レッド マズーパ
私は、砦の井戸水を薬に変えるべく、ナガールッツ子爵の兵に捕まった。
ダガルプ教の司祭たちは、神殿に戻るように暴挙に出た。
私達が、『婚姻の儀』の遺跡を後にして、本線に戻ろうとした時、ダガルプ教の司祭たちが待ち構えていた。
「カパード。そのまま、司祭たちに捕まるぞ。捕まった後で、砦まで戻り。井戸の水を薬に変えてから前に進もう」
「ですが。『旅のお供が、増えてしまいます』そうおっしゃったのは、使徒様ではないですか」
「それでもだ。砦の井戸を薬に変える必要がある。砦へ戻るには、司祭たちに捕まるしか道はない」
「それなら、使徒様に従います。ですが、使徒様を乗せる馬車は、ターランドの馬車です。ダガルプ教の馬車は、護衛です。ハッキリ伝えて下さいね」
「そうです。カリナフ様の言う通りです。異論は許されません」
私の頭の上に、重たいものを乗せて、サライテが発言した。
「どうどう」
『ヒヒーン』
「ターランド伯爵の馬車の方、カリナフ嬢の忘れ物は、見つかりましたか」
「あぁ、お陰様で、見つかりました。有難うございます」
「ダガルプ教の司祭様たちも、カリナフ嬢の大事な物を探しているようで、見つけては、下さいませんか」
「もう良い。こんな茶番に、何の意味がある。今日は、砦で休むから、部屋を用意しろ」
私は、自ら顔を出した。
「使徒様、ご無事ですか。ダガルプ神殿で、皆がお待ちしていますぞ」
「駄目だ。寝ていろ」
私は、司祭を寝かした。
「私は、ダガルプ教の民を守る使命がある。民を守らずして、何が使徒様だ。これより、砦に戻り。砦の井戸を薬に変える。良いな」
他の司祭たちは、私の言葉を聞くしか無かった。
「それと、私は、急ぎますので、各自で馬車なり馬なりをご準備下さい」
私は、砦の兵が先導する列に加わり、取手へと戻った。
ターランドの馬車でだ。
そして、ターランドターランドの馬車を降り。目的の井戸まで到達して、いつもの儀式を行った。
「何を、なさるのですか。離しなさい」
「使徒様には、私共の願いを聞き入れて頂く必要が御座います。無礼は承知しております。この女共を、辱めにされたくなければ、ダガルプ神殿に戻られ下さい」
司祭が、反乱を起こした。
「私共も、このような事は、したくありません。ですが、ここは、使徒様に折れて頂く必要が御座います。ご了承下さいませ」
「分かった、好きにしろ。だが、分かっているな、私も、時間がない」
「有難うございます。聞き分けの無い子供で、無くて良かったです」
「そうでも無い。私は、わがままです。馬車に戻っても良いか、御者はお前達がしろ」
私はターランドの馬車に戻り。進行方向に、背中を向けた。
俺の横に、サライテが座り。カリナフ嬢が正面に、カパードが、入り口側に座った。
御者を、ナガールッツ子爵の兵が務めて、砦へと向かった。
先程は、頭を伏せていた為見えなかったが。マズーパが、2頭捕まっている。
まだ、子供のようで。死体のように、大きくはない。
私は、馬車を降りると、鎖に繋がれたマズーパを見に向かった。
以外にも、私の体臭からマズーパの匂いを感じ取ったのか。唸り声を上げた。
「危険です。使徒様、お辞めください」
「問題無い。歯向かうようなら、ここで殺す」
「使徒様、お気を付けください」
「これ以上は、流石に止めさせて頂きます」
サライテが、カリナフを止めた。
「脳筋、もしもの時は、マズーパを始末しろ」
「任せましたよ。脳筋」
「任せろ。カパード、絶対に殺すなよ」
「いえ。万が一の時は、マズーパの子供でも容赦はしません」
「ったく、好きにしろ」
カパードは、マズーパの横に付けて。私は、正面にいる。
ナガールッツの兵が、3人でマズーパの後ろで、槍を構えて待機している。
「そんなに、身構えるな。お前の親を殺したのは、私では無い。取り敢えず、落ち着け」
私は、左手を伸ばして、マズーパを撫でようとしている。
『その動物を手なずけろ。進化する個体だ。左手の平を傷つけて、そのまま血を与えろ』
「カパード、お告げが下りた。ナイフを渡せ」
カパードは、マズーパから目を逸らして。私の後ろにいる、カリナフ嬢を見た。
「問題有りません。ナイフを渡しなさい」
カパードは、ゆっくりと使徒へ近付き。腰のナイフを取り出して、刃を持ち。使徒へ渡した。
私も、ナイフを掴み。
「ゆっくりと、離して下さい」
カパードは、ゆっくりと力を抜き。指を1本ずつ離した。
「有難うございます」
私は、左手の平をナイフで突き刺した。
それは、初めての痛みだった。
ナイフは、手の平を貫通して甲から飛び出した。
血が、両方から出て。生暖かさを感じ取っり。
マズーパが、興奮しているのが、感じ取れ。
地面に刺さっつた、杭や鎖を今にも引き千切り、左手に喰付きそうに、暴れている。
「待てだ。主従関係をハッキリさせねば、ならぬからな。待てだ、良いな」
マズーパは、段々と大人しくなっていき、伏せるまでになった。
一歩、また一歩。時間と共に、皆の緊張が伝わってくる。
特に、カパードが、武器を持って無い分一番怖い。
槍は、問題無いが。カパードに、触れた時のことを考えたが。
予測が付かない。誰も、触れた事が無いのだから。
「カパード、もう少し下がれ。こいつは、私の配下にある。私に、触ってはならぬ事は、知っておるよな」
「はい。ですが、私の身など、どうなっても宜しいです。使徒様には、もしもの事が有った時が。後々で怖いです」
「サライテ、カパードを下げさせろ。このままでは、カパードが。私に触れてしまう危険が生じる」
「ですが使徒様。ですが、万が一の時には」
「クドいぞ。もう、良い。頼まぬ」
「カパード。寝ていろ」
私は、その場を少し離れて。小さな足で、カパードの下まで向かった。
左手の痛みに耐えながら、マズーパのチャンスを一度、捨てた。
「使徒様、私にも仕事があります」
カパードは、下がり。私の時間を無駄にした。
マズーパは、暴れ出し。杭を抜いた。
タイミング良く、左からマズーパが来て。正面にカパードがいる。
「使徒様」
「問題無いと、言っているだろ。おやすみ」
私は、カパードに右を向けて。『寝ろ』と唱えた。
カパードは、私を庇おうと、突進を初めて。途中で意識を失い。私に、向かって倒れてくる。
私の左手は、ナイフが刺さっていて。右手は、無防備だ。触れる理由には行かず。
カパードは、顔面から着地した。
問題は、それだけでは無く。もう一つ発生した。
2頭目が、鎖を食い千切った。
一頭は、ナイフを抜き。左手に付いた血を舐めさせて。
もう一頭は、抜いたナイフの先にいた。
もう1頭は、手懐けに失敗した。
血を欲しがったのだから、そのまま喉の奥へ。
「そうだな。あの森で暮らせるのは、1頭だけだ。スマン、許してくれ」
即死した、カパードの子を、優しく撫でて。
進化して、赤くなったカパードが、寄り添ってくれた。
その後は、砦の井戸水を薬に変え。
命を落とした、マズーパを火葬して。
口に含んだ井戸水を、霧状に吹きかけた。
成仏するように、願いを込めて。
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