怪鳥ガルーダの巣にて(3)
「それではまるで……子どものお世話をしているようですわね」
ローゼリンデの言葉に、大人たちが頷いた。
「そうなんです。最初は食べられてしまうのかとビクビクしていましたが、ご覧の通りです」
「どうやら私たちを雛鳥に見立てて世話を焼いているようです」
さらわれた村人たちが苦笑する。
ガルーダは本来、愛情深い生き物なのだろう。
卵が割れて我が子を失ったことに気づかず、ヒマル村に雛鳥が生まれ落ちたと思い込んでいるのかもしれない。
ここでガルーダの雛鳥として手厚くお世話をしてもらえるなら、そんなに居心地が悪いわけでもない。
一日中ゴロゴロ寝転んでいたって、ガルーダが木の実を運んできてくれるのだから。
「でもわたくしたちは鳥類ではありませんもの。マーブルなんて馬ですわよ?」
もしもこの先、雛鳥たちの巣立ちを促すために飛行訓練がはじまったらどうなるのか。
ガルーダが、怯える雛を巣から蹴落とすような荒っぽい訓練をする生き物なのかどうかは定かではない。
でも万が一そうだとしたら、ローゼリンデたちはこの切り立った山頂から落下して死んでしまうではないか。
「ガルーダさん!」
ローゼリンデは立ち上がり、ガルーダにずいっと詰め寄った。
「わたくしたちは、鳥ではございませんことよ!」
ガルーダは豆鉄砲でも食らったかのようにキョトンとした顔でローゼリンデを見つめ、首を傾げている。
「ご覧になってくださいまし!」
言葉がどれぐらい通じるのか、よくわからない。
それでもローゼリンデは、体についた羽を手で払いのけて背中を見せた。
「わたくしたちには翼がありません! これから生えてくる予定もございません。ですから大変遺憾なのですが、あなたと一緒に暮らすわけにはいかないのです」
ガルーダの金色の目が、微かに曇る。
どうやら、ある程度は理解できているようだ。
「あなたに寂しい思いをさせたかったわけではありません。もとはと言えば、わたくしが近隣で暴れたせいですのよ。申し訳ありませんでした」
ローゼリンデが謝罪すると、ガルーダは悲しげな声で鳴いた。
「クルル……」
ローゼリンデはいたたまれない気持ちで、ガルーダの首をそっと撫でた。
本物の雛はもういないのだと現実を突きつけ、ここからどうにか逃げたとして、その後ガルーダはどうなってしまうのだろうか。
なにか代替案はないかと必死に考えを巡らせる。
(翼を持っていてガルーダと一緒に飛べるとなると、ほかの鳥類かそれとも……)
ローゼリンデがハッと息を呑んだ。
「いいことを思いつきましたわ!」
ポンと両手を合わせて、にっこり笑う。
「ちょうどいい方々が、この近くを飛び交っていらっしゃるではありませんか!」
ローゼリンデは、ガルーダが理解できるまで粘り強く時間をかけて説明した。
自分たちは翼がないからここでは暮らせないこと。
その代わりに、一緒に飛べて巣から落ちても大丈夫な存在がいること。
彼らを探すお手伝いをするから、安心してほしいということを。
「……というわけですので、こちらの四人をヒマル村に帰してさしあげましょう」
わかってもらえましたか?とローゼリンデが首を傾げる。
「クルッ!」
ガルーダは説得に応じる決意をしたように、コクコクと頷いた。
そして、巣の隅っこに積み上げられていた光るお宝を咥えると、四人にひとつずつ渡していく。
お詫びの印、あるいは友情の証だろうか。
男の子は大きな宝石をもらって困惑している。
「あなたのお母様に素敵な手土産ができましたわね。とても怖い体験だったと思いますが、ものすごい冒険をしたと将来自慢できる日が来ますわ」
ガルーダに捕まって巣に連れていかれ、そこで雛鳥のように世話をしてもらった人間などなかなかいないだろう。
(わたくしもお城に帰還したら、エドお兄様とロブお兄様にこの武勇伝を語りませんと!)
兄王子たちはどんな顔をするだろうと想像してほくそ笑みながら、ローゼリンデは男の子をガルーダの背に乗せる。
ほかの三人の村人たちも一緒に背に乗った。
それでもまだ十分な余裕があるほどに、ガルーダの背中は広い。
「わたくしはこの後ガルーダさんと雛鳥探しをいたしますので、みなさんとはここでお別れですわ。ヒマル村の方々によろしくお伝えくださいまし」
ローゼリンデとマーブルは巣に残る。
「ありがとうございました!」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
ホッとした顔で手を振る四人を、ローゼリンデも笑顔で見送った。
「ごきげんよう!」




