パーティー結成?
「……あの、コリンくん。申し遅れましたが先程は危ないところを助けて頂いたこと、心より感謝いたしますわ」
「えへへ。困った人を助けるのは当たり前のことだって、教わってるからね!」
依頼を達成するために襲われて奪われたらしい荷物を手分けして探している最中に、近付いて来たチェルシーさんに改めてお礼を言われた。ちゃんとした
お礼を言われるとなんだか照れちゃうなぁ。本当は助けるかどうか少し迷ってたけど、結果的には助けて正解だったね!
「……チェルシーさん。思ったんだけどこれって奪われた荷物が食料とかなら、もう残ってないんじゃないのかな?」
「荷物が食料だけだったなら、そうですわね。つまり奪還を依頼された荷物というのは、食料以外のものを指しているということですわ」
ずっと探しているのに荷物が見つかる気配が全くないので、もしかしたらもう存在しないんじゃないかと疑問に思ったボクがチェルシーさんに問い掛けると、
思ったよりずっとまともな答えが返ってきて、ボクは少し驚いた。
(……なるほどね。『野良おっさん』が食料と勘違いして奪っていった荷物は、食べ物じゃないと分かって荒らされずにどこかに放置されている可能性があるってことだね!)
なら、この広い荒れ地をこれだけ探しても見つからないってことは、どこか巣穴のような場所に持ち込まれているんじゃないかな? 森みたいな
場所の中も探してみた方がいいのかもしれない。ちょうど近くに木が密集して生えている怪しそうな場所もあるし、もしかしたらここに何かあるかもね。
「そ、そんな薄暗い場所に入って行って、死角から襲われたらどうするつもりなのですか?!」
「死角はディックがフォローしてくれるから大丈夫だよ。それにほら、人が歩いた形跡があるからここで当たりかもしれないよ?」
地面の草が踏み固められた跡や、顔に当たりそうな高い場所の枝が不自然に折れているところを辿っていくと、ボクとディックは岩陰に隠された
小さな洞穴の入口がある場所に辿り着いた。
「ディック、中を捜索してきて」
「……わかった」
さすがにボクには何が潜んでいるか分からない洞穴に入るほどの勇気はないから、中の捜索はディックにお願いすることにしたよ! でも、ボクの予想通り
洞穴の中には宝石の原石や上質な織物、そしてそのままじゃ食べられない小麦粉の布袋なんかが置いてあったみたい。
(他にはお金なんかも置いてあったみたいだけど、これはボクたちが貰っておこっと!)
「野良おっさん」はコインを集める習性があるんだって! 昔、人間だった頃の名残でそうなっちゃうらしいんだけど、お金があったって
使えないのに不思議だよね!
まぁ本当なら洞穴にあったお金も依頼主に渡すべきなんだろうけど、そうすると金貨1枚の報酬を得るために明らかに金貨1枚分以上の
価値がある荷物を渡すはめになっちゃうから、ちょっとバカらしいよね。
だって、宝石は別として織物や小麦粉は商人の人が売らないと本来の価値では売れないかもしれないけど、お金は誰が扱っても同じ価値なんだから
素直に渡す意味がないでしょ?
(でも宝石っていってもこれは原石みたいだし、ボクは目利きなんて出来ないから今回は素直に渡しておこうかな……)
グスタフに頼めば宝石どころか織物や小麦粉までちゃんとした価値で売却してきてくれるんだろうけど、もしかしたら今回の依頼の「荷物」に
これらの品物が全部含まれているのかもしれないから、勝手なことは出来ないんだよね。これは依頼票の「荷物」に何が該当するのかちゃんと記載していない
書き方がずるいんだけど、まぁ最初の仕事だし授業料だったと思って次からはこういう曖昧な依頼は受けないようにしよっと。
「チェルシーさん。荷物は見つけたけど、持って帰るための馬車とかは用意してるの?」
「ありませんわ。こんなに荷物の量があるとは思いませんでしたので……」
元々が襲われた馬車に積んであった荷物だから、結構な数の布袋に入った小麦粉があった。食べ物だと思って洞穴まで運んだけど袋を開けてみたら
ただの粉だったから手を付けずに放置されてたっぽいね。でもディックが居るとはいえ、これを全部担いで持って帰るのは大変そうだ。
どうしよう? 最初に宝石と織物だけ持って帰って、小麦粉もあったけど重くて運べないんで馬車代を出してくれるなら持って来ます。とでも言えばいいのかな?
でも、余計なことを言うと「その小麦粉も『荷物』に含まれているのだから、持って来るのが当然でしょう?」とか言われちゃうかもしれないから、
黙っていた方がいいのかな?
「……すべてを持って帰るのは不可能ですし、価値の高い宝石と織物だけ持って帰りましょう」
「うん。ボクもそれでいいと思うよ!」
宝石と織物だけでも十分に金貨1枚を上回る価値はあると思うし、チェルシーさんが何て言うのかが心配だったけどボクと考えが一致したみたいで良かった。あとは
無事に王都へ帰るだけだね!
「コリンくんは、どうして傭兵ギルドに登録したんですの?」
「ボクがいる孤児院の運営が厳しいみたいだから、少しでも助けになるようにお金を稼ごうと思ったからだよ! チェルシーさんは?」
王都への帰り道、宝石や織物が入った木箱を軽々と担いで先行するディックの後ろでボクとチェルシーさんが並んで歩いていると、急にチェルシーさんが
話しかけてきた。とっさに聞かれたから思わず本当のことを話しちゃったけど、別に聞かれてマズいことは言ってないよね?
「ふふ、よくぞ聞いてくれましたわ。それはもちろん、ワタクシが自立した一人前の淑女であることをこの世に知らしめるためですわ!」
「へー、そうなんだ」
なんか思っていたよりもずっとどうでも良さそうな理由だったんでボクはついそっけない反応になってしまったけど、チェルシーさんはそんなボクの反応を
気にもしていないようで、一方的に喋り続ける。
「そして『お前は見た目だけは良いから、さっさと何処かに嫁に行け!』なんて言い捨てたお父様を見返してやるのですわ!」
「ふーん。うまく行くといいね」
ボクがそっけない相槌を返しているのにも構わず、チェルシーさんは熱っぽく語り続ける。その話によるとチェルシーさんは王都から離れた場所に
領地を持っている由緒正しい貴族さまの四女らしい。えっ? なんで貴族さまの子女だなんてすごい人が賞金稼ぎなんてやっているの? と、急に
興味が湧いて聞いてみたら、今はさっき言ったように父親を見返すために家出して傭兵として身を立てようとしている真っ最中なんだってさ。
「ところでコリンくん。あのディックと呼んでいた殿方とは、どういうご関係ですの?」
「……ディックは他人と話すのが大の苦手で、代わりにボクが話してあげてるんだ。そして、その見返りにボクの目的に協力してもらってるんだよ!」
先行するディックの、感情の読めない後ろ姿を見ながら尋ねてきたチェルシーさんにボクはそう答える。まぁ、ウソではない……よね? ディックが
無口なのもボクの目的に協力してもらっているのも、その通りなんだし……。
「そうなんですのね。ではコリンくんは、ワタクシと組んでお仕事をする気はございませんか?」
チェルシーさんはそのハニーブラウンの瞳でボクを見据えながら、緊張した顔で尋ねてくる。ディックのことを聞いてきた時点で何となく
予想は出来ていた申し出だったけど、どうしようかなぁ……。
「……組んでもいいけど、それって単にパーティーを組むってこと? それとも新たにクランでも立ち上げる気なのかな?」
「……そうですね。とりあえずはお試しでパーティーを組むということで、どうでしょうか?」
「うん。ボクはそれでいいし、ディックにも後でそう伝えておくね」
チェルシーさんの申し出をボクは快諾した。まぁ、どう考えても「野良おっさん」をあっさりと蹴散らしたディックの強さを見込んでの申し出なんだろうけど、
一応はあんなに威力のある魔法を使える人なんだし、本人から聞いた話から判断するとそこそこの実力はあるんじゃないのかな?
ボクはまだ新人だし目立ち過ぎて不正を疑われたり、ギルドの時みたいに殺しちゃダメな人に絡まれたりするのは面倒だからお互いにメリットがある話だと思うんだ。
「……本当に、ディックさんの取り分が無くてもよろしいのですか?」
「ディックにはボクの取り分から必要なだけ渡すから、チェルシーさんは気にしなくていいよ!」
傭兵ギルドに持ち帰った宝石と織物を納品した際に小麦粉のことには一切触れなかったんだけど、結局は何の問題もなく依頼を達成したことに
なっちゃったから色々考えてたのに損した気分になったよ! そして、報酬の金貨1枚を両替して銀貨20枚をチェルシーさんと2人で山分けしたんだけど
「何でディックの分の取り分が無いの?」みたいなことを聞かれて困っちゃった。
そういえば、セシリアお母さんも結構な金額を稼いでいそうなディックがいつまでも孤児院に居候していることを少し疑問に思ってるみたいだし、
そろそろディックがお金を必要としない、ちゃんとした理由を考えないといけないのかもしれない……。
「では、パーティーを組んでお仕事をしたい時には孤児院を訪問すればよろしいのですね?」
「うん。でも他の仕事をすることもあるから、来るなら出来るだけ早朝に来て欲しいな!」
それから別れ際に仕事の連絡をしたい時はどうすればいいのかとチェルシーさんに聞かれたから、その時は孤児院に来てねと言っておいた。でも
セシリアお母さんにバレたら傭兵なんて危険だと言われて反対されそうだけど、とっさに他の連絡方法を思い付かなかったんだから今回は仕方ないよね!
何にしろこれでボクが稼げるお金はぐんと増えそうだし、そろそろ孤児院の修繕や増築にもお金を掛けていきたいな!




