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8 無自覚の領域  〜 Michiru side


「みーちーる」

「え?」

一佳ちゃんが呆れたように私を見る。

「もう、ゼミ終わったよ」


 見回せば、教室に残っているのは私と一佳ちゃんを除けば、数人だけ。

「みちる、最後のほうの話、聞いてなかったでしょ」

残っていた数人も、もう出ていこうとしている。

「えっと、パワポのイラストを決めるって……」

「それは、優羽が得意だからって、たたき台は任せることになったから」

……そうなんだ。

「その後、来週の研修旅行の事を話してたんだけど」

聞いてなかった。

「ごめん、ちょっとぼんやりしてて」


 一佳ちゃんは、ふうと息を吐いて、

「岡山のヴィラに行くんだけど、現地集合になってるの。アオがお家の車を出してくれるって言うから、うちのグループで一緒に行こうって」

私の聞いてなかったところを掻い摘んで教えてくれた。


「もうみんな帰っちゃったね」

「ね、みちる、この後、お茶しない?」

久々に、一佳ちゃんと二人。ゼミの後は特に予定がないからオーケーした。



 一佳ちゃんは大学近くで一人暮らしなので、あまり足を伸ばすのもな、と駅前のチェーンカフェに入った。

「さっきのぼんやりは、ちょっとじゃない気がするけど」

何かあった? と一佳ちゃんが突っ込んで来る。


 さっきは……グループ発表の内容を話してたところまでは、ちゃんと聞いていた。

 パワポの話の前に資料とグラフをさっと纏めて、タブレットPCに打ち込むアオの、手を見てしまって。


 骨ばった形がメンズ感があるのに、指の長い綺麗な手。

 確かにその手と、手を繋いだのに、あれは幻だったようにも思えて。


 ……だって、無理じゃなかった。



「みちる」

一佳ちゃんの声で、心がここに戻って来る。

「また。考え事?」

「ごめん」


「いいけど……もしかして、この前の木曜一限、何かあったんじゃない?」

一佳ちゃんは、寝坊して一緒に講義を受けられなかったことを、また謝ってくれた。

「……将暉(しょうき)が、ね。一限の後、声かけてきて。ちょっと話した」

頼んだカフェラテは、猫舌の私にちょうどよく冷めている。

「やっぱり納得できないとかで」

「いい加減しつこいよね」


 でも、メッセージとか全部着拒して、とことん避けていたから、仕方なかったのかもと言うと、一佳ちゃんは、みちるは人がいいから、とまた息を吐く。


「でも、今度はもう無理だってわかってもらえたから。ちゃんと、さよなら出来た」

「だったらいいけど」

「うん、いろいろ考えちゃったりしたけど……将暉のことは一区切り、かな」

「みちるが大丈夫なら、もういいよ?」

ありがとう、一佳ちゃん。


 ゆっくりカフェラテを飲みながら、ゼミ旅行の集合は駅前ロータリーでとか、優羽ちゃんは東から来る他グループのワゴンに便乗することになったということを改めて一佳ちゃんから聞いた。

「優羽ちゃんだけ別なのって」

ちょっと、気になる。

「家の場所と車の事情でね、あっちの方は七人乗りのワゴンを出すみたいで。むしろ優羽も、そっちに乗るほうが楽だから、って」

そっか、それなら。


「それで、ね、みちる」

一佳ちゃんが珍しくちょっと言い淀んだ。


 二人とも飲み物を空にして、しばらく話した後のこと。

「私、好きな人がいて」

あれ? 一佳ちゃん彼氏いたんじゃ……?

「実は、前に話した彼とは、春に別れて」


 そうだったんだ……だから……少し前に、そうなのかと感じたことはあったけど。

「で、このゼミ旅行で頑張ってみようかな、って思ってて」


 一佳ちゃんが、水のグラスを持っている。いつもの一佳ちゃんにそぐわない、間の取り方。

「……アオ、なの」

少し頬を染めて。

「アオが、好き」

一佳ちゃんは、言った。

「みちるには、打ち明けた方がいいかなって思って」


「……ぜんぜん気がつかなかった」

私は、自分のことで一杯いっぱいで。

 こんなに、可愛いらしい一佳ちゃんを、初めて見た気がする。

「手強いかも、だけど」

何かを心に決めたように、一佳ちゃんは水を一口飲んだ。


「一佳ちゃんなら大丈夫、とか、軽々しくはいえないけど……」

私は、言葉を探してようやく、

「うん」

一佳ちゃんに促され、

「でも、心に留めておくね。私にできることがあったら、言って?」

そう言うことができた。

「ありがとう、みちる」

そう言って笑った一佳ちゃんは、とても綺麗だった。


 なのに何故か、その笑顔を見た私の胸には何か刺さったかのようで。その棘は、心に居座ってしまった。


 そんなふうに好きと言える一佳ちゃんが、眩しすぎたからかもしれない。

 誰かを好きになれて、それを告げることができるなんて、まだ想像もできない私には。



 十一月に入り、連休を使ってのゼミ研修旅行の日が来た。

「おはよう」

「おはよう」

「晴れてよかったねー」

大学最寄り駅の前のロータリー山側で集合。


 ちょっと早めに来たつもりだったけど、和哉も一佳ちゃんも既に待っていた。車を待たせるのはよくないから、二人も早めに来たようだった。


 フォン、と軽いクラクションを一音鳴らして、白いハッチバックの車がロータリーを進んで来た。

「こっちー」

車内には聞こえないだろうに、声を上げつつ手を振る和哉。


 白いゴルフが、静かに私たちの前に止まり、アオが降りて来た。

「おはよう」

「おはよ。トランク開けたから、荷物入れて」


 和哉が、自分の荷物と一緒にさっと私のキャリーを持ち上げる。

「あ、ありがとう」

「どーいたしまして」

必然的にアオは、一佳ちゃんの荷物を持ってトランクへ収納していた。


「私、酔いやすいんで、前に座らせてもらっていいかな」

一佳ちゃんが言い、助手席へ。

「じゃあ、みちるは、運転席の後ろな」

和哉がドアを開けてくれた。


 全員がシートベルトをすると、

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

和哉が声を上げた。

「運転するの、俺だけど」

和哉のテンションに、苦笑するアオは、滑らかに車を発進させた。


「ケータイ繋げられる? だったら、コレ、聞いていい?」 

和哉のオススメのミュージックを聴きながら、車は西へ。

 高速に乗り、更に西へ。


 1時間ほど走っただろうか、

「パーキング、入るから」

アオがそう言ってハンドルを切った。


 トイレ休憩と売店で飲み物を買って車に戻ると、運転席には和哉が座っていた。

「長距離疲れるから、交代」

一佳ちゃんは、そのまま助手席、アオは助手席の後ろに座った。

「あと半分くらいだから任せた」

「おっけー」


 アオも和哉もイベントサークルで、車を使うことに慣れているようだった。

 一佳ちゃんは、ちょっと憮然としていたけれど、後ろの席に変わってとは言われなかった。


 隣に座ったアオは、基本窓の外を見ていた。

 二人じゃない時のアオは、あんまり話さないことに気づく。グループで、ゼミの中なら意見も言うけれど。みんな、でいる時は、おしゃべりな方じゃない。

 後部座席、それも運転席側だと、運転しているアオは、ほとんど見えなかった。

 今、隣に視線を向けるのも憚られるし。せっかく近くにいるのに、見ることもできないなんて、少し理不尽な気がする。


「あー、もうすぐ高速降りる」

和哉が言った。

「あとどれくらい?」

と聞くと、

「三十分ちょいってとこ」

という返事が来た。

「どっかで昼飯食べる?」

和哉は、希望があったら寄るよ、と言ってくれた。


「だったら、カフェロッジのグーテンミルヒってとこに寄りたい!」

一佳ちゃんは、結構現地周辺をチェックしてきていたみたい。オムライスが押しらしい。

「いいよ」

「うん、私も」

「じゃあ、ナビ変更するね」

「オッケー」

 それから、一佳ちゃんご希望の、カフェロッジへ。

 

 パーキングに車を入れて、外へ。いかにもカフェロッジっていう建物の外観が、カントリーで可愛い。

 牧歌的な庭もあって、ヤギが二頭柵に繋がれていた。

「ヤギのオヤツあげれるんだって」

一佳ちゃんが看板をチェックしていた。

「ウサギもいるよ」

和哉が広いサークル状のスペースを指した。

「わあ」

「昼飯の後で、ゆっくり見たら?」

「うん、そうしよう」


 私たちは、階段を上がって高床式の建物に入った。

 内装もカントリーで可愛く、落ち着く感じ。オムライスの種類が多くて、それぞれが違うオムライスを頼んで舌つつみを打った。卵が新鮮で、黄身の色が濃くて。


 食事のあと、ロッジの庭でヤギにオヤツをあげたり、ウサギを愛でたりした。


 基本、アオの側には一佳ちゃんがいて、和哉と話すことが多かった。和哉はいろいろ気を使ってくれるから、話しやすい。


 そして、私たちは、カフェロッジを後にして、目的地の高原ヴィラに向かった。





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