一方、勇者パーティーは
「ずいぶんトラップの多い祠だな」
斥候がつぶやきながら、床石に衝撃を与えないようそっと野鳥の羽根を張りつけていく。
ここは踏んではいけないという目印の代わりだ。
五感どころか第六感まで働かせながら、斥候が目ざとくトラップを見つけては慎重に回避していく。
「ここの試練っていうのは、トラップのことを言うのかしら?」
「そうかもな」
「魔物もたいしたことないしな」
斥候の邪魔をしないようヒソヒソ声で話しながら、勇者と賢者とパラディンは羽根のない場所を歩く。
ゴブリンの森では苦杯を舐めた。
だから今度こそ腕の見せどころだと気負っていたのだが、いまのところ遭遇する魔物はスライムや火ネズミといった小物ばかり。
剣を大振りすると壁に当たってトラップが発動しかねない。それさえ気をつけていれば簡単に倒せる相手だ。
かたやトラップのほうは、先へ進めば進むほど巧妙に隠され、見破って解除するのに手間のかかる仕掛けが施されている。
賢者の魔法で周囲を明るく照らせるため、斥候が作業しやすいのがせめてもの救いだろうか。
「よし、開いた!」
カチッと何かが外れるような音がした。
行き止まりになっていた壁がゆっくり横へ動いて、下り階段が出現する。
斥候が額の汗を拭って立ち上がった。
「かなり進んだな。ここからも慎重に行くぞ」
勇者が気を引き締めなおし、四人で協力して進んで行く。
しかし――。
階段を下りる途中で、全員があることに気づいた。
「これ……本当に下りてるか?」
「ええ、私も同じことを思っていたわ」
下りても下りても最後の段に到着しない。何かがおかしい。
先頭を歩く斥候が足を止めた。
必然的に後ろを歩く三人も立ち止まる。
すると驚いたことに後方へ、つまり上方へ少しずつ階段が動いているではないか。
つまり勇者たちは、ほぼ進んでいなかったことになる。
「じゃあ、階段が動くスピードよりも速く駆け下りればいいってことか?」
いまにも勢いをつけて駆け下りようとする勇者を、斥候が慌てて止める。
「待て! それこそがトラップかもしれない」
ではどうしようかと顔を見合わせていた時、どこからか大きな歯車が作動するような音が聞こえてきた。
ゴゴゴ……ガンガン!と。
そして、階段の動きが止まった。
「この階段の装置ではなさそうだ」
横壁に耳を当てた斥候が言う。
「よくわからないが、別の装置が動きはじめたから、こっちが止まっているのかもしれない」
「じゃあ、いまのうちに急ごう!」
こうして四人は、動く階段を切り抜けた。
その先の通路も慎重に進む。
しばらくして一行は、広場のような場所に出た。
ずっと石やレンガの床を歩いてきたが、ここは地面が土で湖がある。
全体を照らそうと光魔法を大きくした賢者が、ヒッ!と小さな悲鳴を上げた。
「どうした!?」
「カエルが……!」
賢者が顔をそらし指さした方向には、壁から突き出るように石造りのカエルの頭がある。
いつも無表情な彼女だが、カエルだけはどうしてもダメらしい。
「大丈夫だ、作り物だよ」
勇者が笑う。
なぜあんなところに……という疑問ならあるが、様々なトラップが仕掛けられているこの祠に、まともな場所などありはしないと思えてくる。
湖から這い上がってくるスライムを蹴散らしながら進むと、奥に通路が見えた。
斥候がしゃがんで、地面のぬかるみと石像のカエルに交互に視線を走らせている。
「油だな。しかも、この足跡は新しい……」
「先客がいるってことか?」
「わからない。さっき階段で聞いた音は、その先客が作動させたトラップだった可能性はあるな」
すっくと立ちあがった斥候が静かに言う。
「油で滑らないように歩くこと。周りに手を触れない。もしも奥に誰かいても驚かないこと。いいね?」
残りの三人が頷いて、慎重に足を進める。
通路の奥にある扉は開いていた。中は真っ暗だ。
ここもトラップがないことを確認してから足を踏み入れた。
賢者の光魔法で照らしてみると、小さな部屋だった。
何を意味するのか、床に砂山があるだけで誰もいない。念のため、砂を散らさないよう慎重に避ける。
女神像が祀られている奥の祭壇には、白い盾が置かれていた。
「これはまさか……試練の祠を踏破した報酬か?」
勇者が盾を持ち上げる。
よく見ればそれは、白ではなく虹色の輝きを放っている。
「ユニコーンの盾かもしれない。はじめて見た」
聖騎士が感嘆のため息を漏らす。
「ユニコーンの盾……すごいな!」
勇者が目を輝かせる。
勇者一行はありがたくユニコーンの盾を頂戴し、小さな女神像に祈りを捧げる。
直後に作動した転移魔法によって、祠の外へと出たのだった。
外はすっかり夜になっていた。
時間の間隔を失っていたが、どうやら半日間、祠に籠っていたらしい。
繋いでいた馬たちは、みんなぐっすり眠っている。
「よし。馬たちが目を覚ますまで、俺たちもここで休憩だ」
勇者が笑うと、残りの三人も頷きながら笑う。
ようやく肩の力を抜いて、お互いの健闘を称え合ったのだった。




