一方、勇者パーティーは(1)
まだ旅の序盤。
それなのに、魔王討伐を目指す勇者パーティーの旅は、お世辞にも順調とはいえない。
立ち寄った町で手の甲に刻まれた勇者の紋章を見せて正体を明かせば、もっと歓迎されるものだと思っていたのは勘違いだったと、彼らは早々に悟った。
現実はそう甘くない。
むしろ胡散臭そうな目を向けられ、早くこの町から出ていけとでも言わんばかりの態度を取られた。
「私たちに媚びるのは、陛下の目が届く範囲の人間だけなのかもしれませんね」
メガネでローブ姿の賢者が、いつもの無表情で言う。
「勇者にペコペコする義理はないってことか」
生真面目な性格のパラディンは、どこか不満げだ。
「俺たちが滞在することで、魔族に目をつけられたくないってことだろうな」
小柄で若く見える斥候は、実はパーティー最年長の自称イケオジ。
移動手段である馬に跨る一行は、すでにこの旅の波乱を予感していた。
それだけではない。もとはと言えば、勇者が聖剣を抜けなかったところからすでにおかしかったのだ。
『なぜ抜けないのだ……?』
青ざめた顔の国王陛下に問われた勇者は、それはこっちが聞きたいと心の中で毒づいた。
勇者の紋章を持って生まれてきた。
おまえは勇者としていつか魔王を倒すのだと教えられ、過酷な訓練を受けて育った。
神殿での鑑定でも、間違いなく勇者だと太鼓判を押されている。
それなのに、なぜ? 自分は女神様に選ばれた勇者ではなかったのか……?
答えを知りたいのは勇者のほうだ。
聖剣エクスカリバーは鞘も剣も錆びついており、鞘ごと岩に突き刺さっている状態だった。
伝説の通りであれば、勇者と認められた者だけが引き抜くことができるのだという。
何を引き抜くのか。
岩から鞘を? それとも鞘から剣を?
そもそも引き抜いたところで、こんなに錆びついている剣が使い物になるんだろうか……?
勇者は首を傾げ、よくわからぬまま聖剣の柄に手をかけた。
軽く引っ張ってみたものの、動く気配すらない。
次に両手で強く握ったが、結果は変わらなかった。
その場には、勇者パーティーに選出された三人と国王陛下とエドガー王太子、それに大臣が数名いたように記憶している。
なんとも気まずい空気が流れる中で、勇者自身も茫然と立ち尽くすほかなかった。
だからといって、魔王討伐の旅がなくなったわけではない。
彼らは、引くに引けない国王のメンツとやらに背中を押される形で魔王討伐の旅に出発することを余儀なくされた。
急ごしらえであつらえた聖剣に似せた藍色の鞘を作ってもらって。
『本物と区別がつく者など誰もいない』
そう言われてしまうと、そんなものかと思う。
あんな錆びついたボロボロの剣で何が切れると言うのか。
勇者は代替わりしているのに、聖剣を代替わりさせずに同じものを使い回そういることのほうがおかしい。
逆に考えれば、勇者が魔王を倒した剣が「聖剣」になるのかもしれない。
勇者はそう考えることにした。
不満や不安を口にしても仕方ない。
進むしかないのだということもわかっている。
勇者になったのが運命なのだとしたら、これもまた運命なのだろう。
「大丈夫だ、俺たちには女神様の加護がある!」
勇者は明るく笑った。




