魔王と番と聖女の三すくみ
「ハダテユル帝国に勝利を!」
「イシル様と結婚したい!」
「卒業試験に合格しますように」
下界から勝手な声が聞えて来る。そりゃあ下界のヒト達を創造したのは吾等だけど、吾はただ上から眺めるだけで、直接何かをしてはやれないのだ。
大体、そんなことが出来れば下界がこんなに混沌としているはずないのになぜヒトはそれに気づかないのかね?
吾に出来るのはせいぜい式神を送って気づきを促すくらいで、たまーに勘がいいヤツが気配を感じ、立ち止まって難を逃れたり、幸運を掴んだりする。その程度だ。
とはいえ、退屈まぎれにしょっちゅう下界を覗いてしまうのは吾の悪い癖だ。
今日もついうっかり、下界を覗いていると魔王の気配がした。どうやら魔王が何度目かの転生をしたらしい。となれば、間もなくそれと対をなす存在もあらわれるだろう。
アレらは吾が作った存在ではないが、久しぶりに面白いものが見られそうだ。魔王やその対をなる者がどこに居るのかを探ろうと吾は式神を放つと、退屈していた式神たちは嬉々として下界に向けて飛んで行った。
白い鳥が戻って来た
「転生した魔王を内包するヒトは、幼子のうちに捨てられてジュガードという町の孤児院で育てられています」
ほう、そこで虐げられて育つというわけか?どれ?っと身を乗り出してみると確かに内部に魔王を眠らせた子供が孤児院で世話をされている。
緑の鳥も戻って来た。
「ジュガードという町で聖女を宿した女児が誕生しました」
ではトリガーとなる者は?
魔王は、愛する番を害されたことによって、怒りと悲しみの感情が爆発し魔王として覚醒する。
聖女は、愛する者を害された時、それを守ろうと彼女の内なる力が解き放たれ聖女となる。
さてさて、魔王が先か、聖女が先か?面白いことになったぞ、退屈しのぎにはなりそうだ。一応ヒトにも知らせておくか?
式神に花の種を持たせて下界へ放つ。
ヒトたちは黒いバラで魔王の誕生を 銀の百合で聖女の誕生を知るだろう。
ま、気が付かなくてもソレはソレで面白そうだ。
と、桜色の鳥が戻って来た。
「魔王の番を見つけたから、印を付けてきましたわ」
桜色の鳥の印は、幸運を引き付ける。
魔王の番が傷つかねば魔王が誕生しないのだぞ、よけいなことをするなと桜色の鳥を睨むが、鳥はどこ吹く風で吾の頭の上に座り込んだ。まあ、誕生せねばヒトの世は平和であろうから、それも良しとするか?
しばらくして黄色の鳥が帰って来た。
「聖女の”大切”を見つけたから、羽を一枚さして来た」
黄色の鳥の羽は、魔のモノを引き付けやすいのだ、聖女にとってはなんとも迷惑なことだろう。だが上から見るには分かりやすいし、聖女誕生というショーも面白いからな。よくやったと黄色の鳥を撫でてやる。
ヒトの時の流れは速い。瞬きしている間に時が流れてしまうから吾は腹ばいになって下界を見ようと身を乗り出す。
どれどれ
吾の方や頭に式神達が止まって一緒になって下界をのぞきこむ。
銀の髪に一筋金の髪が混じった子供が水遊びをしている、あれが聖女の”大切”らしいな
「ほう、なかなか可愛らしいではないか?」
「え?あれが聖女の大切ですの?」
桜色の鳥が吾の頭の上で立ち上がる
「「「「「「ん?」」」」」」
その子供の胸元に桜色の印を見つけて、吾等は顔を見合わせ、ニヤニヤと笑いあった。
聖女の”大切”と 魔王の番が同じヒトだとは面白い。
いつの聖女もすぐに”大切”に気づくのに、いつ生まれても魔王は番に、番への気持ちに気づけない。番はそれ以上に自分の運命に気づかない。それはここから見ているとたいそう面白い。
番であり”大切”である子供が金の髪の幼女を抱き上げた。
「あれが聖女を宿した子です」
緑の鳥が吾の目の前に飛んで来てさえずった。
鳥にやった目を下界に戻すとおかしなことになっている。
魔王の覚醒の為に番を害そうとしている魔族と魔王が戦うハメになっているし、聖女の誕生の為だと、その魔族に手を貸している聖女の使徒もいる。
敵の敵は味方ってことなのか?
一方で、聖女の誕生がなくても魔王の誕生を防ぐほうがより好しと思う使徒もいるようだ。
仲間割れか?
面白いことになって来た。更に身を乗り出した吾の右肩の上で白い鳥が呟いた