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自称天才魔法使い、チェルシー


 その日のうちにボクたちは早速、依頼票に書かれた場所へと向かった。場所は王都の城壁から続く街道を少し外れた岩と背の高い雑草ばかりの荒れ地。

 依頼者は街道を通った際に近くにあるこの荒れ地にいた野良おっさんの群れに襲われたらしいけど、今は野良おっさんどころか

人が滞在していたような形跡すら残っていなかった。


(うーん、この辺りを住処にしているわけじゃないのかな?)


 そう思ってボクが高い岩の上から周りを見渡していると、遠くの方で何かがキラリと光った気がした。


「あれ、なんだろう? なんだか人がいるみたいだけど、あれが『野良おっさん』なのかな?」


 どんな野良おっさんがいるのかワクワクしながらも、バレないように注意しながら近付いて小高い丘から様子を見てみると、野良おっさんの群れは

一人の人物を輪のように取り囲んでいた。そして、その中心にはピンク色のフリルやリボンがたくさん付いた、やけに派手なローブを着ている女の子がいる。

 歳はリズお姉ちゃんと同じくらいかな? 大きなとんがり帽子を被り先端に宝石のようなものが付いた木製の杖を持ったその姿は、いかにも

「私は魔法使いです」って言わんばかりの格好だね!


 でも、なんで街中でもないのにそんなファッション性を重視したような格好をしてるんだろう? ちょっと変わった人なのかな? だとしたら嫌だなぁ、

あんまり関わりたくないなぁ……。


 しかし、ボクがそんなことを考えているうちにもその女の子を取り囲む野良おっさんの輪はじりじりと狭まっていく。それも王都の下水道で見掛ける

小柄な野良おっさんだけでなく、大柄で筋骨隆々とした野良おっさんも混じっているからやっぱり助けないといけなさそうだね……。


「ふっ、追い詰めたつもりでいるのでしょうが逆ですわ! ワタクシがあなた方をおびき寄せたのです!」


 そう言って風に揺れるピンク色のツインテールをなびかせながら、女の子は構えた杖を頭上に掲げる。


「最後にその目に焼き付けなさい、ワタクシの究極魔法を! エクスプロージョン!!」


 女の子が高らかにそう叫ぶと、杖の先から爆音と共に炎と岩が混じった強烈な衝撃波が同心円状に放たれ、取り囲んでいた屈強な野良おっさんたちが

その身を炎に焼かれながら、高速で飛来した岩の直撃をくらって一斉に吹き飛んでいく。


(わぁ、すごい魔法! これならボクが助けに入る必要はなさそうだね!)


 てっきりボクはそう思っていたんだけど衝撃波によって巻き上げられた土煙が収まると、倒れているのは小柄な野良おっさんだけで筋骨隆々な

大型の野良おっさんは、傷を負いながらもそのほとんどがむくりと立ち上がってきていた。


「サケ……カネ……オンナ……バクチ!」


 大柄な野良おっさんが濁った目からよだれを垂らし、自身の欲望をぶつぶつと呟きながら一歩、また一歩と女の子ににじり寄る。


「そんな……ワタクシの究極魔法で倒せないなんて……」


 女の子が困惑した表情でつぶやく。その声色には明らかな焦燥感がにじんでいた。でもなんで焦ってるんだろう? もう一発、さっきの魔法を

撃てばいいだけじゃないのかな?


「グヘヘ……オンナ! サケモッテコイ!」


「いやぁぁぁ! だ、誰か助けてくださいましぃー!」


 誰かって言われてもここには他にボクとディックしかいないから、ボクたちが助けるしかないよね?


「ディック、とりあえず助けに行こう!」


「……わかった」


 ディックとボクは丘を駆け下りると一番近くにいる大柄な野良おっさんに向かって一直線に走り、距離を詰めていく。そして、その気配に気付いて

こちらに振り向いた野良おっさんの顔面に、ディックはダッシュの勢いを保ったまま体重を乗せた重いパンチを叩き込んだ。


(……うそでしょ?! 今ので倒れないの?!)


 顔面にパンチをくらった野良おっさんはよろけながら後退りするも、すぐに体勢を立て直してディックに獣のような鋭い視線を送る。追放されて

野良おっさんになったおじさんは、身体能力が格段に上がるって聞いたことがあるけど本当だったんだね!


「……オトコ? オトコハイラナイ!」


「ディック、これを使って!」


 怒りを露わにしながら突進してくる野良おっさんを見て素手では分が悪いと感じたボクは、少し離れた場所からディックに向かって

精一杯の力で持っていた武器を投げる。もしものためにグスタフ経由で用意しておいたロングソードだけど、D級剣術スキルを持ったディックなら、

きっと使いこなせるはず!


「……サケ……サケハマダカ……」


 すれ違いざまにディックに胴を斬られた野良おっさんは、お酒への未練の言葉を遺してその場に崩れ落ちた。知らないけど、きっとお酒が大好きな

おじさんだったんだろうね。


「……オシリクライハ……サワッテオケバ……ヨカッタ……」


「……ニバンノ……ウマガキテレバ……カッテタ……」


 ディックの剣閃が煌めくたびに大柄な野良おっさんは次々と倒れていき、思い思いの未練を口にしながら息を引き取っていく。でも人生最後の言葉なのに、

聞いてて全然しんみりしないのは何でなのかなぁ?


「ふっ、あなた中々やりますわね。この天才魔法使いチェルシー・メイプルウッドが特別に褒めて差し上げますわ!」


 ディックが屈強な野良おっさんたちを全て倒し終えると、さっきまで情けない声で助けを求めていたお姉さんが急にすまし顔で貧相な胸を張り、得意気な口調で

ボクたちに話しかけてきた。でも、いまさら体裁を取り繕ってももう遅いと思うけどなぁ……。


「ボクは新人傭兵のコリン。こっちのおじさんはディックだよ。チェルシーさんも依頼でここに来たの?」


「そうですわ。でなければこんな殺風景な場所を、ワタクシのような気品あふれる淑女が訪れるわけがないでしょう?」


 わぁ! 自分で自分のことを「気品あふれる淑女」とか言っちゃうんだね……。まぁ、それはいいけど受けた依頼が同じならちょっと面倒なことになりそうだなぁ……。


「じゃあ、受けた依頼の報酬はチェルシーさんとディックで決闘をして、勝った方が総取りってことでいいのかな?」


「け、決闘?! どうしていきなりそんな物騒な話になるんですの?! 互いに協力した後で報酬を均等に分ければよろしいのではなくて?!」


「ボク知ってるよ。そうやって言葉巧みに丸め込んで最後に裏切るってのが、よくある大人の手口なんでしょ?」


 ボクが子供だからって簡単に騙せると思ったら大間違いだよ! それに普通に考えてもこんな周りに誰もいない危険な場所で、お互いに初めて会った他人と

信頼関係なんて築けるわけないよね?


「う、裏切りませんわ! だってワタクシ、しばらくの間は魔法が使えませんもの……」


「えっ? そうなの?!」


 そんな重要な情報を初対面の人にペラペラ言っちゃっていいのかな? さっきの魔法が使えないって分かってたら、もしボクが悪い人ならさっさと殺して

持っているものを全部奪っちゃうと思うよ? でも、ボクは悪い人じゃないからそんなことはしないけどね!


「なら、チェルシーさんもボクたちと一緒に依頼をこなそうよ! 報酬は山分けでね!」


「はい。ワタクシはそのつもりでしたので、それで構いませんわ」


 これで報酬は半分になっちゃうけど、やっぱりおじさん以外を殺しちゃうと後々問題になるかもしれないから協力できる相手なら協力した方がいいよね! こういう

話し合いによる平和的解決こそが人類の知性の証だよね!


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