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命がけで王国の王子様を救ったわたし。でも花嫁に選ばれたのは裏切り者の義妹のほうでした

作者: ガブリエル




「そなたは美しい………」



魔王と対面したとき、そんな謎のセリフを吐かれた。


いままで見たこともないくらいの超絶イケメンの魔王。


水晶を溶かして髪の毛に加工したみたいな光り輝く銀髪。


稀代の芸術家が人生の集大成として造形したみたいな完璧すぎる美貌。


トップモデルみたいにすらりと伸びた長身。


魔王というよりも大天使ってかんじの神々しい姿をしてる。


でも、この見た目に騙されてはダメ。


この男こそ世界に不幸をまき散らす諸悪の根源。


ニースタニア王国のヘンリー王子様に呪いをかけ、病魔に苦しめている張本人なのだから。



「なぜ………そなたのような愛らしいひとがその手を血で染めようとするのだ?」



わたしにしか、できない事だから。


生まれながらに高い精霊力をもっていて、この精霊王の剣をあつかうことが出来たわたしにしか。


魔王を討伐とうばつしてニースタニア王国を、王子様を救えるのはわたしだけなの!



なぜか、魔王は悲しげな瞳をしてた。


だらんと手足を無防備に脱力させたまま。


どこか、憐れむような瞳でこちらを見つめてくる。



「なによ………その目………やめてよ」



魔王はなにかを言いかけて、形の良い唇を半開きにしたところでやめた。



「ちゃんと、悪役は悪役らしくしなさいよ!」



心のなかにわいた違和感。疑問を打ち消すように、わたしは魔王に向かって駆けだした。


目をつむって、両手で握った精霊王の剣を、まっすぐに魔王のほうへと突き出した。



ズッ………



手に、鈍く、重たい感触が伝わってきた。



魔王は、避けることなく、わたしの下手な突きをそのまま胸で受け止めていた。



魔王は、おだやかで、どこか優しい表情をしている。



「………なんで?」



「逃げなさい」



温かみのある優しい声で、魔王はそう言った。



「ぼくの身体から流れ出る魔素に、触れてはならない」



「………なんで自分が刺されているのに、そんな優しいこと言うのよ」



動揺していたわたしは、魔王の忠告も聞かずに、無造作に精霊王の剣をその胸から引き抜いた。


その瞬間、ダイヤモンドを砕いて霧状にしたみたいな光り輝くミストが魔王の胸の傷から噴き出してきて、わたしはモロにその直撃を浴びた。



「なに………これ」



ピキピキと妖しい音をたてながら、わたしの身体がなにか別の物体に変化していく。


透き通った、水晶みたいな物体に。



後衛の城の兵士たちが、魔王城の玉座の間でわたしを発見したとき、


わたしは水晶の像と化してしまっていた。


魔王を倒したのとひきかえに、わたしは水晶のかたまりになってしまったのだ。



でも、どこかでわたしは楽観していた。


きっと、王子様がこの呪いを解いてわたしの身体を元に戻してくれる。


魔王を倒したことで健康を取り戻した王子様が、冒険の旅に出てわたしの呪いを解く方法を見つけ出してくれる。


そう確信していたから。



なにもかも、大間違いでした。



わたし、リリー・エルベルト公爵令嬢は命がけで魔王と戦ったあげくにとんでもない濡れ衣を着せられることになったのです.





□□





「みなさんに残念なお知らせをしなければなりません」





意識を取り戻したとき、わたしは故郷ふるさとの王宮にいた。


身体は動かない。


まだ、水晶になったままのわたし。



目の前に義妹のマリアンヌがいた。



いつもの、わざとらしく大げさな、演技がかった悲しげな表情で、王子様と王様。王国の重鎮たちを前にして何かを語っている。


ここは玉座の間。


水晶になったわたしは、魔王の城からここまで運ばれてきたらしい。


誰が運んでくれたのかは知らないけど、水晶化したわたしの重さを実体重だと思われていたらとても悲しい。


ベッドに伏せって病気に苦しんでいた王子様が起きて、元気そうにしている。


良かった。わたしの冒険の目的は、これで果たされたんだ。



きっと、みんなはわたしを元の身体に戻すための算段を相談しているのだろう。



「聖女リリー・エルベルトの身に、いったい何が起こったのだ?」



王様の問いに対して首を横に振る義妹のマリアンヌ。



「ちがうのです………」



義妹のマリアンヌは芝居がかった動作で水晶化したわたしを指さして



「この、リリー・エルベルトこそが王子様に呪いをかけて病魔に苦しめていた張本人だったのです」



「なに!」



王様は目をむいて驚いている。



………は、はぁ?


わたしの声は、心のなかにだけ響き渡る。



「なにを言っているのだ?彼女は我が息子を救うために3年にもわたって冒険の旅をしていたのだぞ?」



「いいえ、違います。このリリー・エルベルトが水晶化したことによって王子様の病気が完治したことが何よりの証拠」




「やはりそうだったのか」



王国の重鎮の1人が、なぜかしたり顔でそう叫んだ。



「公爵令嬢とはいえ、女が精霊王の剣に選ばれるなど、あり得ぬことだとは思っていた。あの聖剣は女が扱える代物などではないはずなのに!愚かな女などに!」



「そうだ、そうだ!」



同意する声があがる。



「そもそも、魔王の存在そのものが嘘偽り。自分が手柄をたてるための自作自演。魔王とは、魔女リリー・エルベルトが召喚し、支配していた使い魔だったのです」



義妹のマリアンヌはとくとくと語る。


なにを言っているの、なんていうデタラメを………。



王子様ははげしくショックをうけた様子で。



「そんな………」



王子様はわたしのところに歩みよって来ると



「愛していたのに………きみのことを愛していたのに………なぜそんなことを?」



なんで、こんなに簡単にマリアンヌのデタラメを信じているの?



王子様のうしろ。いまは誰からも見えない角度で、マリアンヌは舌をだしてわたしをあざけっていた



この3年間の長くツラかった旅の思い出が頭を駆け巡る。




「裏で糸を引いて、王子を苦しめていたとは………なんという悪女」



「しかも、自作自演によって王子を助けたという手柄を独り占めにするつもりだったのか」



「きっと、この王国をゆくゆくは乗っ取るつもりだったのよ」




「「魔女………魔女………魔女………」」





「こんな水晶、打ち壊してしまえ」



「汚らわしい、聖女のふりをした悪女めが」



兵士たちがわたしの水晶のまわりを取り囲んだ。



「待て、待ってくれ」



王子様がそれをとめた。



義妹マリアンヌがくちびるを尖らせて



「なぜですの………この女はあなたを苦しめていた魔女。最低の女ですのよ」




「一度は愛した女性だ………殺すのだけは許してやってほしい]




義妹のマリアンヌは小さく舌打ちをした。



しかし、何かを思いついた様子で



「なら、この女はこのままの状態で王宮の中庭に飾ってあげましょう」



わたしの水晶を指さした義妹マリアンヌは




「この国を滅ぼそうとした魔女に、幸せに暮らすわたしたちの姿を永久に見せつけてやるのです」




性悪なマリアンヌの魂胆を察して、わたしは身の毛がよだつような感覚に襲われる。



このまま、ずっと戻さないつもりだ。



何年も、何十年も、このままにするつもりだ。



女だてらに功績をあげて、国民のあいだで女英雄として崇められいたわたし。そんなわたしに反感を抱いていた王国の重鎮たちはたくさんいたみたいで、連中は大喜びで同意の叫びをあげた。



このままわたしが魔王を倒した英雄として帰還すれば、女が自分たちをたばねる重鎮の立場になってしまうかも知れない。それどころか、王子様の寵愛をうけて結婚し、いつの日か女王の座に君臨してしまうかも知れない。


王宮の男たちはそれを一番恐れていたのだ。



義妹マリアンヌのとんでもない誹謗中傷、大ウソはなんの確かな検証も受けることなく、わたしは罪人として裁かれることになった。



どっから用意してきたのか、生卵や、色のキツい爛熟した果実などが、王宮の男たちの手によってつぎつぎにわたしの身体に投げつけられる。


透き通っていたわたしの水晶の身体は、みるみるうちにけがされて汚物にまみれていった。


義妹のマリアンヌは、王子様の身体にしがみつきながら、勝ち誇った顔で一段高い玉座に近い場所からわたしのことを見下ろしていた。


悲しげな表情の王子様は、自分の腕にすがりついてる女がどれだけ腹黒い顔をしているかにまるで気づいてない様子。


わたしは、深い幻滅を味わっている。


あんなに鈍い人だったの?


それとも、まだ病の後遺症が頭に残ってるの?



色々なモノを投げつけられるけど、身体は痛くない。


長い旅のあいだに身体はどんどん強くなっていったし、なによりも今は水晶の身体。


でも、心は。


心はズタズタに引き裂かれたように痛んでいた。


この胸のなかのやわらかい部分だけは、どれだけ冒険を重ねても強くはならないみたいだった。



□□




わたしは水晶の身体のまま、幾日も幾日も中庭に放置された。



寒い日も、暑い日も、野ざらしにされたまま。



何日も何日も。



雨にうたれ、雪におおわれ、火がつきそうな炎天下の日だって、凍えるような寒い日だって。



ずっとそこに放置された。



義妹のマリアンヌは、王子様との間になにかの進展があるたびに見せつけに来た。



付き合い始めて、仲が深まり、身体の関係ができて………そういうのを、いちいち見せつけるために、王子様とともにわたしの前に現れた。


そして、プロポーズのときも。


義妹マリアンヌは、中庭でのプロポーズを要求したらしく、わざわざわたしの目の前で婚約指輪をその指にはめられていた。


なんでここまで性悪になれるのか、呆れるくらいだった。




そして、結婚式。



マリアンヌは、わざわざわたしを結婚式場の大聖堂まで運び込ませて、式の一部始終を見せつけてきた。



腹黒いマリアンヌは、王子様と誓いのキスをする瞬間も、薄目をあけてこちらを横目に見ていた。



愉悦にひたりきった勝ち誇った笑みを口の端にうかべて。




義妹と誓いの口づけをかわす王子様の姿を見て、心のなかで何かが音をたてて崩れた気がした。



自分を支えていた、最後の柱が、心のなかで音をたてて。



石のような心になって、ただ王宮の庭にたたずんでいた。



泣くことすらできずに、腫れあがった心を抱えたまま。



どす黒い雲が覆った、ある日。


マリアンヌがわたしのまえにやって来た。


大きなお腹、妊婦のお腹をかかえて。



「どう………義姉さま………」



ゆっくりと自分のお腹をさすりながら。



「ヘンリー王子は、いえヘンリー次期王は、お腹の子供をふくめて、マリアンヌのことが愛しくて愛しくて仕方ないってさぁ!」



バカ笑いをはじめる。



「わたくしの勝ち。完全勝利よ。ずっと、勝ったつもりになって優越感にひたってた義姉さま」



その瞬間、怒り、積もりに積もった怨念が臨界点に達した。



目の前が、黒いペンキをぶちまけたみたいに真っ黒く染まっていく。



まだ、少女のような清らかな部分を残していたわたしの心が、クロの単色画の壁画みたいにドス黒く塗り固められていく。



マリアンヌが悲鳴をあげていた。



「いったい、なにをしたの!?」



どうやら、黒く塗り固められているのはわたしの視界だけではないらしい。



世界が、風景、まるごと黒く染まっている。



「なにをするつもり!?やめて!!」



もう遅かった。


なにもかも遅かった。



わたしにも、止める事なんてできない。



世界はどんどんと黒く染まっていく。



わたしの、心臓の形状カタチに虹色のきらめきを残して、世界は暗黒に包まれた。




―――聖女のタマシイが闇に染まりしとき、真に強大なる魔女がこの世に誕生する。




そんな、冒険のさなか、どこかのほこらで目にした古い古い伝承が脳裏によみがえっていた。




□□




ハッと気がつくと、わたしは魔王の城にいた。



目の前には美しい銀髪の大魔王。



「そなた………どうしたんだ、その髪、それに………雰囲気が一瞬で別人のように………」



はちみつを溶かしたみたいな色をしていたわたしのブラウンの髪が、漆黒の黒髪になっていた。


それに、目元は娼婦のようにキツいメイクになっている。


なにより、わたしの手に握られていた精霊王の剣が、ドス黒いオーラを垂れ流す禍々《まがまが》しい剣へと変貌を遂げている。、


さながら【悪霊王の剣】とでもいったかんじ。




戸惑ってる魔王を前にして、わたしはすべてを悟っていた。



「どうやら、時を超えたみたい………新しい魔女の権能で………」



そして、妖艶な誘惑的な眼差しで魔王を見つめる。




「こういう女は………お嫌い?」



美しい魔王は、完璧すぎる美貌をうっとりと上気させて



「こんなに美しいひとは見たことがない………」




魔女となって転生した今のわたしには魔王の心の底の底まで見透かすことができた。



彼の胸いっぱいに広がるわたしへの愛情。ピュアな真心。まるで、少年みたいに一途な純愛。



わたしのことを愛するあまりに、命まで捧げる覚悟であることも。



だから、前世では無防備にその心臓をさらけ出した。



わたしは、魔王に歩み寄ると、その首に腕をからめて、迷わず口づけをした。



母乳を求める赤ん坊にみたいに、一生懸命に口づけにこたえる魔王。



「わたしのために、戦ってくれる?」



少し甘えた口調でそう問うと、魔王はまっすぐな眼差しで力強くうなずく。




「そなたのためならば、天の国の神の首も、地獄の底の悪魔の首も討ち取ろう」




………絶対に許さない。



あの義妹オンナも、愚鈍な王子も、



あの腐った王国の連中も。




その日から、史上最大の魔女に転生したリリー・エルベルトと魔王の大軍勢による容赦のない侵略がはじまった。



聖女の強力な加護によってかろうじて魔王の軍勢に対抗していた王国の兵士たちは見るも無残に敗退をくり返した。



そして、ついに王国は新生魔女リリー・エルベルトと魔王軍の前に屈服し、あえなく陥落する。




□□




裏切り者の義妹と、王国の重鎮たちは、生きながら地獄の第一階層へと堕とすという魔女式の懲罰を与えてやった。


殺さずに、生きながら地獄の底に堕としてやるのは、温情だった。



誰かが地獄にむかって蜘蛛の糸でも垂らしてあげれば生きて生還できる可能性がまだ残ってる。そんな寓話みたいな奇跡が起これば、ね。



魔王の眷属たち、ともに王国を滅ぼした魔王軍の幹部たちと一緒に、ダンスパーティーを開いた。



下がガラス張りになっていて、地獄の第一階層が透けて見える魔女特製のダンスフロアで。



全裸で地獄の第一階層へ堕とされた義妹マリアンヌは、地獄の魑魅魍魎ちみもうりょうたちに襲われるまえに、ともに堕ちた王国の重鎮たちに襲われて、酷い目にあわされたあげくに殺されていた。


この世の秩序が通用しない場所においては、いつ理性のタガを外して蛮行を働くか分からない。そんな動物レベルの男たちだった。


マリアンヌを殺した王国の重鎮たちもまた、地獄の鬼たちに追いかけまわされていた。



彼らがどうなったか、確認するまでも無かった。




愚鈍なだけで直接の罪を働いたわけではないヘンリー王子様と王たちは、助けてあげることにした。



魔法で犬や猫に姿を変えて、一生飼ってあげる。



犬になったヘンリー王子は、ダンスフロアで踊りながら激しく口づけをかわすわたしと美しき魔王の姿を、涙ぐんだ目でジッと見つめていた。




「あなたにも見せつけてあげるね、わたしと彼が愛し続けるところをずっと」




魔王は、犬になったヘンリー王子に流し目をくれるわたしを自分のほうに向き直らせると。




「そなたを永遠に愛し続ける………万物が滅び去り、この世のすべてが消えてなくなっても、そなただけを」



そう真っすぐな瞳でささやきかけてくる。



いまのわたしには、魔王の心根コトバに一切の嘘偽りが無いことが分かる。



犬になったヘンリー王子が、激しい後悔と、絶望と、胸を焦がすような嫉妬に責めさいなまれていることも。



わたしは、軽く吐息をついて魅惑的で艶やかな魔王のくちびるをうけいれた。


ひんやりとして、甘い感触のくちびる。



悲しげな遠吠えをする犬のヘンリー王子。



どれだけ後悔したってもう遅い。




「世界が破裂するぐらい………幸福と快楽を味わいつくしてあげる」





【おわり】

貴重な時間を割いて読んでくださって本当にありがとうございました!


長編作品も連載中です。


『異世界転移したのでステータスを『魅力』に極振りしたら、現実世界の境遇が激変しました。全人類にモテまくって出世して世界の覇権を握りそうな勢いですが、異世界で美少女とのスローライフを希望します。』


https://ncode.syosetu.com/n9210ig/



この作品のストーリーをより深堀りしたような、異世界恋愛のエピソードがたくさん盛り込まれたファンタジー作品となっております。


この短編を読んで、もし「波長が合うな」と感じる方がいらしたらぜひとも長編『魅力に極振り』のほうも読んでみてください。楽しんでいただけると思います。



ここまで読んでくださいまして本当に本当にありがとうございました!

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