素直なエール
昼間会社に戻ると上司が私に声を掛けてきた。
新入社員の教育係を頼みたいということだ。
わかりましたと答え指定された応接室に向かう。
そこには新入社員が座って待っていた。
「今日からお世話になります!よろしくお願いします!」
新入社員は立ち上がり明るく元気な声で挨拶をした。
(よろしく)
私が答え座るよう指示すると緊張した面持ちで席に着いた。
会社の概要を説明していると
「すごいですね。会社のこと本当に理解してるって感じでかっこいいです。」
後輩は素直に関心している表情を浮かべる。
(そんなことないよ。あなたも仕事をしていけば自然と身に着くから。)
「私も頑張ります!」
彼女が眩しく見えた。
「先輩はどんなお仕事をされてるんですか?」
(私は営業だよ。)
「営業!かっこいいですね。会社の顔って感じですもんね。」
(かっこいいことなんてないよ。よくお客様に怒られるし、上司からも怒られるし…。)
「それでも続けてるってことはやり甲斐はあるんですよね?」
(やり甲斐っていうより生きていく為に働いてるって感じかな。入社してから営業しかやってこなかったしね。)
「そうですか…。」
寂しそうな顔で後輩言った。
会社概要の説明を終え社内を案内した。
「先輩はもともと営業がやりたかったんですか?」
(いや、学生時代から特にこれをやりたいっていうのはなかったかな。今の会社も内定を貰えたから入社して営業部に配属されたから営業を続けてるって感じかな。)
「仕事を続けるの辛いって思ったことありますか?」
(もちろんたくさんあるよ。でも、仕事が見つからなくて困っている人もいるんだからあるだけ恵まれてるって感じてるよ。)
うつ向いている彼女に申し訳なくなった。
(ごめん。暗い話しをしちゃって。君は何かやりたいことはないの?)
後輩は顔を上げ明るい顔で答えた。
「今はまだ正直ないです。会社のこともわからないし続けられるか不安に思ってます。でも、やりたい事を見つけたいです!」
(そうか…。見つかるといいね。)
「実は仕事とは関係ないんですけど昔から絵を描くのが好きで趣味で続けてるんです。」
(絵が描けるの?すごいね!)
「すごくないです。まだまだ下手くそだし、SNSとかにあげても誰にも見てもらえなくて…。いつかもっと上手くなったらもっとたくさんの人に見てもらって感想を聞きたいです。自分の絵は皆にはどう見えているのか、どう感じているのか。想像しただけで楽しくなりませんか?」
(本当に絵が好きなんだね。見てて羨ましくなるよ。)
「羨ましい?羨ましいって何ですか?」
(え?だって君みたいに若ければこれから色んなことに挑戦できるけどこっちは…若くもないからね。)
「やりたい事に年齢なんて関係あるんですか?」
(あるでしょ。会社でやらなきゃいけないこともあるし、帰っても疲れて寝てしまったり…。)
「でも就業時間はだいたい皆同じですよね?」
勢いに押される。
「本当にやりたいことなら何をおいてもやるべきじゃないんですか?」
(それで失敗して辛い想いをするのは私でしょ?無責任に言わないで。)
後輩は悲しそうだがそれでも食らいついてきた。
「失敗するかもしれません!でも成功するかもしれないじゃないですか!やりたいことなんですよ?」
(失敗したときのリスクが…。)
「やってみないとわかんないじゃないですか!」
涙目で訴える。
(失敗してやらなければよかったなんて思いたくないんだよ。)
「そう考えちゃう気持ちもわかりますよ。でもやった後にやらなければよかったなんて思うのは自分を苦しめるただの言い訳ですよ!」
はっとした。
「やらなければこうだったなんてただ自分が思い込んでるだけで全然実際に起こったことじゃないです!現実じゃないことを悩んでも仕方ないじゃないですか。」
確かにそうだ。
「じゃあ私が絵を描いてもし誰にも見てもらえないままだったとして絵を描いた意味は無いってことになるんですか?」
(それは…。)
「少なくとも私は意味がなかったなんて思いたくないです。他の人にも言われたくないです。」
(いつからだろうね。何かやりたい事を考えても無理だって決めるけるようになったのは。諦めるのが当たり前になっていたせいで君の夢まで否定するような事を言ってごめんね。)
「いえ、私こそ熱くなり過ぎました…。」
(でも言ってくれてありがとう。)
「とんでもないです。私こそ生意気な口聞いちゃってすみません。入ったばかりの新人なのに先輩に向かった…。」
クスっと笑った。
「あ、なんで笑うんですか?」
後輩はふくれっ面でこっちを見てその後笑顔になった。
「私、この会社でやりたい事見つけてみます。もちろん絵は続けますよ?仕事の中にも絵の参考になることあるかもしれないし!」
本当に眩しい後輩だ。
(私も何かさがしてみようかな。)
「探しましょうよ!絶対素敵なやりたいこと見つかりますから!」
満面の笑顔を後輩はこちらを振り返った。




