表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者様の忘れ物  作者: 時岡継美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/54

ユニコーンの乙女(5)

「片付きましたわね」

 ローゼリンデは満足げに大きく息をつき、聖剣を鞘に戻した。

 肩の力が抜けると同時に、達成感が湧き上がる。

 くるりと振り返って愛馬の首に抱き着いた。

 

「ありがとう、マーブル。助かりましたわ!」

 マーブルがローゼリンデを労うように優しく鼻をこすりつけてくる。


「ねーちゃん!」

 ネストが小屋から飛び出してきた。

「本当にあいつらを倒すなんて、ねーちゃん本当にすごいんだな! ありがとう!」


 ネストの興奮して上気した顔がかわいくて、ローゼリンデはふふっと笑った。


「言いましたわよね? 悪者はわたくしが成敗するって」

 晴れやかな気分で、ふんすと胸を張る。


 しかし、ネスト以外の村人たちが小屋から出てこない。

「ところで、ほかのみなさんは?」

「みんな伸びちゃってるんだよ。ほら、そこの馬の……」


 マーブルと目が合ったネストが、ヒッと喉を鳴らし顔色を変えて後ずさる。

 どうやら相当怖がっているらしい。

 無理もない、普通の人間は小屋の中にいてもマーブルのいななきでフラフラになってしまうようだ。

 

「ぼ、僕はさっき一回やられてるから、咄嗟に耳を塞いだんだ」

「まあ! ネストは頭がいいのね」

 ローゼリンデは、ネストの頭をポンポンと撫でた。

「みなさんに、巻き込んでしまって申し訳なかったと伝えてちょうだいね」


 ネストがハッとした顔でローゼリンデを見る。

「もしかして、もう行っちゃうのか?」


 ローゼリンデはにっこり笑って頷いた。

「勇者様がいないか祠の入り口に戻ってみますわ。その後は、この山間部一帯を確認して回ろうかと思っていますの」


 もしかすると、魔族に支配されたのはこの集落だけではないかもしれない。

 ここだけ救ったところで、また攻め込まれては意味がない。

 まだ魔族がいるなら一網打尽にして、この一帯から排除してやろうと、ローゼリンデは決意した。


 マーブルに跨ったローゼリンデに向かって、ネストが勢い込んで言う。

「僕も連れて行ってよ! トラップがあったら困るだろう?」


「ふふっ、ありがとうネスト。あなたが立派な大人になったら、ぜひとも一緒に旅をしましょう。では、みなさんにもどうぞよろしく。ごきげんよう!」


 颯爽と馬を駆る後ろ姿に、ネストは声の限り叫んだ。


「約束だよ! 絶対に約束だからなっ!」


 ローゼリンデは振り返らず、大きく右手を上げてそれに応えたのだった。

 

 ◇◇◇


「名前、聞き忘れちゃったな……」

 ネストがポツリとつぶやく。


 村人たちが目を覚ましたのは翌日の明け方だった。

 魔族が撃退されたことが夢ではないとわかると、彼らは大いに喜び、魔族たちが残していった趣味の悪い装飾物を広場で焼いた。


 その炎を眺めながら、ネストは隣に立つ父親に言った。

「父さん、そんなはずないだろうって笑われるかもしれないけどさ、あのねーちゃんが連れていた馬はユニコーンだよ」


 ネストは最初に、勇者たちの馬と一緒にマーブルを盗もうとした時にハッキリ見たのだ。

 あの白馬が怒りの形相で変身するのを。

 額に長いツノが生え、たてがみと尻尾が虹色の聖獣。

 それがユニコーンであることぐらい、辺鄙な山奥に住むネストだって知っている。

 

 だいたい、馬が鳴いたぐらいで人間が気を失ったりなんかしない。

 あの時は遠のく意識の中で、死を覚悟したぐらいだ。

 

「ああ。父さんも窓から見た。あの馬がいななく寸前にユニコーンのような姿になったのを。そのあとすぐに、気を失ってしまったけどな」

 ネストがパッと顔を輝かせて父を見上げる。

「やっぱりそうだよね!」

 

「そうか。あれは夢ではなかったんだな。彼女は伝説のユニコーンを従える救世主様だ」

 父は、空を見上げながら祈りを捧げる。

 

 ネストもそれに倣って一緒に祈りを捧げた。

 いつか本当に彼女と旅をする日が来た時、胸を張って横に立てる人間になろうと誓いながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ