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3人に勝てるわけねぇだろ!(フラグ)


 商人のグスタフのおかげで食費が浮いたからなのか、孤児院の財政は少しずつだけどマシにはなってきてるみたい。最近じゃ食卓に並ぶスープには

ごろごろとした野菜とお肉が入っているのが普通になり、みんなの顔の血色も前より良くなってきてると思う。


 でも、このままじゃ根本的な解決にはならない。

 そう考えたボクはもっと効率よくお金を稼げて、そのついでに新しい合成おじさんの「素材」も見つけられるかもしれない場所――つまりは

王都の外に出るため、傭兵ギルドに登録することにしたんだ。


 先行するディックが鉄鋲の打たれた重厚な扉を押し開ける。すると途端にむわっとした熱気と床にこぼれたエールの酸っぱい匂いがボクの鼻を突いた。薄暗い

室内のテーブルでは、顔を真っ赤にしたおじさんたちが大声でしゃべりながら下品な笑い声を上げている。そして、別のテーブルでは腕に刺青を入れた

屈強なおじさんたちが殺気立った目をしながら腕相撲をしていた。えっ? 本当にここが「傭兵ギルド」なの? スラム街の酒場じゃなくて?

 ボクは目の前の光景に困惑したけど、でもそれ以上に興奮して思わず声を上げちゃった!


「わぁ! ダメそうなおじさんがいっぱい居るね!」


「ああ゛?! クソガキ、てめぇ今なんて言った?!」


 近くに居た酔ってそうなおじさんが血走った目でボクを睨む。そして、その巨漢のおじさんはジョッキを床に叩きつけると立ち上がってこちらに近寄って来たけど

ボクはそれを無視して、受付カウンターに向かって歩き出した。室内の壁にはなぜか傷だらけの剣や槍なんかが飾ってあって、それがどういう意味を

持つのかはよく分からないけど、いかにも「荒くれ者の溜まり場」って雰囲気は出てるよね!


 そんなことを思いながらボクは受付カウンターに着くと、そこに頬杖をついて座っていた世の中にスレたような雰囲気のあるおばさんに声を掛けた。


「あの、登録したいんですけど……」


「坊や、それよりまず後ろの男を何とかしな」


「おい! なに無視してんだクソガキ、ぶっ殺すぞ!!」


 受付のおばさんがボクの後ろを顎でしゃくる。振り向いたその時には、ボクの肩を掴んだおじさんの巨大な拳がすぐそこまで迫っていた。

 ちょっと無視されただけですぐ手が出るんだ? ずいぶんと気の短いおじさんだなぁ。


「痛ってぇ! なんだテメェなにしやが……る……」


 でも、おじさんのその拳がボクに届くことはなかった。ボクとおじさんの間に音もなく割り込んできたディックが、おじさんの拳を鷲掴みにして受け止め、

さらにそれを握り潰す。すると、指が折れる鈍い音がボクにも聞こえるくらいに響き、おじさんの顔が苦痛に歪む。

 そして、ディックが追撃として股間に放った鋭い蹴りを受けると、おじさんはその巨体に見合わない情けない声を上げながらその場にうずくまってしまい、

小刻みに震えたまま動かなくなっちゃった。


「おいおい、ダッセーな! そんな貧乏くさいガキのお守りなんかにやられてんじゃねーよ!」


 声のした方を見ると顔に大きな傷があるいかにもガラの悪そうなおじさんたちが3人、テーブルでお酒を飲みながらニヤニヤとボクたちを見ていた。

 てっきりボクはさっきので場が静かになっちゃうと思ってたんだけど、ここのおじさんたちは元気があってすごくいいね!


「ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ。ケガしたくねぇなら、とっとと失せな!」


「お前みたいなガキには隣のパパとの砂遊びがお似合いだぜ!」


 ……隣のパパってディックのこと? 顔が全然似てないと思うし、ボクのお父さんは誘っても砂遊びなんて付き合ってくれなかったけどね。


「……ディック。おじさんたちが暇そうだから、死なない程度に遊んであげてよ」


「……わかった」


「なんだテメェ、やんのか?! 3人に勝てるわけねぇだろォ?!」


 煽るようなおじさんの叫びを無視して、ディックが無造作に3人との距離を詰める。すると一番近くにいたおじさんが椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、

ディックに殴りかかろうとしたところで、その動きが不自然に止まった。

 よく見るとディックはすでにおじさんの懐に入り込んでおり、その鳩尾に拳を深くめり込ませていた。


 おじさんは飲んでいたお酒を吐き出しながら崩れ落ち、その横腹をディックがさらに蹴り上げる。ボールのように吹っ飛んだおじさんは、傍観していた

客が座るテーブルに激突し、その衝撃で食器などが砕け散って大きな音を立てる。そこでようやく、ギルド内のみんなの視線が驚愕と興味の色を帯びて

ボクたちに集中したのが分かった。


(うーん。蹴りまでは必要なかったんじゃないかなぁ……)


 ちょっとやりすぎじゃない? 観戦しているボクはそう思ったんだけど、当のディックはボクの気持ちなどお構いなしに残りの2人を倒すべく

無表情のまま、直線的な動きで相手との距離を詰めていく。


「な、なんだよ! まだやんのかテメェ?!」


 立ち上がった2人目のおじさんは明らかに腰が引けている。そりゃそうだよ、ボクだってあんなボールでも蹴ったみたいに人を蹴り飛ばせる相手と

ケンカなんかしたくないもん。おじさんの言い方も「今のでもう気が済んだだろ?!」みたいな感じだし……。


「ぎゃあああぁ! 俺の目がぁ! 悪かった、謝るからもう許してくれぇ!」


 しかし、そんな風に怯んだ相手にもディックは容赦しない。堂々と正面から近付いておじさんの両耳を小指と薬指で掴んで固定すると、親指を両目に

容赦なくねじ込んでいく。さらに絶叫して許しを請うおじさんの言葉を完全に無視してその顔に何度も膝蹴りを叩き込むと、最後にディックはおじさんの

背中側から首に腕を回して頭を抱え、自らも仰向けに倒れ込むようにして抱え込んだおじさんの頭をギルドの固い木の床に叩きつける。

 そしてそれは、鈍い音と共に何かが潰れるような嫌な音を店内に響き渡らせた……。


(いや、明らかにやり過ぎだよっ!)


 このままだと3人目のおじさんはもしかしたら殺されちゃうかもしれない……。そんな風に思いながら残ったおじさんの様子を確認しようとしたら、

すでにいなくなっちゃってた。さっきまで閉じていた裏口らしきドアが開いたままになっているから、そこから逃げ出したみたい。まぁ、賢明な判断だよね。


 ディックの圧倒的な暴力を目の当たりにして怯んだのか、さっきまで騒がしかったギルド内がまるで水を打ったようにシーンと静まり返っている。床には

3人のおじさんたちがうめき声を上げながら転がっていたけど、ボクに絡んできたのが悪いんだから仕方ないよね?!


「えっと、傭兵ギルドに登録したいんですけど……」


「アンタ、良い度胸してるね。これだけの騒ぎを起こしたら、普通はとっくに逃げ出してるよ?」


「えっ? 絡まれたのを返り討ちにしただけなのに、何で逃げる必要があるんですか?」


 あっ、でもちょっとやり過ぎたかも……。もしかしたらディックは衛兵さんに捕まっちゃう可能性があるのかな?


「……面白い子だね。本当は登録は15歳からなんだけど、あんたとその連れは特別に登録を認めてあげるよ」


「あ、登録はボク一人でいいです。ディックはボクが居ないとまともに喋れないんで……」


 その後も受付のおばさんから色々な説明を受けて、登録料と引き換えに木で出来たFランクの粗末な登録証を受け取ると、ボクは心の中で両手を突き上げて歓喜した。


(やったぁ! これでボクも傭兵ギルド所属の賞金稼ぎだ!)


 傭兵っていったら昔は戦争に行ったりして稼ぐのが主流だったみたいだけど、すっかり平和になった今では依頼としては商人の護衛とか「野良おっさん」に

奪われた物資の回収とか、何でも屋みたいな仕事が多いらしいよ! でも、そのせいで今では傭兵じゃなくて賞金稼ぎって呼ばれることが多いんだって。

 そう言われてみれば確かに、壁に貼られてる依頼票はどれも「傭兵」って感じがしない個人からの依頼ばっかりな気がするね。なら、その中でも

できるだけお金になりそうな依頼を選ぼうかな。


「あ、これにしよう! 『野良おっさんに奪われた商人の荷物奪還』。報酬金額が金貨1枚だし初めての仕事にしては大変そうだけど、どうせならお金になる依頼を受けた方がいいよね!」


「…………」


 ボクが話しかけると、隣に立つディックは無言でこくりと頷いた。ギルド内で人目があるから一応は相談しているように見せるために話しかけてるんだけど、

何か喋ってくれないとボクが一人で勝手に喋ってるみたいでちょっと気まずいなぁ……。


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