騎士ガーラントの追跡
賊にかどわかされたローゼリンデの目撃情報を追って、騎士ガーラントは試練の祠までやってきた。
賊と勇者パーティーが、同じルートをたどっているような気がするのは気のせいだろうか――そう訝しがってみるものの、理由がまったくわからないガーラントだ。
(まさか、試練の祠の中へ連れ込まれてはいないよな……?)
ガーラントが祠の入り口を見つめていたら、中から声が聞こえて慌てて木の陰へと隠れた。
祠から出てくる人影がふたつある。
ひとりは子どもで、もうひとりは王国騎士だった。
なぜ騎士がここにと戸惑いつつ、見つからぬよう大きな体を縮こませるガーラントだ。
見つかって、ここで何をしているのかと聞かれるとマズい。
ガーラントはいま、実家で家族の看病にあたっていることになっているのだから。
すでに休暇延長のために両親だけでなく、妹まで病気にしてしまった。
病人に仕立て上げた家族たちへ、故郷の方角を向いて心の中で謝罪をし、姫の行方を追い続けている。
「ネストさん、助かりました。私ひとりでトラップの回避は到底無理だったことでしょう」
「これからも僕たちの集落で、この祠を守っていきます」
「安全が確認できましたので問題ないでしょう」
何のやり取りをしているのかと、ガーラントは耳をそばだてる。
「ねーちゃんは、いまどこにいるか知ってますか?」
「ユニコーンの乙女なら、山沿いに北東へ移動しながら魔族に支配された集落を解放して回ったと聞き及んでいます」
(ユニコーンの乙女だと? あの少年の姉には、ずいぶんとファンタジックな呼び名がつけられているのだな……)
事情はよくわからないが、少年の姉は「ユニコーンの乙女」と呼ばれているらしい。
ガーラントは眉間にしわを寄せた。
姫の捜索隊として王国の騎士がここへ派遣されたのかと思いきや、どうやらまったくの別件のようだ。
「これ以上は機密情報になりますので、お話しすることはできません」
「ありがとうございます。ねーちゃんの無事がわかったから、それで十分です」
少年のホッと安堵したような声色を聞いて、ガーラントの胸が熱くなった。
姫の安全がわかれば、彼とてどんなに安心できるだろうか。
ガーラントは、少年と騎士に気づかれぬようそっとその場を離れた。
その後の目撃情報が途絶えてしまったガーラントは、考えあぐねた末に勇者パーティーの足取りを追うことにきめた。
姫をかどわかした賊たちが、わざわざ勇者と接触するとは考えにくい。
しかし、ガーラントはもしかすると……と、ある推測に行きついた。
「もしかすると、ローゼリンデ様がうまく誘導しているのかもしれない」と。
姫は婚約者でもある勇者の旅程を大まかに把握しているのだろう。
賊たちにそうとは気づかれぬよう、言葉巧みに誘導しているのかもしれない。勇者に会って助けてもらうために。
「姫は読書が趣味で聡明なお方だ。そうにちがいないっ!」
ガーラントは強く拳を握った。
彼の推測はまったくの的外れだったのだが、姫が勇者の後を追っているという一点においては大正解だった。
ドンサール海に面する漁村に到着した朝、村は祭りが終わった後のような余韻を残していた。
外に置かれたままになっている屋台のテーブル、魚介類を焼いたような残り香、酔いつぶれて路上で雑魚寝している男たち……。
ガーラントは、後片付けをしている女性に声をかけてみた。
「大きな祭りでも催されていたのですか?」
「そうなんです! 勇者様がクラーケンを倒したお祝いで、三日間クラーケン祭りが開かれていたんですよ」
「勇者殿がクラーケンを!? なんとめでたい」
クラーケンがドンサール海で暴れているせいで対岸へ渡れないという話は、王城の騎士団にも届いていた。
かなり手ごわい魔物だと聞き及んでいたが、それを見事討伐するとはさすがだ。
朗報に胸を躍らせたガーラントだったが、ローゼリンデ姫に似た女性の目撃情報を聞いてどん底へ突き落された。
「雨と雷に打たれて叫んでいた……?」
崖の上から勇者の乗る船に向かって叫んでいた若い女性がいたようだ。
栗色の髪にサファイヤのような青い目の育ちのよさそうな娘――外見から察してローゼリンデ姫にまちがいない。
姫の助けを求める叫びは、勇者たちには届かなかったのだろう。
おまけに、クラーケンの引き揚げや沈没船のお宝引き揚げという過酷な労役までさせられていたという。
元気であることがわかった半面、相変わらず過酷な目に遭わされているようだ。
(なんと、おいたわしい……!)
「その彼女は、いまどこに?」
「あの嬢ちゃんなら、さっき対岸に向かって出航したところさ」
漁師の男が海を指さした。
「一歩遅かったか……!」
ガーラントはゴブリンの森で奪還したローゼリンデのマントを抱きしめた。
「して、次の船の出航はいつだ?」
「対岸へ行く気か? 当分ないだろうな」
「何~~っ!?」
ガーラントの絶叫が朝の漁村に響き渡る。
彼は王城宛に、今度は幼い弟が病気になったと、休暇延長を申請する手紙をしたためたのだった。




