ダガルプ神殿の暮らし
アザッカデ司祭が、間違いを大量にやらかす。
私は、生死と戦い。勝利した。
勝利したが、……。
商人は、やっと司祭に手紙を渡すことが出来た。
5人の僧に断られ。3人の助祭に無視されて。
アザッカデ司祭に、出会えた。
「なに、なに。使徒様が、誕生なされたと」
手紙は、筒状に丸められていて、紐で固く結び、蝋で封印されていた。
商人は、ここで手紙の内容を知らされた。
確かに、郊外は簡単に出来ない。言伝を、お願いするのも難しい。
蝋で、封印されていたのも、納得できるし、急ぎなのが理解できた。
アザッカデ司祭は、一つずつ確認しながら、指示を出している。
「大司教の6頭引きの馬車を、用意して下さい」
「貴方は、地下の聖水を馬車に積んで下さい」
「大司教には、いえ。私が参ります」
アザッカデ司祭は、大きな体を、クルッと回して、商人の前で止まった。
「まだ、いらしたのですか」
商人は、申し訳なさそうに。
「足りない、給金を下さい。銀貨50枚ほど」
アザッカデ司祭は、手を2回叩き。
「誰か、この方に、金貨2枚を差し上げて下さい」
直ぐに、ビカーリア助祭が金貨2枚を、懐から出して。立て替えた。
商人は、直ぐにその場を去った。
みすぼらしい服装で、茶色の帽子を、キュッと絞っていた。
「聞いたか、使徒様が誕生した噂」
「噂じゃないよ。これから、地下の聖水を持ち出すのだから」
「今、地下に向かっているの」
「司祭様が、地下の聖水を地上まで運ぶから、馬車には俺らが運ぶの」
地下への入り口に、僧が1列に並び。大きな瓶を掲げて、馬車へと運んでいる。
アザッカデ司祭は、大量のサラシとシルクの布。聖水の入った瓶と、新品のタライを乗せて、先行した。
聖水は、足りなくなるかもしれませんので、次の馬車の手配をして下さい。
アザッカデ司祭は、大司教の豪華な場所で先行した。
ダガルプの神殿の城壁を抜けると、広大な農地が広がり、空は晴れ渡り。出立するには良い日だった。
ナーベビックまでの道のりは遠く、聖水を大量に積んだ馬車は一向に前に進まなかった。
車輪が、轍に取られる度に、聖水の入った水瓶が、衝突し、擦れ合い。最終的には、4つの水瓶が残った。
走ることの出来ない、6頭引きの馬車は、豪華なだけで、意味をなさなかった。
それでも、4つの水瓶を守りきり。ナーベビックの村までたどり着いた。
アザッカデ司祭は、直ぐにザガルの家へと向かい、私に挨拶をした。
「主よ、有難うございます。使徒様は、大切にダガルプ神殿で保護させて頂きます」
この頃から、公の場で人には触れていない。
私は、アザッカデ司祭に抱えられて。
ダガルプ神殿から持ち込んだ聖水で、身を清めた。
新品のタライに、聖水が入り。シルクのお包みに包まれたまま、タライに浸かった。
『オギャー。オギャー。オギャー』
冷たかった。暖房器具が無く、母親の温もりだけが、暖房だったのに。
アザッカデ司祭が、それを奪った。
それだけでは無い。母乳も直接飲ませてくれなかった。
これは、死活問題だった。本当に。
あろう事か、母乳を聖水で薄めて飲ましたのだ。
それだけでは無い、哺乳瓶が無い時代に、冷めて薄くなった、母乳を小さなスプーンで、飲まされたのだ。
寝る暇も与えず、生きるために、母乳を。違う。薄めた乳を飲まされたのだ。
離乳食が始まるまで、私は、ガリガリだった。
丸々と太っているから可愛いのに、私は、醜かったと思う。
父親は、ダガルプ神殿へ行くことを拒み。
母親は、私の為に付いて来た。
ナーベビックの神父は、金貨100枚を受け取り。大聖堂を建てるように命じられた。
父親も、金貨15枚を与えられて。別れの見送りも無かった。
私は、母親と共に、ダガルプ神殿の最奥へ向かい。お包みに包まれながら過ごした。
離乳食が始まると、私は、沢山食べ、沢山寝た。
健康状態も良くなり、丸々と太った。
これは、これで、母親の心を傷つけた。
母乳を欲しがらなくなり、聖水でふやかしたパンを食べるようになった。
すり潰した、果実を食べては、様々な表情を見せて、母親を、喜ばそうと思ったが。逆効果だ。
母親は、私の頬にすら触れられない。
手や足を触ったのは、いつの事か。
私の成長が、母親を苦しめて。
私が、歩く前に。母親は、神殿から出ていった。
母親を苦しめたのは、それだけでは無かった。
ナーベビックに戻った母親は、父親が再婚したことを知った。
2人の新居に、別の女が入り込み。我が物顔で生活を送っていた。
そこから、母親は、教会に住むようになった。
身も心も、教会に尽くすようになった。
ダガルプ神殿に、我が子を置き去りにした、業だと思い。毎日祈りを捧げた。
私が、歩けるようになると、ダガルプ神殿の書庫を漁るようになった。
ガグリップ王国の文字や言葉を覚え。
あらゆる文献をも読み漁り。同じ書物でも、手書きな為、内容が抜けていたり、絵が抜けていたり。違う文章が書かれているモノも有った。
酷いものは、真ん中600ページ分、百合の物語が壮大に描かれていた。
ダガルプ神殿の書物を、漁る日々に変化が訪れた。
私が、3歳になった頃。
ダガルプ神殿に、薄く真っ黒い靄が現れた。
それは、空中に墨汁を垂らしたように、濁りながら靄を広げ、途切れ、途切れであり。しかし、私には、ハッキリ見える。
私は、黒い靄を追った。
神殿の裏を抜けて、礼拝堂を通り、客間まで着てしまった。
私を、司祭や助祭が止めようとしたが。
私が、右手をかざし、『眠れ』と唱えると。皆眠りにつき、夢の中に落ちた。
靄の部屋の前に、2人の侍女がいた。
「お待ち下さい、使徒様。こちらは、カリナフ・ターランド様が、お休みになられております。お部屋を、お間違えては御座いませんか」
3歳の私に諭す訳ではなく、周りの司祭に聞こえるように話した。
この時の私の格好は、真っ白いシルクをマントのように、首に巻き付けただけだ。
簡単に、説明すると。プールの時の着替えに使うアレだ。
左手は、自由に動くが。右手を上げると、大きな一物が出てしまう。
私は、迷わずに右手を上げて。『眠れ』と唱えた。
2人は、眠りにつき。
私は、客間の扉をかけた。
部屋の中は、おびただしい程の靄に包まれ。
私は、反対側の窓を全て開け放った。
少しずつ靄は晴れ、客間のキングサイズのベッド眠る一人の少女を見つけた。
これが、カリナフとの出会いであり。
最初のお告げだった。
『この子は、3日も持たずに死ぬ。助けたくば、左手薬指の血液を、水に混ぜて飲ませよ。直接、血を与えてはならぬ』
私は、少女に問た。
「生きたいか」
少女は、ダガルプ神殿の天使が現れたと思った。
読んでいただき、有難うございます。
黒い靄の正体、原因、カリナフ。
宜しければ、高評価、星とブックマークをお願いします。