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使徒様と呼ばれて、  作者: 愛加 あかり
11/30

バーモルの花

バーモルの花が咲く季節。私達は、長旅を終えてターランド城へ戻った。

数日の滞在の後、ダガルプ神殿へ向かい。疫病の終息を報告するだけだった。




 私達は、78日を掛けて、ターランドへ帰ってきた。


 ダガルプ教徒を守り、クラージツ平野の外周を廻る事で。ダガルプ神殿は、58か所の井戸により疫病から守られた。


 季節は、秋頃だろうか。空が高くなり、朝晩が冷えて。ターランドの花である、バーモルが咲き誇っている。


 日本に咲く、藤のような花。


 「明日は、使徒様をバーモルのトンネルへ案内致しますので、朝早くからお部屋に向かいます。宜しいですね」


 カリナフ嬢は、夕食を終えた後で、ニコやかに語って。部屋への帰り際に、もう一度、振り返り。


 「明日は、お早いので。書物は程々になされて下さい」


 私は、ターランド伯爵家の書斎へ向かうのを、カリナフ嬢に止めたれた。


 小さな体ながらも、両手で本を開きながら。脇にも、本を挟んでいる。

 紙や文字は、この星の色々な知識を私に与えてくれた。


 歴史に天文学、占いと農耕や商才の有無。

 兵法なども読んだ。ドラゴンとの戦い。

 3割は、恋愛物のロマンス溢れる作品で。


 貴族が書いたモノは、お下劣極まりない作品が多かった。

 ポエムも、品が無い物ばかりだ。


 だから、私は著者が貴族の物は、読んでなかった。


 「使徒様、起きて下さい。お願いですから」


 私は、カリナフ嬢に起こされた。

 早くに寝たつもりだったが。


 「もう、朝ですか。まだ、寝たりない気がします」


 私は、ベッドの揺れで目を覚ました。


 「いえ。夜は、まだ明けてません。ですが、人々が集まる前に。使徒様と一緒に、バーモルのトンネルを歩きたいのです」


 カリナフ嬢は、私のお腹に布団越しで跨り、可愛く微笑んでいる。

 サライテは、その様子を見ながら。部屋中のロウソクに火を灯している。


 この頃になると、サライテも何も言わなくなている。


 ナガールッツ子爵との、婚約破棄が決まり。カリナフ・ターランドは、名を失い。ダガルプ教の神殿の許可を、取り付けている所だ。


 主従関係は、そのままに。褒美が増えた分、何も言わなくなった。


 褒美とは、私のドロワーズだ。

 カリナフ嬢のモノは、勿論の事。使徒様のドロワーズも、綺麗な布に包み。日付を記入して保管されている。


 「本日のお召し物は、お嬢様と合わせまして、白で統一しました」


 私は、2人の前で全裸になり。ドロワーズを脱ぎ捨てた。


 カリナフ嬢が、服を拾い上げる前に。サライテが素早く動き、カリナフ嬢のドロワーズが入ったポケットと、違うポケットに収められた。


 「何ですか、今日は。コルセットが必要なのですか」


 お子様の体に、コルセットは駄目だと訴えようとした。


 「そうではございません。慣れて頂くためです」


 「コルセットは、嗜みです。いずれ来る時の為に、慣れて下さい」


 カリナフとサライテが、硬い革のコルセットを、締める。


 元々、カリナフ嬢の服のお下がりですので、胸の辺りは、ガラガラに空き。ウエストは、締め付けたせいか、ドレスがゆるい。


 服を着て、部屋を出ると。まだ、外は暗かった。


 別の侍女が、客室へ入り。ロウソクを消す。


 サライテが、2人の足元をランタンで、照らしながら先導する。


 外へ出ると、更に気温が下がり、羽織るものを渡すサライテに、感じをして。


 「マフラーも、準備できています」

 布で、ぐるぐる巻にされた。


 私は、2人にハメめられたのでは。

 馬車の中では、サライテが私を膝に乗せた。


 「揺れますので、私の腕を掴んでで下さい」


 レンガで舗装された道で、そんな揺れるのか。

 この言葉にも、突っ込みを入れないカリナフ嬢。


 絶対に、裏取引が行われている。

 内心、穏やかでは無い表情のカリナフ嬢が、可哀想にも思えたが、読めない。


 『何が始まるのか』


 周りが、明るみ始めて。輪郭を表し。やがて色を付けた。


 「もう、宜しいですよね。使徒様を解放して下さい」


 サライテは、名残惜しそうに。胸を揺らし。私の頭は、左右に揺れた。


 「分かりました。お召し物当番を、代わって頂く条件ですので。使徒様を、お返し致します」


 まるで着せ替え人形のように扱われている私は、何も言い返せずに従っている。


 「使徒様。バーモルの花が、見えてまいりましたわ」


 暗くて良く見えないが、紫の花が枝垂れる。

 馬車の四角のランタンは、5m先も映し出せない、輪郭もハッキリしない。


 だが、馬車の両サイドに咲き誇り。無限に連なるように、トンネルは続いた。


 馬車のスピードが、落ちたのもあるが。

 十数Kmに渡り、このトンネルは続く。


 ターランドの花であり、家紋にも使われている。


 段々と日が昇り、紫の花が光り出した。

 朝露が、先へ先へ落ちて行き。大きな雫となり、風に吹かれて、揺れ落ちる。


 紫とキラキラの光の中、ターランドの馬車はゆっくりと。時間を止めるように、花のスレスレを通過する。


 御者のカパードは、馬上で馬を操っている。


 私は、窓から離れる事が出来なかった。

 凄いモノを見せられている。感動でしか無い。


 「これだけでは有りません。サライテ、お願いします」


 サライテは、ゆっくりと進む馬車のドアを開けた。

 冷たい風と共に、バーモルの花の匂いが、車内に舞い込んだ。


 私は、この匂いを知っている。

 カリナフ嬢の香りだ。カリナフ嬢は、いつもこの香りを漂わせている。


 「嬉しいです。使徒様が、私を見つめてくれて。気付いて貰えただけでも、本当に嬉しいです」


 それだけでは無い。髪の紫も同じなんだ。

 私は、不器用だと思う。女性の扱いも知らないが。手が伸びていた。


 横に座る、カリナフ嬢の髪を、グローブ越しに触れていた。


 「私の自慢なんです。この髪は」


 髪の毛を触れる手の上から、カリナフ嬢の手が触れた。


 そこへ、気持ちの悪い視線が飛ぶ。

 私とカリナフ嬢は、身の毛が弥立つ程の悪寒を覚えた。


 丸メガネの奥は、やらしい目で、こちらを見ている。


 「サライテ、気分が削がれます。向こうを向いてて下さい」


 私は、急いで手を戻し。膝の上に置いた。


 「サライテ、どうしてくれるのです。使徒様が、機嫌を損ねてしまいました」


 「私のせいでは有りません。私でなくとも、マルーリ様も、同じ事をしたと思います」


 サライテは、メガネの位置を直した。


 「お母様は、関係御座いません。ここで、ベール越しに、キスをする流れだったのに」


 私は、俯いていたが。カリナフ嬢の方を向き。疑いの目で見つめた。



 感動と動揺をしていると、私たちは、トンネルを抜けている。


 折り返しの地点なのか、馬車を停車させる場所や、ゆっくりとターンが出来るスペースが、設けられている。


 カリナフ嬢は、馬車が止まると。

 カパードを急かして、台座を要求した。


 「カパード、急ぎなさい。人々が集まってしまいます」


 こんな朝早くから、人々など。


 朝日が、トンネルの中を照らし始めている。


 馬車の中からは、暗くて遠くの方が見えなかったが。

 光が差し、人々の影がチラホラと見えている。

 泊まり組がいるようだ。


 朝露に濡れた、テントをいくつか見つけた。


 「聞いた事が有る。思い出した、花見だ。お酒やご馳走を持ち寄り、花を愛でる。そう言う、異国の文化が有るそうです」


 「それは残念です。今日は、ご馳走を頼んでいません。使徒様」


 カリナフ嬢は、申し訳無さそうに、頭を下げた。


 「また、来年訪れた時にでも、ピクニックをしたら宜しいのでは無いですか」


 「私の決心を、揺るがさないで下さい」


 カリナフ嬢は、意を決して打ち明けた。


 「私は、外界を捨てて、ダガルプ神殿の奥に入る身です。ここで、バーモルのトンネルを最後に、使徒様へ身を捧げる、覚悟を決めないと行けないのです」


 カリナフ嬢が、真剣なのは理解できるが。 

 背中からの、視線が怖い。


 「私たちが、神殿に着く頃には、神殿の奥で暮らす許可も下りているでしょう。バーモルの花が咲く季節で。私は、恵まれた女性だと、自負しました」


 その後は、純白のドレスで、カリナフ嬢と手を繋ぎ、バーモルの花の下を、見上げながら歩いた。


 衛兵が、庶民を端に寄せたが。

 2人は、独自の世界を作り出している。


 サライテには申し訳ないが、馬車で寝てもらった。

読んでいただき、有難うございます。

高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。

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