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コリンの特別なスキルと夢


 女神アウロラさまを礼拝するボクが住むこのアストレア王国では、女の人の方が偉い。


 それは女神さまが女の人にばっかりすごいスキルをくれるからなんだって! だから、王都アメリアの整然とした

美しい街路で目を引くのは、きらびやかな鎧をまとった女の騎士さまや、立派なローブをまとった魔術師のお姉さんばっかりなんだよ!


 でも逆に男の人はあんまり良いスキルをもらえないし、もらっても役に立たないものが多いみたいで、いつも肩身が狭そうに

道の端っこを歩いているんだ。それに特に男の人の中でも不誠実なおじさんは、女の人からの申請ひとつで街から追放されちゃうっていう

厳しい法律まであるんだって! 怖いよね!

 だからもちろんこの国を治める王さまは女の人だし、街を守る騎士団長さんとか偉い役職の人はほとんどが女の人なんだって!


 ボクの名前はコリン。歳はお母さんたちと色々あってはっきり覚えてないけど、12歳かそれくらいの男の子だよ! 今は王都の外れにある

壁にツタが絡まり放題の古ぼけたレンガ造りの孤児院で暮らしてるんだ。ここはみんなにセシリアお母さんって呼ばれてる、いつも優しい

微笑みを浮かべている女の人が運営してるんだけど、みんな仲良しでとっても良い所だよ!


 それにボクは男の子だけど、実はみんなとは違うちょっとだけ特別なスキルを持ってる。


(みんなには内緒のボクだけの特別なスキル……。ふふっ)


 そのスキル名は【おっさんテイマー】っていうんだ。変な名前でしょ? スキル鑑定士をしてたボクのお母さんもスキルの詳細を知る前は

「何だか、珍しい名前のスキルね」なんて首を傾げて不思議がってたよ! でも、これが使ってみるとすっごく便利なんだ。


 お母さんが言うにはこのスキルはおじさんを「テイム」して、ボクの言うことを何でも聞く忠実なしもべにできるんだって。そして

それだけじゃなくて、テイムしたおじさんたちを「素材」にして新しいおじさんとして一つに「合成」できちゃうんだって!

 これってすごくない?! もっと強くてもっと多才な、ボクだけのオリジナルのおじさんを作れちゃうんだよ!


(いつか誰も見たことがないような……ボクの昔のお父さんみたいな強くてカッコいい、最高の合成おじさんを作ってみせるんだ!)


 ボクの頭の中には、昔の優しいお父さんの姿が今でもはっきりと浮かんでる。たくましい腕でボクを軽々と抱き上げて、高い高いを

してくれた大きくて立派なお父さん。あの時のお父さんのような最高の合成おじさんを作り上げて、みんなに見せた時に

「コリンくんのおじさん、強くてカッコ良くてすごいね!」って、いーっぱい褒めてもらうんだ!


 それがボクの夢。でも、今はまだ誰にも言えない秘密なんだよ。

 だってボクはまだ「半人前」だから、今のボクが作った「不完全な作品」じゃきっとみんな褒めてくれないもん。


 あっ、そうだ。ボクの「作品」が目標としてるお父さんの話をもっと詳しくするよ!


 ボクには昔、強くてカッコよくて面白い最高のお父さんがいたんだ! でも、優しかったお父さんは仕事が上手く行かなくなっちゃったって

ボクがお母さんに聞かされてからは、ずっと家に居るようになっちゃったの。


 日中でもカーテンを閉め切った薄暗い部屋で、お父さんはいつも昼間からお酒を飲んでいて、その真っ赤なお顔とボクをにらみつけるような

据わった眼はいつも赤く充血してて、昔のお父さんの優しい面影はどこにもなかった。


 家の中にはいつも優しかったお父さんと穏やかだったお母さんが怒鳴り合う声が響いてて、ボクは怖くて耳をふさぎながら部屋の隅でうずくまって

震えてた……。そしてある嵐の夜。その日は外では激しい雨が降っていて、家の中にはムワッとした熱気が漂ってたのを覚えてる。


 お父さんはいつものように床に転がった空っぽのお酒の瓶に囲まれて、ぐでんぐでんになりながら床の上で寝ちゃってた。そしてボクが

「そんな所で寝たら風邪を引いちゃうよ!」って体を揺すったら、目を覚ましたお父さんに「うるさい!」って言われて顔を殴られちゃったんだ。

 お父さんは全然本気じゃなかったと思うけど、まだ幼くて体が小さかったボクは吹っ飛んじゃって壁に頭をぶつけちゃったの。痛かったぁ。


 そしてボクは痛さと悲しさで泣きながら強く、強く願ったんだ。「お父さんが昔みたいに優しくなればいいのに」って……。


 するとその時に不思議なことが起こって、急にボクの胸の奥がぽっと温かくなるのを感じたんだ。たぶん、これがボクのスキルが目覚めた

瞬間だったんだと思う。そしてボクは本能的にそうしなきゃって思って、酔って足元のおぼつかないお父さんにゆっくりと近付いていって

その額に手を当てると「テイム」ってつぶやいたんだ。


 そしたらお父さんは急に無表情のまま喋らなくなっちゃって、困ったボクがベッドで寝るように言うと素直に従って、その時からボクの言うことを

素直に聞くようになったんだ! その時のボクはこれでまた前みたいにみんな笑顔で暮らせるようになるんだって思って、すごく嬉しかったんだよ!

 でも、結果から言うとそうはならなかったんだ……。


 前みたいに優しくなったお父さんを見たお母さんは最初は戸惑ってたみたいだけど、前と変わらない優しいお父さんの姿を何日も見るたびに安心したのか

涙を流してすごく喜んでいた。お母さんはもうお父さんを都市から追放して欲しいって市に申請してたみたいで、それもすでに認められてたみたいだけど

お母さんはそれを取り消して、今まで通りみんなで一緒に住むことにしてくれたみたい。


 でもある日。何でなのか急にボクのスキルを鑑定して、その能力の詳細を知ってからはボクたちのこと……ううん、ボクを

見るたびにその目に怯えの色が混じるようになっちゃったんだ。


 そしてある冬の寒い日の朝、窓から冷たい光が差し込む食卓の上に置かれた手紙を残してどこかへ消えちゃった。まぁでも、どこに行ったかはすぐに

お父さんに寝ずに捜索してもらって突き止めたんだけどね。ふふっ。


(でも、あの時のことはあんまり思い出したくないなぁ……)


 だからさっきも言ったけど、お母さんの時のこともあってボクのこのスキルのことは孤児院を運営するセシリアさんにも一緒に暮らすみんなにも、まだ内緒。

 ボクがいつか立派な「作品」を完成させた時にみんなをびっくりさせたいし、何よりそうなるまでに変な誤解を受けたくないからね!


 ボクのいる孤児院の朝は早い。窓から差し込む朝の光が部屋に舞った埃をきらきらと照らし、遠くから小鳥のさえずりが聞こえてくる。着替えたボクが

中庭に出ると、地面に置かれた木の桶の横で年長のリズお姉ちゃんがもう洗濯物を干していた。


「コリン! またアンタは朝からぼーっとして! こっちに来て手伝いなさい!」


 淡い赤色のポニーテールを爽やかな風に揺らし、そばかすの散った頬を朝のやわらかな陽射しに照らされながら、リズお姉ちゃんがボクの顔を見て

声を上げる。ボクにはいつもこうして大きな声でがさつに言うけど、本当はすごく優しいんだよ。


「はーい、リズお姉ちゃん!」


 ひんやりと澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込むと、ボクは元気よく返事してリズお姉ちゃんに駆け寄った。

 今日も一日頑張って、いつかボクの夢を叶えるためにこっそり「作品」に使うおじさんの「素材」探しもしなくっちゃね!


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