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12 そのさきの覚悟 〜 Michiru side


 自覚した夜は、なかなか寝付けなかったけど、それでも朝はやって来て。

 

 朝食の後、朝市を回る。

 一佳ちゃんは、やっぱりアオのそばにいて。

 一緒に回るのは、気が引けたので別の露店に興味があるフリをする。


 和哉が、ついて来てくれて、賑やかなぶん気が紛れるけど、それも昨日の告白を思えば、すごくまたずるいことをしている気がして……。


 やっぱり堂々巡り。

 フルーツいっぱいの露店には、惹かれるものもたくさんあるから、できるだけ、他を考えないようにしないと。


 和哉が、ガッツリチーズパンっていうのに惹かれたらしく、買いに走った。

 私は、白桃……タルト……好きなもののマリアージュを見つけて、固まってしまった。

 さっきしっかり朝食を食べたのに……でも……!


「いつまで悩んでんの」

その、声は。

 どうして、とか。一佳ちゃんは、と聞いても、アオは淡々としていて。

「白桃タルト一つ」

目の前で、タルトが買われ、半分になって、

「はい」

と差し出された。


「……ありがと」

「半分なら、罪悪感も半分だろ」

 なんで、アオは、いつも。

 隣で半分にしたタルトを食べるアオ。もう………。

 貰ったタルトを口にする。爽やかに甘くて、優しい味がした。


 朝市から物産展、アオと和哉と一緒に回って、研修旅行の過程は終了。

 物産展のご当地グルメで昼食を済ませ、コテージに帰って荷物を纏めて帰路に着いた。


 帰りは、先に和哉が運転することになった。アオは、後半運転して、そのまま帰宅する方が都合がいいだろうし。


 一佳ちゃんは、帰るだけだから車酔いしてもなんとかなるしむしろ寝たいなんて主張して、後部座席に収まった。


 一佳ちゃん、聞けないけど……昨夜、上手くは行かなかったのかな? アオと絡まないわけじゃなく、ほぼいつも通りなのが、かえって違和感で。

 

 パーキングエリアでの休憩を挟んで、アオが運転席に座った。

 ……ハンドルを持つ手が、かっこいい……。

 助手席だとどうしても、アオに目線が行ってしまう。なんとか逸らしても、今度は運転する手が目に入って……。


「ずっと、見てない?」

アオに、気づかれていた。

「……ごめん」

「いいけど、なんでまた」

「凄く綺麗な手だなって思ってて……ずっと」

「……綺麗って言われてもな」

アオが不服そう。

 綺麗はダメだったかと思い、

「ううん、すごくかっこいい……」

と言い直した。

「アオの手、すごく好きだなって、ずっと思ってて」

焦って更に言い募り、墓穴……。

 手のことしか言ってないけど、恥ずかし過ぎる。

 もう、アオの方、見られない……!


 仕方なく、窓の外ばかり見ていると、 

「手でもいいから」

アオが言った。

「こっち、向いてて」


 ……! 


 アオ、反則。そういうの、気軽に言わないで欲しい。


 心臓が暴れているのを、気づかれないように、私は、

「じゃあ、せっかくのイケメンを拝むことにします」

と茶化して誤魔化した。


 

 昨日の集合場所、大学最寄り駅のロータリーまで帰って来た。


 一佳ちゃんも和哉も、大学近くに下宿だから、後は歩いて少し。私はといえば、実家なので、ここからまた電車に乗って、乗り換えして……と、小一時間かかる。


「お疲れ」

「お疲れさま」

「和哉もアオも運転ありがと」

「またゼミでね」

 それぞれ荷物を持って、帰路に。一佳ちゃんと和哉を見送って、私も駅へと歩こうとしたとき。


「みちる」

背を向けた私に、アオが言った。

「送るから、乗って」

いつの間にか、荷物を持たれている。


「え、でも」

「まだ乗り換えとかあるんだったら、車の方が楽だろ」

 いやいや、アオはずっと運転してて……それこそ、私を送ったりしたら、更に往復時間がかかるのに。


 いろいろ考えている間に、荷物を後部座席に入れられて。

「みちる」

助手席を開けて、待たれていた。

「アオ、なんか強引……」

「うん」

仕方なく車に乗ると、アオは、助手席のドアを閉めて運転席に回った。


「この後、時間ある? ちょっと寄り道していい?」

車を発進させてしばらくしてから、アオは言った。

「うん」

ゼミ旅行の後に、予定は入れていない。帰るだけだから。


 下りの高速に乗って、しばらく走ってから降りる。それから南に向かって、海沿いの国道へ。


 そんなに話すわけでもないけれど、何故か沈黙も苦にならない。

 昼下がりの海は、夕方になる手前の、まだ青が煌めいていて。

 アオの運転は迷いなく。


「アオ、こっちの方も運転したりするの?」

「んー、入学前に免許取ってから、結構あちこち行ったかな」


 やがて、海沿いのカフェのパーキングにアオは車を入れた。

 車を降りると、

「寒くない?」

と聞いてくれて。

「うん、大丈夫」

と答えたら、アオは、

「テイクアウトで、海岸持って行こうか」

と言って、カフェの外階段を上がっていく。


 パーキングから海岸に降りられるようで、砂浜と整備された舗道がぐるっと続いていた。


 慌ててアオの後を追って店内ヘ。コーヒーのいい香りがしている。

「ラテアートも出来るって」

「じゃあ、それで」

「ミルク多め?」

「ハーフで」

アオが手際よく注文してくれて、会計まで済ませてくれる。


 自分の分を払おうとすると、

「俺が連れて来たから。ここはいいよ」

と断られた。

「……ありがとう」

 アオは、テイクアウトのカップを両手に持って、店の外へ。


 階段の手前で、私の分のカップを手渡された。アオは、空いた手で私の手を引く。

「ほら、階段」

「あ、うん」

 そして二人でパーキングに降りて、更に海岸ヘ降りて行く。


 手を繋いだままで、歩いて。

 アオは、砂浜より一段高い舗道の縁に腰を下ろした。私も隣に座る。

 犬の散歩をしている人や家族連れなど、人がいないわけでもないけど。晩秋の海には騒がしさはなかった。


「大丈夫だった?」

「あ……うん」

手を繋いでいたこと。すごく自然だったから、何も思わず、来れた。

「そっか」

ゆっくりと、コーヒーを飲むアオ。

 私のラテアートは、綺麗なハートをしていたけど、歩いて持って来たせいで少し歪になってしまった。


 少しずつ日が傾いて、空も海も柔らかく(だいだい)色の光に変わって行く。


「みちる」

アオが立ち上がって、飲み干したコーヒーカップを舗道の縁に置いた。そして、正面から、私の手を引いて立ち上がらせた。


 真正面に立つアオの向こうに、オレンジ色の水平線。

「みちるが、好きだ」

静かに、アオは言った。


 オレンジにさざめく水面の煌めきのように、アオの言葉が心を揺さぶる。

「俺と、付き合って欲しい」

「アオ……」


「みちるの無理が、あるとしても、それでも」

もう一度、アオは、私に手を伸ばす。

「いつか大丈夫になるまで、一緒に」

こんなに、嬉しい、のに。


 その手を取れない。

 だって。触れられない彼女、なんて。


「みちる、今は無理でもいいから」

「だって。だって、みんな最初はそう言って、でも!」

 

 アオが、好き。好きだから……嬉しくて、嬉しくて哀しい。

 付き合って、その先は? 

 嫌だ無理だって拒絶して……そんなの。そんなの、最初から終わりが見えている。


「みちる」

やさしい優しいアオの声。

「顔、上げて」

泣かないで。

「……泣いてると、困る」

私に伸ばそうとした腕が、止まっている。

「みちるは、どう思ってる?」


「みちるの、気持ちは?」

アオは、言葉を一つずつ噛みしめるように言う。

「もし……俺に少しでも、好きになってもらえる可能性があるなら。無理だからって、諦めたくない」


「どう、して……?」

こんな、めんどくさい女じゃなくても。

「みちるが、いいんだ」

「アオ……」

「だから、みちるが俺のことそんな風に思ってないとしても。好きにさせるから」

「どう、やって?」

「さあ? どうやっても」

アオが、あんまり確定事項のように言うので、笑ってしまった。

「何、それ」

「ほら。そうやって。笑ってて」

アオ……!


「……もう、好き」

溢れ出してしまった。


 アオが、驚いたように目を見張る。

「アオが、好き」


「だったら!」

付き合う?

「無理、だよ」

怖くて。

「……今までとは、違うだろ?」

「……うん」

それでも。

「ごめん……なさい」

覚悟が、出来なくて。



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