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勇者様の忘れ物  作者: 時岡継美


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怪鳥ガルーダの巣にて(2)

「なんだか、おもしろいことになっていますわね」


 それが、ガルーダの巣の中を初めて見たローゼリンデの感想だった。


 木の枝や羽を材料にして作られた大きな巣は、頑丈で安定している上にふかふかしている。

 ガルーダの習性なのか、巣の中にはキラキラ光るお宝の山が積まれていた。

 そして端の方には、人間が四人――男性ふたり、女性ひとり、男児ひとりが、ガルーダの羽毛まみれになって座っている。


 そこにローゼリンデとマーブルが加わったわけだが、それでも巣はまだ十分な広さがある。

 意外なことに、なかなか居心地がよさそうだ。

 ただし、それは寒さを除けばの話。巣は山の天辺にあり標高が高く冷たい風が吹きすさぶため、とても寒い。

 

 だから捕まった村人たちは、羽毛まみれになっているのだろう。

 ローゼリンデはマーブルに寄り添った。

 マーブルの脇腹が温かくて寒さが少し和らぐ。


 ガルーダに掴まれたマーブルとともに上空高い位置まで連れていかれた時は、生きた心地がしなかったローゼリンデだ。

 この高さから落とされたら死んでしまうと、必死に手綱を握り締めることしかできなかった。

 巣に到着したら食べられてしまうのかと思いきや、ガルーダはとても優しく下ろしてくれた。


 丁重に扱われていることに戸惑っているうちに、ガルーダはまたどこかへ飛んで行ってしまったのだ。


 この隙にと、ローゼリンデは四人に声をかける。

「みなさんはヒマル村の方々でいらっしゃいますよね」

「そうです」

 村人たちは頷いた。

「申し訳ございませんでした。ガルーダの暴走は、わたくしのせいなのです」


 魔族に乗っ取られた村を救うために、この一帯で暴れ回ったのがいけなかったようだと説明し謝罪した。

 すると、大人たちは顔を見合わせて首を横に振る。


「あなたのせいだけではありません」

「今年になって、やたらと魔族が空を飛び交っている姿も見かけます。それもあったと思います」


 どうやらガルーダが落ち着きをなくす要因がほかにもあったようだ。

 だからといって、ローゼリンデの気が晴れるわけでもない。

 とにかくこの四人を無事に村へ帰すことと、村人を攫うのをやめるようガルーダを説得しなければならない。


 この巣は高く切り立った岩山の頂上にある。

 自力で巣の外に出ることはできても、山を無事に下りきる前に転落してしまいそうだ。

 となると、ガルーダに協力してもらって麓に下ろしてもらうほかないだろう。


 男の子が不安げな顔で震えている様子に、ローゼリンデはいたたまれない気持ちになった。

 ヒマル村で泣き叫んでいた女性の姿を思い出す。

 早くあの母親のもとへ帰してやりたい。


 巣が大きな影に覆われたと思ったら、ガルーダが戻ってきた。

 クチバシや足にたくさんの木の実をぶら下げている。

 よく熟れていて美味しそうだ。


 どういうつもりだろうかと眺めていると、ガルーダはひとりひとりに木の実を配りはじめるではないか。

 もちろん、ローゼリンデとマーブルにも。


「どうぞ召し上がれってことですの……?」

 手のひらにのった赤い木の実とガルーダの大きな目へ交互に視線を移すローゼリンデに、ガルーダはクルルッと喉を鳴らす。

 大きな金色の目は、うれしげに輝いている。


 ここで冷たい風がビューッと吹き抜けた。

「くしゅんっ!」

 くしゃみをして鼻をすするローゼリンデの姿に、ガルーダがハッとした顔をする。

 

 寒そうにしていると気づいたのか、慌てて胸のあたりの柔らかい羽をくちばしで抜いて寄越してきた。

 さらには、風が当たらないように翼を広げて風よけになってくれている。

 

(なんて甲斐甲斐しいのかしら!)


 マーブルも羽をたくさんかぶせてもらって、少し迷惑そうな顔をしている。

 深い緑色の羽は光沢があり、構造色が煌めいてきれいだ。


「ふふっ。マーブル、よくお似合いよ」

 思わず笑いを漏らすと、マーブルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 その横で、女性が男の子に話しかけている。

「食べても大丈夫よ。普通の木の実だから」

 促された男の子は、おずおずと木の実を一粒食べる。

 美味しかったようで、次はふた粒まとめて食べて少し明るい表情になった。


「ガルーダさんは、わたくしたちに食べ物を提供してくださるの?」

 まさか太らせてから食べる気だろうかと、嫌な予感が脳裏をよぎる。


「そうなんです」

 男性のひとりが答えた。

「最初は虫や小動物を持ってきたんですが、食べられないと言うと木の実を採ってくるようになったのです」

 

 もうひとりの男性が言い添える。

「夜は俺たちが凍えないように温めてくれるんだ」


「それではまるで……」

 ローゼリンデはキョトンとした顔で思いつくままに言った。

 

「子どものお世話をしているようですわね」と。


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