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商人風おじさん、グスタフ


 待っている間にも家の中から何人もの男たちの断末魔のような悲鳴や、何かが派手に壊れる大きな音が聞こえてくる。ジョージは

ちゃんと頑張ってるみたいだね!

 ボクがそう思って感心していると入口から血相を変えた身なりの良いおじさんが飛び出して来たので、ボクは思わぬ幸運に

喜びながらも瞬時にディックに命令してそのおじさんを拘束してもらい、素早く額に手を当てていつものように「テイム!」と

叫びながら強く念じる。


「何だお前らは! 中にいる奴等に恨みがある連中か?! だとしたら私は関係ない。持っている金なら全部やるから見逃してくれ!」


(あれっ? もしかして、テイム出来てない?)


 普通ならボクが命令するまで勝手に喋ったりしないから、テイム出来てないっぽい。おかしいなぁ、ボクのスキルは犯罪者のおじさんなら

誰でもテイム出来るんだと思ってたんだけど、違うのかな?


(……う~ん。考えてもわからないから、後回しにしよう)


 そう思って我に帰ったら、いつの間にか家の中が静かになっていたので、ボクは念のためゆっくりとドアを開けて中の様子を確認してみる。

 そして、暗くてよく見えなかったからランプで床を照らしてみると、そこには借金取りのおじさんたちが手足を変な方向に曲げられてたり、

顔が変な方向を向いてたりして、折り重なるように倒れていた。……この人たち、本当に生きてるのかなぁ? ジョージにはちゃんと

「殺さない程度にやっつけて」って命令したんだけど、やっぱりちょっと難しかったみたい。


「ジョージ、お疲れ様。そっちのお肉は食べちゃっていいよ」


「ニク……!」


 ボクがどう見ても死んでそうな借金取りの一人を指差してそう言うと、ジョージは返り血で汚れた顔をほころばせて嬉しそうに笑った。

 可愛いなぁ。手加減に関してはこれから先の経験で何とかなるかもしれないし、叱るよりも褒めて伸ばすことが大事だよね!


 さて、と。何人テイムできるかな? ボクは転がっている借金取りたちを見下ろし、まだ意識がありそうな人たちから先にテイムしていく。

 どうやらボクのスキルは相手の意識が言葉を認識できる程度はある状態じゃないと、テイムできないみたいなんだ。不便だよね。


(部屋の中の5人のうち1人は完全に死んでるっぽいし、残りの4人のうちの1人は意識がはっきりしてない。テイム出来たのはたったの3人だけかぁ……)


 思ったよりも少ない収穫にボクがガッカリしていると、急に背後から叫び声が聞こえてくる。


「き、貴様ら、こんなことをして無事に逃げられると思っているのか?! 私は衛兵にも知り合いが多いんだぞ!」


 あ、身なりの良いおじさんは放置してたんだった。でも衛兵さんに知り合いが多いからって何なんだろう? 捕まってもおじさんは

無罪放免になって、ボクたちだけが一方的に有罪になるってこと? テイムも出来ないみたいだし、もう必要ないかも。


「……じゃあ衛兵さんにバレないように、おじさんにはここで死んでもらうしかないね!」


「待て! さっきも言ったが、私の手持ちの金は全部持って行っていい。だから私は見逃してくれ! 当然だが、私はこの件に関して衛兵にも一切通報しないと誓う!」


「通報しないなんて口約束は信用できないし、お金が欲しいならおじさんを殺してから奪ったっていいんだから、それは取引になってないと思うよ?」


 大人はいつも自分が行動に移す気もない正しさや誠実な行いを子供に提示して、ボクたちを丸め込もうとするんだ。ボクはもうそのやり口を

知っているから騙されないよ?


「……私が今持っている金はほんの一部に過ぎない。取引に必要な分を持って来ただけで、他に預けている金が大量にある。それもお前たちにやるということでどうだ?」


「そんな実際にあるかどうかも分からないお金はいらないよ。これからジョージのお腹の中に入るおじさんを、知り合いの衛兵さんが見つけてくれるといいね!」


「ふざけるなクソガキ! どうして俺をそんなに殺したいんだ?! 俺はそこに転がってるバカどもとは違う、価値のある人間なんだぞ! こんなことで死んでたまるか!!」


 叫びながら身なりの良いおじさんはディックの拘束から逃れようと必死に暴れる。でもおじさんの体が激しく揺れているだけで、拘束している

ディックの体は微動だにしていなかった。やっぱり合成して作ったおじさんのパワーはすごいね!


「そんなに自分に自信があるんなら、ボクたちに協力してよ。そうしたら命だけは助けてあげる」


「ふん! 協力だと?! ガキが偉そうに! だが、助けてくれるというなら条件次第では協力してやってもいい」


「それは、条件さえ良ければボクに『従う』ってことでいいのかな?」


「ああ、そういうことだ。全ては条件次第だがな」


 そう言って、不敵な笑みを浮かべる身なりの良いおじさん。……これ、どう見ても素直に協力する気なんてないよね? でも、ボクの本当の目的は、

実際におじさんに協力してもらうことじゃないから、別に良いんだ!


「テイム!」


 ボクは再びおじさんの額に手を当てて、もう一度「テイム」しようと試みる。なんだか今ならいけそうな気がしたから試してみたけど、今度はどうかな?


「ボクはコリン。おじさんの名前は?」


「……私の名前は、グスタフ・ブラントです。コリン様」


 ……これはどうなんだろう? 急にボクのことを『様』付けで呼び出したから成功なのかな? ボクのスキルの成功条件が、いまいちはっきりしないなぁ……。


「じゃあ、みんな! とりあえず人目の無いところまで移動するからついて来て!」


 夜中に大きな物音を立てたし、人が死んでいる現場でのんびり話していても良い事なんて何もないもんね! とりあえず、いつもジョージを

隠している下水道まで移動しよう!


「ジョージも食べてるところで悪いけど、ちゃんとお肉を持って移動してね!」


「ニク……アトデタベル!」


「うんうん。ジョージは偉いね!」


 ボクは座り込んで生肉を食べているジョージのツルツルの頭を優しくなでる。さっきテイムしたグスタフ以外の借金取りのおじさん3人を

ジョージと合成すればもう少し賢くはなりそうだけど、この愛嬌のある顔が変わっちゃうだろうし、性格も可愛くなくなっちゃいそうで嫌なんだよなぁ……。

 ジョージは戦闘用だし、しばらくはこのままでいいかな。


「ところでグスタフ。さっき言ってたお金って、いくら持ってたの?」


 もう慣れてきて真っ暗な下水道のジメジメした臭い空間でも少しは落ち着けるようになってしまったボクは、さっきテイムする前にグスタフが

言っていたことを思い出して質問する。銀貨でも持ってたら孤児院の運営の足しにはなりそうだし、もらっておこうかな。


「金貨にして50枚ほどでございます。コリン様」


「き、金貨50枚?! そんなに持ってたの?!」


 ボクとディックが日雇いで一日働いて稼いだお金がだいたい銀貨1枚で、金貨1枚は銀貨20枚分の価値があるらしいから、金貨50枚だと……

えっと……まあ、何年か働かないと手に入らないくらいの大金だね!


(でも、さすがに金貨50枚もセシリアお母さんに渡したら絶対に受け取ってもらえないだろうし、どこから持って来たのか疑われちゃうよね……)


 これはどうすればいいかなとボクが考えていたら、そもそも目の前のグスタフが市場で見かけたやり手の商人風の身なりをしていることに気付いて、

良い方法を思い付いた。この方法ならセシリアお母さんに疑われることなく、孤児院の支援ができそうだ! 後でグスタフと細かい部分の打ち合わせをしよう!

 でも、その前にやっておきたいことがあるんだよね……。


(借金取りのおじさん3人は合体させた方が良いよね? 顔が変わるから孤離院のみんなにもバレなくなるだろうし……)


 そう考えたけど少し心配なことがあった。それは、今まで普通のおじさんだけを「合成」したことがないってことなんだよね。ディックは

殺人犯のおじさんと理性が崩壊した「野良おっさん」の合成体だし、ジョージは「野良おっさん」のみの合成体だ。グスタフはまだ「合成」していないけど、

それはこのおじさん3人の合成の結果次第で考えようかな。


「シンセサイズッ!」


 声を上げながら、ボクはおじさん2人の頭を掴んでぐっと重ね合わせる。すると重ね合わせた頭が、まるで粘土のようにぐにゃりと融合して一つになっていき、

次第にその体も重なり合って、2つの体が1つになっていく。


「シンセサイズゥ!」


 ボクはもう一度、声を上げながら「合成」して一人になったおじさんの頭を掴み、残ったもう一人のおじさんと重ね合わせる。合計で3人のおじさんを

重ね合わせた合成おじさんは身長も上がり、体にも厚みが出て、見た目からして元のおじさんたちよりずっと強そうだ。


「ボクはコリン。おじさんの名前は?」


「……名前……な゛まぇ?」


 ディックやジョージは名前を聞いてもわからないって言うからボクが名前を付けたんだけど、理性のあるおじさんだけを合成した場合は

どうなるんだろう? 合成した3人のうちの誰かの名前になるのかな?


「あ゛あぁぁーッ! うわあ゛あぁぁーッ!」


(あれ? もしかして、失敗しちゃった?)


 急に野太い声で叫びながら頭を抱えてうずくまってしまった合成おじさんを見て、ボクは初めて「合成」を失敗したと感じた。

 う~ん「野良おっさん」同士を際限なく合成したジョージは問題なかったのに、普通のおじさん同士を合成するとこうなっちゃうってことは、

やっぱり理性のあるおじさん同士は合成しない方がいいのかなぁ? だとしたら、グスタフはそのままで運用した方が良さそうだね!


「ジョージ。もうそのおじさんも食べちゃっていいよ!」


「……ニク! イッパイ! ウレシイ!!」


「うんうん。良かったね」


 処分するのはちょっともったいない気もするけど、情緒が安定していないおじさんは運用にリスクがあるからいらないかな。意識が戻らないおじさんも

死んでるみたいだからジョージにあげたし、結局テイムできたのはグスタフと見張りのおじさんだけなのはガッカリだけど、その分はグスタフに頑張ってもらわないとね!


 そう考えながらボクはディックとグスタフと見張りのおじさんを連れて、ジメジメした下水道を後にする。合成おじさんの絶叫はボクが下水道の入口の

梯子を登りきる頃には、もう聞こえなくなっていた。


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