みじかい小説 / 038 / 待ち受け画面
10月になった。
今月も10日が近づいている。
俺はスマホを取り出し待ち受け画面に目をやる。
そこではいつも、愛娘の葵が満面の笑みをたたえている。
葵が10歳になったとき、俺は妻と離婚した。
主に俺の仕事が忙しすぎたためのすれ違いが原因だ。
妻とは喧嘩別れしたわけだが、葵のことだけが気がかりだった。
葵とは、離婚した後も、毎月10日に会うことになっている。
しかし会うたびにどんどん成長していくので毎回驚かされている。
見た目だけでなく、中身もどんどん変わってゆく。
先月にはまっていたアニメが、次の月には推しの歌手に変わっていたりするのだ。
忙しい合間を縫ってそのアニメを見たとしても、次の月には「パパ、古いよ」などと言われたりしてしまう。
まったく、子供の成長というものは。
葵にとって、俺はどんな存在なのだろう。
私を置いて遠くに行ってしまったお父さんだとしたら、多少なりとも恨まれているに違いない。
そう思って会うたびに好きなものを買ってやったり、おいしいものをおごってやったりするが、葵に笑顔は見られない。
そう、妻と離婚してから、葵は俺に対して笑顔を見せてくれなくなったのだ。
妻の前でもそうなのだろうか。
そんなことを考えていると葵からラインが入った。
「彼氏ができた」とある。
俺はため息をついた。
どんどん大きくなり、どんどん遠くなっていく娘を思う。
離婚前なら「今度会わせてくれ」と返信したところだが、今の立場で同じことは言えない。
「そうか、よかったな」と俺は短く返した。
「ところで、10日は普通に会えそうか?」と俺は続けた。
しばらくして「ごめん、彼氏とデート」と返ってきた。
離婚して以来、はじめてのことである。
「そっか、楽しんでこい。またな」と返し、俺はスマホをポケットにしまった。
こうしてどんどん距離が開いてゆくのだろうか。
俺はもう一度スマホを取り出し、その待ち受け画面に目をやるのだった。
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