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第9話 陽キャの幼馴染と登校した

 どうしてここにいるのか——。

 蓮としては当然の疑問だったが、凛々華は不思議そうに首を傾げた。


「近所の同級生と登校するのは、普通にあることじゃないかしら」

「まあ、それはそうなんだけどさ」


 でも、大して仲良くもない異性と登校するのは、普通のことなのだろうか——それこそ、近所付き合いの一環だったりという特殊な事情を除けば。


「……迷惑なら先に行くから、正直にそう言いなさい。どのみち、道すがらだから寄っただけだもの」

「いや、迷惑とかじゃねえよ。ちょっとびっくりしただけ」


 むしろ、本の感想も共有したいくらいだ。


「じゃあ、行くか」


 歩き出そうとすると、凛々華がスッと瞳を細める。


「無理、してないでしょうね?」

「おう。だって俺たち、仲間だろ?」

「……そうだったわね」


 凛々華はふっと息を吐く。どうやら、お供することは許可してくれたらしい。

 いや、そもそも向こうから誘ってきたのだが、どうしても凛々華相手となると思考がそうなってしまう。さすが女王だ。


 その女王様は、笑顔というわけではないが、横顔は心なしか柔らかいような気もする。

 とりあえず、不機嫌にはなっていないようだ。


「貸してくれた新刊、読み終わったぞ」

「一気に? 早いわね」


 凛々華は驚いたように目を見開いた。

 嬉しそうに見えなくもなかったが、蓮があくび漏らした途端に、その形のいい眉がひそめられる。


「宿題はおろそかにしてないでしょうね?」

「親か。ちゃんとやったよ」

「ならいいけれど……それで、どうだったの?」

「めちゃくちゃ良かった。探偵の流川(るかわ)が二巻と四巻での後悔を活かして、真相を暴くのを躊躇ったのもめっちゃ心にきた」

「そうっ、そうなのよ! 探偵としての使命と、悲しい運命を背負った犯人の間で揺れ動く心に、こちらまで揺さぶられたわ。そもそものトリックも——」


 ちゃんと息継ぎをしているのか心配になるほどの勢いで熱弁していた凛々華は、ついに身振り手振りまで加え始めた。


(なんか、かわいいな)


 思わず笑ってしまうと、凛々華がピタッと言葉を止め、怪訝そうに眉を寄せる。


「何かしら?」

「いや、本当に好きなんだなって思ってさ。らしくもなく興奮してたから」

「っ……着眼点が同じだったから、少し驚いただけよ。興奮なんてしてないわ」

「その割には、めっちゃ楽しそうだったぞ」


 少し揶揄ってやると、凛々華はふいに足を止めた。


「——黒鉄君」

「どうした?」

「保険証は持ってるわよね?」


 その指が示す先には、こじんまりとした眼科があった。なんてちょうどいいタイミングだ。


「……お前、結構ひどいよな」

「心配してあげているのだけれど?」


 サラリと真顔で言うが、その口角はわずかに上がっている。

 やはり、意外と悪ノリを好むタイプらしい。思ったよりも気を遣わなくてよさそうだ。


「へいへい。お気持ちだけはありがたく受け取っておくよ。……そういや、本は学校行ったら返すから」

「まだ持っててもいいけれど」

「えっ?」

「他のは三周していると言っていたし、もう一回読みたいでしょう?」


 凛々華はどこか得意げな表情を浮かべる。少しだけ、探偵気分を味わっているのかもしれない。

 隠す必要もないので、素直にうなずく。


「それはそうだけど、いいのか?」

「どうせ私はすぐには読まないのだから、読みたい人が持っているのが合理的じゃないかしら」

「まあな。けど、なんか助けられてばかりで申し訳ねえ」

「別に、全部自分のためだもの。あなたには関係ないわ」

「それでも、いろいろ助かってるのは事実だからさ。なんかお礼をしたいんだけど、俺にできることねえか?」


 庇ってくれて、その上本まで貸してくれたのだ。少しでもいいから、借りは返したい。


「見返りを求めてやったわけではないのだけれど……そうね。それなら、明日からも一緒に登校してもらおうかしら」

「……えっ?」


 蓮は思わず足を止め、まじまじと凛々華を見つめてしまった。


「勘違いしないでほしいのだけれど、本好きが他にいないだけよ。それに、大翔と被らないようにするためには、どのみちこの時間になるもの。わざわざ別々で行動する必要もないでしょう」

「あっ、そこは安心してくれ。深い意味がねえのはわかってるから」


 思わぬ提案に驚いただけで、もともとそんな勘違いをしていたわけではない。

 これに関しては、凛々華の自意識過剰ではなく、これまでにも少し親しくしただけで、好意があると誤解されてきたからこそだろう。

 これほどの美貌であれば仕方がないのかもしれないが、本人としてはやりづらかったはずだ。


「……まあ、そういうことよ」


 そうつぶやき、彼女は視線を落とした。

 なぜか、不満そうにキュッと唇を引き結んでいる。


 逆に、異性として興味がない、というふうな発言に捉えられてしまったのかもしれない。

 このレベルなら、さまざまな手入れも欠かしていないはずなので、相応のプライドもあるだろう。


(そういうわけじゃねえけど、ここでわざわざ訂正してもキモいだけだよな……)


 密かに頭を悩ませていると、最寄り駅からの通学路に入った。他の生徒たちの視線が一斉に集まる。

 何とも言えない圧力だったが、凛々華は歩幅を変えることなく、水面のような静かで涼しげな顔を保っている。


「あっ、柊さんだ」

「相変わらず美人だなぁ」

「スタイルもいいよな」


 ちらほら聞こえてくる声も、最初は彼女を称賛する言葉だった。

 しかし、それらは次第に、負の感情を伴ったものに移り変わっていく。


「隣にいるやつ誰? 彼氏?」

「いや、それはねえだろ。多少背は高いけど、冴えねえし」

「だよな〜。幼馴染の大翔のほうがよっぽどお似合いだし、明らかに釣り合ってねえもん」


 そこまで頭が回っていないのか、はたまたわざと聞かせているのか、普通に蓮の耳に届いていた。

 凛々華の歩幅が少しだけ大きくなる。その拳は硬く握りしめられていた。正義感の強い彼女に、陰口は御法度だ。


 しかし、それに気づいた様子もなく、男子たちは見下すような嘲笑を浮かべながら続けた。


「確かに、あいつよりも大翔のほうがよっぽどイケメンだもんな」

「あぁ。かっけえ幼馴染がいるのに、あんな冴えねえ陰キャと付き合うはずなんかねえよ。つーか第一、あいつよりは俺らのほうがイケてんだろ!」

「それな〜」

「罰ゲームなんじゃね?」

「うわっ、それだわ!」


 陰口はなおも止まらない。どころか、声量はだんだんと大きくなっている。自分たちのしゃべる内容に興奮してきたのだろう。

 蓮は凛々華に合わせて歩くペースを早めつつ、努めて軽い口調で言った。


「俺はああいうの気になんないから、柊も気にすんなよ」

「っ——」


 凛々華は肩を跳ねさせると、ゆったりとした足取りになった。

 耳に髪をかけ直しながら、そっぽを向く。


「別に、ただ馬鹿馬鹿しいと思っただけよ。あんな低俗な連中の言葉なんて、気にする価値もないもの」


 口調こそ素っ気なかったが、普段よりもストレートな言葉遣いに、不快感がにじんでいた。


(やっぱり、柊って優しいよな)


 胸がじんわりと温まり、満たされた感覚になる。

 ——しかし、それも教室に入るまでだった。


「おい黒鉄っ、てめー何してやがる⁉︎」


 出会い頭に詰め寄ってきたのは、当然というべきか、大翔だった。

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