ユニコーンの乙女(5)
「片付きましたわね」
ローゼリンデは満足げに大きく息をつき、聖剣を鞘に戻した。
肩の力が抜けると同時に、達成感が湧き上がる。
くるりと振り返って愛馬の首に抱き着いた。
「ありがとう、マーブル。助かりましたわ!」
マーブルがローゼリンデを労うように優しく鼻をこすりつけてくる。
「ねーちゃん!」
ネストが小屋から飛び出してきた。
「本当にあいつらを倒すなんて、ねーちゃん本当にすごいんだな! ありがとう!」
ネストの興奮して上気した顔がかわいくて、ローゼリンデはふふっと笑った。
「言いましたわよね? 悪者はわたくしが成敗するって」
晴れやかな気分で、ふんすと胸を張る。
しかし、ネスト以外の村人たちが小屋から出てこない。
「ところで、ほかのみなさんは?」
「みんな伸びちゃってるんだよ。ほら、そこの馬の……」
マーブルと目が合ったネストが、ヒッと喉を鳴らし顔色を変えて後ずさる。
どうやら相当怖がっているらしい。
無理もない、普通の人間は小屋の中にいてもマーブルのいななきでフラフラになってしまうようだ。
「ぼ、僕はさっき一回やられてるから、咄嗟に耳を塞いだんだ」
「まあ! ネストは頭がいいのね」
ローゼリンデは、ネストの頭をポンポンと撫でた。
「みなさんに、巻き込んでしまって申し訳なかったと伝えてちょうだいね」
ネストがハッとした顔でローゼリンデを見る。
「もしかして、もう行っちゃうのか?」
ローゼリンデはにっこり笑って頷いた。
「勇者様がいないか祠の入り口に戻ってみますわ。その後は、この山間部一帯を確認して回ろうかと思っていますの」
もしかすると、魔族に支配されたのはこの集落だけではないかもしれない。
ここだけ救ったところで、また攻め込まれては意味がない。
まだ魔族がいるなら一網打尽にして、この一帯から排除してやろうと、ローゼリンデは決意した。
マーブルに跨ったローゼリンデに向かって、ネストが勢い込んで言う。
「僕も連れて行ってよ! トラップがあったら困るだろう?」
「ふふっ、ありがとうネスト。あなたが立派な大人になったら、ぜひとも一緒に旅をしましょう。では、みなさんにもどうぞよろしく。ごきげんよう!」
颯爽と馬を駆る後ろ姿に、ネストは声の限り叫んだ。
「約束だよ! 絶対に約束だからなっ!」
ローゼリンデは振り返らず、大きく右手を上げてそれに応えたのだった。
◇◇◇
「名前、聞き忘れちゃったな……」
ネストがポツリとつぶやく。
村人たちが目を覚ましたのは翌日の明け方だった。
魔族が撃退されたことが夢ではないとわかると、彼らは大いに喜び、魔族たちが残していった趣味の悪い装飾物を広場で焼いた。
その炎を眺めながら、ネストは隣に立つ父親に言った。
「父さん、そんなはずないだろうって笑われるかもしれないけどさ、あのねーちゃんが連れていた馬はユニコーンだよ」
ネストは最初に、勇者たちの馬と一緒にマーブルを盗もうとした時にハッキリ見たのだ。
あの白馬が怒りの形相で変身するのを。
額に長いツノが生え、たてがみと尻尾が虹色の聖獣。
それがユニコーンであることぐらい、辺鄙な山奥に住むネストだって知っている。
だいたい、馬が鳴いたぐらいで人間が気を失ったりなんかしない。
あの時は遠のく意識の中で、死を覚悟したぐらいだ。
「ああ。父さんも窓から見た。あの馬がいななく寸前にユニコーンのような姿になったのを。そのあとすぐに、気を失ってしまったけどな」
ネストがパッと顔を輝かせて父を見上げる。
「やっぱりそうだよね!」
「そうか。あれは夢ではなかったんだな。彼女は伝説のユニコーンを従える救世主様だ」
父は、空を見上げながら祈りを捧げる。
ネストもそれに倣って一緒に祈りを捧げた。
いつか本当に彼女と旅をする日が来た時、胸を張って横に立てる人間になろうと誓いながら。




