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勇者様の忘れ物  作者: 時岡継美


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怪鳥ガルーダの巣にて(4)

 四人の村人を無事送り届けたガルーダが巣に戻ってきた。


「さてと。ではさっそく雛鳥を探しに参りましょうか」

 ローゼリンデがマーブルを振り返る。

「マーブルはここでお留守番ですわ」

 さすがに一緒に連れて行くわけにはいかない。


 背中に羽毛を載せられたマーブルが、すんっとした表情になる。留守番が不満なのだろう。

 それでもおかまいなしに、ローゼリンデは羽を載せる。

「しっかり温かくして待っていてちょうだいね」


 ひらりとガルーダに飛び乗ったローゼリンデが空を指さす。

「ガルーダさん、出発ですわ!」

「クルル!」


 ローゼリンデを背中に乗せたガルーダが空へとはばたいた。

 背中は大きくて安定しており、怖さはまったくない。

 

 ローゼリンデは風を受けながら四方に視線を走らせ目を凝らした。

 今日もきっとどこかにいるはずだ。

 さっきの村人たちも、頻繁に飛び交っていると言っていたのだから。


「いましたわっ! ガルーダさん、あれです!」

 ローゼリンデが指さす方向に、コウモリのような黒い翼をパタパタ揺らしながら飛ぶ悪魔がいる。


「あの悪魔さんなら、あなたと一緒に飛べますわ!」


 人間ではなく雛鳥の代わりになる存在とは何か――思いを巡らせたローゼリンデは、翼を持つ魔族がちょうどいいだろうと思いついたのだ。


「クルルーッ!」

 うれしそうな声を上げ、ガルーダがスピードを速める。

 狙いを定めたようだ。


「へっ……?」

 悪魔がその影に気づいて振り返った時にはもう遅かった。

 ガルーダが鋭い鉤爪で悪魔の両肩を捕らえる。


「やだぁ! なに!?」

 コロッセオでの闘技大会で戦ったあの美女によく似た赤毛の悪魔だった。

 このあたりの偵察にでもしに来たのだろうか。

 驚いてジタバタ手足を振り回して暴れているけれど、ガルーダからは逃れられない。


 ローゼリンデたちは悪魔とともに巣へと帰還した。


「ちょっと、あんたたち何なのよ! こんなことしてタダで済むと思ってるの!?」

 巣に下ろされた悪魔はまだ状況の把握ができないらしい。

 金切声で悪態をつき、戸惑いながらローゼリンデたちを睨みつけている。


「こちらはガルーダさん。そしてわたくしは、ローゼリンデと申します」

「そんな自己紹介いらないわよっ! ここがガルーダの巣だってことはわかるけど、なんで馬までいるのよ!」

 指をさされたマーブルがニッと笑う。

 

「ごもっともですわ! ここにマーブルとわたくしがいる状況がおかしいのです」

 ローゼリンデは、混乱している悪魔の手をガシッと握った。

「というわけで、後はあなたに雛鳥役をお任せして、わたくしたちはこれで失礼いたしますわね」


 悪魔が気色ばんでローゼリンデの手を振り払う。

「あんた馬鹿じゃないの? 雛鳥役? 何言ってんのよ、知るか!」


 立ち上がった悪魔が翼を広げた。

 飛んで逃げるつもりだろう。


(マズいですわ! 翼を持っているってことは、飛んで逃げられるのだということを失念しておりましたわ!)


 聖剣を突き付けて力づくで脅すこともできるけれど、下手に傷つけてしまえば悪魔は砂になる。

 それはそれでマズい。


 焦るローゼリンデといまにも飛び立とうとしている悪魔の間に、ガルーダが羽を広げた。

 ローゼリンデの視界は緑色の羽に遮られて悪魔が見えない。

 どうしてガルーダが邪魔をするのかわからず戸惑っていると、突然ガルーダの体が金色に光りはじめる。


「――っ!」

 咄嗟にローゼリンデは両手で目を覆ったが、それでも眩暈がするほどの強い光だ。

 光が収まるのを待って、恐る恐る瞼を開く。


 ガルーダがふんすと胸を張り、勝ち誇った顔で悪魔を見下ろしている。

 かたや悪魔は、まばゆい光をまともに食らってしまったのか、目を回して伸びていた。

 ガルーダの光攻撃は、マーブルのいななきと似たようなものなのだろうか。

 

「ガルーダさん……強い……!」

 心優しく雛鳥をひたすら溺愛して甲斐甲斐しくお世話をする母鳥だと思い込んでいた。

 しかし実態は、叱る時には猛烈に叱る厳しい一面も持ち合わせているようだ。


(毅然としていて、なんてカッコいいのかしら!)

 

 ローゼリンデから羨望の眼差しを向けられていることを知ってか知らずか、ガルーダは伸びている悪魔の体にせっせと羽毛を載せる。

 その作業を終えると、光るお宝の山の中からひとつを咥えた。

 

 ローゼリンデの目の前にキラキラ光る青いロッドが差し出された。

 杖のヘッド部分には青くて丸い大きな宝玉がついている。

 攫われた村人たちと同じように、ローゼリンデにもコレクションをひとつプレゼントしてくれるらしい。


「まあ! ありがとうございます!」

 これは賢者にピッタリの法器だ。

 勇者パーティーに追いついたら渡そうと誓い、感激しながら受け取ったローゼリンデだった。


 マーブルとともにガルーダの背に乗ったローゼリンデが振り返る。

 悪魔はまだ眠ったままだから、いまがチャンスだ。

 しかし万が一目を覚まして誰もいないとわかれば、先ほどのように飛んで逃げて行こうとするだろう。


「ガルーダさん、精霊の森を超えたあたりで降ろしていただけると助かりますわ」

 そのあたりまでだったら、時間はかからないはずだ。

「クルルッ!」

 わかったと返事をするように鳴いたガルーダが巣から飛び立った。


 美女悪魔にはほんの少し同情してしまうけれど、あきらめてもらおう。

 もしも魔族たちが仲間を救うために集団で襲いに来ても、ガルーダの金色の光攻撃があれば対魔族に関しては無敵だ。

 魔族たちの間に「ガルーダに追いかけ回された」「捕まったら雛鳥の代役にされる」「ガルーダは手ごわい」という噂が広まれば、この一帯で悪さを働かなくなるにちがいない。


「結果的に丸く収まりましたわね」

 眼下のヒマル村や精霊の森を眺めるローゼリンデの顔に、満足げな笑みが浮かぶ。


 しかし、余裕があったのはここまでだった。

 ヒュルルーッと風の音が聞こえたと思ったら、ガルーダの体がガクンと傾いた。

 乱気流だろうか。


「ひゃっ!」

 ローゼリンデは慌てて羽を強く掴んだが、ガルーダの体は安定するどころか風に翻弄されてきりもみ状態になってしまった。


 マーブルも必死なのか、四肢をローゼリンデの体に絡めて抱き着くような格好になる。

 その重さで掴んでいた羽が抜け、ローゼリンデとマーブルはガルーダの背中から滑り落ちた。


 ガルーダの姿が遠ざかっていくのと同時に、腰に差していた青いロッドが抜けた。

 ローゼリンデが慌てて手を伸ばすが、届くはずもない。

 キラキラ光るロッドが、風に攫われて遠のいていく。


「そんなあぁぁぁぁっ!」


 悲痛な叫びを響かせながら、ローゼリンデはマーブルとともに落下していったのだった。


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