コロッセオにて(2)
翌朝。
「なんだか……まだ体が熱いですわ。火鍋おそるべしですわね!」
朝食を食べる気になれないまま、ローゼリンデはマーブルの様子を見に厩舎へ向かった。
マーブルは馬房でおとなしく飼い葉を食べている。
愛馬の首を撫でて朝の挨拶をした後、彼女は厩番に昨夜と同じことを尋ねた。
「勇者様たちを見かけませんでしたか?」
「見かけたわけじゃないが……」
昨夜とは違う含みを持たせた返答に、ローゼリンデは色めき立つ。
「どんな情報でもかまいません。教えてくださいまし!」
「今日から闘技大会が開かれるだろう? そこに勇者が出場してもおかしくないと思ってるってだけだ」
闘技大会とは、コロッセオで定期開催される力比べだ。
トーナメントを見事勝ち抜いた優勝者は、誇り高き栄誉と多額の報酬を手にするという。それを求めて、世界各国から我こそはと自負する猛者たちが集まるのだ。
また、観客たちはベットを行い、出場者のうち誰が優勝するかをお金を賭けて予想する。
「今日からですの?」
ローゼリンデはサファイヤのような目を瞬いた。
なんといういいタイミングでコロッセオに来たのだろうか。
勇者たちも、先代に倣って闘技大会開催に合わせてここへ来ている可能性が大いにある。
「優勝の副賞に豪華な装備品があるんだ。勇者がそれを狙っていてもおかしくねえぐらい、希少価値の高い代物だぜ?」
なるほど!と、ローゼリンデは大きく頷いた。
勇者たちが闘技大会へ出場する可能性がさらに増した。
「ありがとうございます! 闘技大会をのぞいてまいりますわね!」
ローゼリンデは、はやる気持ちを抑えながら闘技場へと向かった。
石造りの立派な闘技場は、五百年以上前から存在しているのだという。
その闘技場の入り口、「受付」と書かれた看板の前には人だかりができている。
参加希望者だろうか。
(もしかすると、この中に勇者様が!?)
懸命に見つけようとしたが、上背のある参加希望者たちが立ちはだかっていて思うように探せない。
想像以上の人数でごった返している。
「勇者様ー?」
つま先立ちしながら呼んでみたけれど、応答はない。
どうしようかと焦るローゼリンデに、背後から声がかかった。
「嬢ちゃん、こっちだよ!」
「はい?」
振り返るローゼリンデの腕を掴んだつなぎ姿の男が、彼女を引っ張っていく。
その腕には「係員」と書かれた腕章が巻かれている。
「そっちは白戦部門の列だ」
「白戦部門……?」
係員が振り返って苦笑する。
「武器を持たずに戦うヤツらってこと。武器を持ってるヤツらはこっち」
「ご親切にありがとうございます」
どうやら探す場所をまちがえていたようだ。
(勇者様を探していることに気づいて、案内してくださるのね。なんて親切なのかしら!)
ローゼリンデはそう信じて疑わないまま、腕を引かれて「武器使用部門」の列に案内された。
周りをよく見ると、受付は四か所あった。
武器使用部門・白戦部門・魔法部門・人外部門の四つのブロックに分かれているようだ。
勇者の武器は聖剣だ。
いまはローゼリンデが預かっているけれど、闘技大会に出場するとなれば武器使用部門以外には考えられない。
「はい、こちらへ並んでください」
係員がローゼリンデの列の最後尾に案内した。
ここが武器使用部門の参加者が集まる場所らしい。
勇者らしい人物が見つからないまま、受付台の前まで来てしまった。
「お名前は?」
「ええっと、わたくしは勇者様を探しておりまして……」
「はい、ユーシャさんですね。参加費用をお願いします」
すでに勇者は中に入っているのかもしれない。
ここから先に進むには、費用がかかるらしい。
支払える額でよかったと思いながら、ローゼリンデは参加費用を手渡した。
「あの、それで……」
「次の方どうぞ~」
何か誤解がありそうだと思いつつも、受付係がとても忙しそうで口を挟めない。
後ろにもたくさんの人が並んでいるため、参加者ではないと言えないまま先へと進んだ。
「とにかく、早く勇者様にこの剣をお返ししなくてはなりませんわ!」
勇者はどこにいるのかと、キョロキョロしながら探すローゼリンデは、後ろから押される形で闘技場の内部へと入っていった。




