溜息。

 ――ひとまず、これでヒメナ様は『扱いづらい子ども』という印象が女官たちの中に印象つけられただろう。

 ハレノ様とヒメナ様を利用しようとしている貴族は、今回の件で多少考えや計画を変えるはずだ。

 想像以上に、ヒメナ様は扱いづらい。

 今はただの侯爵令嬢でしかないが、わたくしの庇護下にはあるしね。

 まあ、城にこのまま住むというのなら、わたくしの庇護を拒絶するということ。

 自分で後ろ盾を探すというのなら、一旦放置しましょう。

 城からわたくしに連絡が来るまでは、ね。



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