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勇者様の忘れ物  作者: 時岡継美


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5/9

エリスの町にて(3)

 翌朝も旅日和のいい天気だった。


「ところで勇者様が、どちらに向かわれたかご存知ではありませんか?」

 ローゼリンデが尋ねて回る。


「この先のルートのうち、真っすぐ行くのは危険だとだけお伝えしたんですが、どの方角へ行ったかはわからないですね」

「馬に乗ってこの町を出て行ったことしか知らねえなぁ」


 宿の主人や厩番に尋ねてみたが、有力情報は得られなかった。

 晴れ渡る青空とは対照的な浮かない顔で、ローゼリンデは地図に目を落とす。

 ドレスを売ったお金で手に入れた地図だ。


 ここエリスは、旅の中継地点となっている町。

 真っすぐ北上する道と、東寄りの道、西寄りの道があり、この先は街道が三方向に分かれて伸びている。

 

 勇者パーティーが急いで北へ北へと向かっているのなら、真っすぐ北上ルートを選択する可能性が最も高いと考えるのが普通だ。

 しかし、そうとも限らないところが旅の醍醐味でもあり怖さでもある。

 真っすぐ北上ルートは、広大な森林地帯を抜けなくてはならない。

 

 魔物分布マップによれば、この森にはゴブリンが生息しているようだ。

 ゴブリンは緑色の肌と尖った鼻と耳を持つ二足歩行の小賢しい魔物で、単体では弱いものの集団を相手にするとなるとかなり厄介になる。


 東寄りルートは、ほんの一部だけ森にかかっているが、北上ルートよりも安全に旅ができる。

 最も安全に行きたいのなら西寄りルート。ただし途中で山を迂回するため、かなりの大回りだ。

 この西寄りルートを勇者パーティーが選択するとは思えない。


 ローゼリンデは町の人にも聞いてみたが、彼らの行き先を知る者は誰もいなかった。

 勇者の名前を出すと、皆顔をしかめる。

 残念なことに、カエル料理の一件があっという間に町中の噂になってしまったようだ。

 険悪なムードのまま別れたのなら、勇者たちの行き先を知らないのも無理はないだろう。


(勇者様たちに悪気はなかったのだと思いますわ……)


 庇いたいけれど、勇者パーティーの名誉をどう挽回すればいいのか、ローゼリンデには皆目見当がつかない。


 たかがカエル、されどカエル。

 ローゼリンデは、異文化を闇雲に拒絶するべからずと教わって育ってきた。

 食文化を拒絶されるのは気持ちのいいものではないと、よくわかっている。


 この件に関して曖昧な微笑みでしか対応できない己を不甲斐なく思いながら、エリスの町人たちに別れを告げた。


「皆様、お世話になりました」


「嬢ちゃんはカエルを美味そうに食べてくれて気持ちよかったぜ!」

「ありがとうございます。大変美味しゅうございましたわ」


 食堂の女将が、カエルのフリッターの包を手渡す。


「途中で食べな。気を付けて頑張るんだよ!」

「はい、ありがとうございます!」


 その気遣いに、ローゼリンデは感激しながら受け取った。


 しかし、旅の目的を話してもいないのに何を頑張れと言われているのかは、よくわからない。

 マーブルに跨った彼女は、勇者パーティーとは正反対の盛大な見送りを受けてエリスの町を発った。



「あの子、勇者パーティーとやらのメンバーだろ?」

「立派な剣と馬を持ってるってことは、そうだろうな。どんくさくて置いていかれたってところか?」

「でも、ああいう子がいるなら、勇者パーティーも捨てたもんじゃないね」


 先を急ぐローゼリンデの耳に、見送る人々の話し声はすでに届かない。

 昨夜の自分の行動が、勇者パーティーの汚名を晴らす結果となったことにももちろん気づかぬまま、颯爽と白馬を駆ってゴブリンの森へと直進していったのだった。


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