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勇者様の忘れ物  作者: 時岡継美


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ユニコーンの乙女(3)

「ネスト! 遅かったじぇねーか。おまえもボスも帰ってこねえから、様子を見に行こうかって話していたところだ」

 

 キーキーと甲高い耳障りな声が夜空に響く。

 村の入り口には、松明に照らされる門があった。

 門番は、小さな三叉槍を持ちコウモリのような黒い翼をパタパタ動かして浮いている小柄な悪魔だ。


 ぎょろりとした目が、マーブルとローゼリンデをとらえる。

「ほう。お上品そうな獲物だな」

 

 舌なめずりするかのような下品な顔に嫌悪感を覚えながら、ローゼリンデはマーブルから下りる。

 そして目にもとまらぬスピードで聖剣を抜き三叉槍を跳ね飛ばすと、門番の喉元に剣先を突き付けた。


「ボスさんはどちらに?」

「……だから、祠からまだ戻ってねえよ」


 門番は両手を上げ、ネストとローゼリンデにせわしなく視線を移動させながら戸惑っている。

 ローゼリンデは、こてんと首を傾げた。

 

「まさかとは思いますが……祠にいらした悪魔なら、わたくしが倒しましたわ」

「「えぇっ!?」」

 彼女のこの発言には、門番だけでなくネストも驚いている。


「そういえばネストさんにも説明しておりませんでしたわね。わたくし祠を踏破いたしまして、最深部でそのボスさんとやらと対決いたしましたのよ」

 にっこり笑うローゼリンデに、門番は焦ったように言う。

「待て待て、笑えねえ冗談はやめろって。おまえみたいな小娘にやられるようなボスじゃねーし!」


「どうした」

 低い声が響いた。

 門の内側から、ぬうっと大きな影が現れる。


 獣の皮のズボンを腰ばきしただけの大男だ。隆起するたくましい筋肉を誇示するかのように、褐色の肌を惜しげもなく晒している。

 背中には黒い翼、頭にはヒツジのような丸まった角がある。


 村の入り口でなにやら揉めいているようだと気づいて、様子を見に来たのだろう。

 

 さらに後ろから、ゾロゾロとほかの魔族たちもやってくる。

 

「コイツが、ボスを倒したとほざいてやがるんです!」

 門番は剣先から逃れ、庇護を求めるように大男の背後に隠れた。


「ボスを……?」

 大男の金色の目がギラリと光る。

「おまえが倒したというボスは、どんなヤツだったか言ってみろ」


 大男に睨みつけられても、ローゼリンデは一歩も引かない。

 

「ブラックタキシードを着た長身の銀髪、赤目。『お嬢ちゃんに投降するチャンスをあげよう』と言って、影縛りの術を使うキザな悪魔でしたわ」

 ローゼリンデが、あの口調と身振りを再現しながら説明した。


「やば、それまちがいなくボスだな」

「ああ。ちげえねえ」

「いやしかし、倒されたって本当か……?」

 大男の背後で、ほかの魔族たちが頭を突き合わせてヒソヒソ話している。


「それで? その坊主に泣きつかれて、ノコノコここへやってきたというわけか」

 牙をギリリと鳴らした大男が、険しい顔で問う。

 

「いいえ、ちがいますわ。わたくしの意志で、お節介をしにきただけですのよ」

 ローゼリンデはまったくひるんでいないが、その隣でネストがブルブル震えている。

 ネストは、こうして村まで案内するのを罠だと思わないのかと心配までしてくれたのだ。

 なんとしてでも、この村を救いたい。

 

「なんだっていい。ボスが死んだのが真実だとしたら、次は俺がボスになるだけだからな」

 大男は、金色の目をすうっと細める。

「どうせその立派な剣と馬は、俺たちの物になる。おまえのことは、殺す前にたっぷりかわいがってやるから覚悟するんだな」

 

「覚悟なさるのは、あなたのほうでしてよ?」

 ローゼリンデは涼しい顔で門の中へ足を踏み入れた。


 山を切り拓いた狭い集落だ。

 ゴブリンの森で見つけたあの集落をひと回り大きくしたほどだろうか。

 村人たちの姿はまばらで、みんなボロを纏い痩せ細っている。

 顔や腕に殴られたようなアザがある者もいる。


 外に出ていた村人たちは、巻き込まれては堪らないといった様子で慌てて小屋の中へと避難していく。

「ネストも中へ」

 ローゼリンデは、不安そうな顔でオロオロしているネストの背中を押した。


 魔族は十体。

 

 最も手ごわそうなのは、目の前の大男の悪魔。

 

 ローゼリンデは、聖剣とマーブルがいればどうにかなりそうだと踏んだ。

 十体のうち、ツノと翼がなければ人間と見分けがつかない知性の高い人型の悪魔は四人。

 聖剣で傷をつけさえすれば、人型の悪魔はそこから砂になっていくらしい。

 これはコロッセオと試練の祠での経験で学んだ。

 さらには幸いなことに、村の広場は松明で明るく視界は良好。


 ユニコーンの盾を祠の祭壇に供えてきたことに後悔はない。

 むしろ、マーブルの機嫌がよくてホッとしているぐらいだ。


「マーブル。わたくしの背後を頼みましたわよ」

 声をかけると、マーブルは目を輝かせ、任せておけと言わんばかりの勢いでブルルッと鼻を鳴らした。


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