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(エセ)占い師始めました 2

 まずは宿の確保だ。すべての記録(アカシックレコード)はあらゆる情報を記録している。偶然立ち寄った街の宿情報まで。

「二泊で頼む」

 絞殺による喉の不調は長く続かなかった。変声期の過渡期はまだ続いているが、少し声が出しづらいくらいだ。会話は問題なく行える。

「二泊ね。宿泊費は先払いよ」

 宿の一階は食堂も兼ねているが、昼下がりの時間帯はのんびりしたものだ。

「女将さん、何か失せ物はないかな? 私は占い師なんだ。失せ物探しが得意な」

「あら、そうなの? 探しものはあるけど、切羽詰まってるほどでもないのよね」

「占ってほしそうな人を紹介してもらえるなら、女将さんはタダで見るよ」

「そう? じゃあ、無くしたイヤリングの片方のことを占ってもらおうかしら」

(アレクサ、失せ物の場所は?)

 厨房の野菜の中に紛れている。

 アキラはカバンから革袋を取り出した。

「これは、私が毎日少しずつ力を込めている石なんだ。石に問う気持ちで、その探しもののことを思いながら一つひいて」

 それが適当に拾った“いい感じの石”である。つるりとしていて、特徴のある色や模様が入ったものだ。洗って乾かして革袋に詰めている。正真正銘ただの石である。ひいてもらった石にインスピレーション受けたふりをして誘導するのだ。

「赤い石……“火”だ。しかし、水気も感じる。風呂場、いや、雑多なものを感じるので、台所、厨房。赤の中に埋もれている」

「……あっ! ちょっと待っていてちょうだい」

 女将は席を立った。しばらくして戻ってきた女将は、手に失せ物であるイヤリングを持っていた。

「野菜カゴの中に入り込んでいたわ」

「それなら、いずれ見つかったかもしれないね」

「早く見つかったほうがいいわよ。ありがとね。ふふっ、旦那にもらってさ、つい嬉しくてつけっぱなしだったの」

 そこから女将に紹介してもらい、そのつながりで何人か話を聞いた。いくらか懐が潤った。何故か、パンと焼菓子までもらった。

 女将には、夕食には少し早い時間だが、新メニューの試食を頼まれた。具だくさんの赤いスープ。酸味が強めで、アキラの知るミネストローネによく似ていた。

 城では、味が薄めのものが提供されていた。濃い味付けが好みというわけでもないが、それにしても薄すぎた。口に合わなかった。それがこの世界での基準だと思っていたのだが、後で確認すると、それはあくまで城内の日常の食事に限ったことであった。城内では粗食の推奨なのだ。毒物の混入に気づきやすいようにという狙いもある。一般市民の食事は、今アキラが食べているものが平均的なものだ。“普通においしい”という言葉の正しい使い方の一つである。味が二の次の携帯食で道中はしのいできた。料理無双をしなければいけないのかと思っていたので、“普通においしい”には安堵した。

「私の感覚では酸味が強いかな。チーズやバターなどの乳製品でマイルドにするとか、いっそスパイシーな方向に持っていくとか、卵を落としてもいいかもしれない。今思いついたものなので、参考程度に」

「ありがたいわ。具体的に改善案を出してくれたけど、料理ができるの?」

「嗜む程度に」


 面倒なしがらみができないうちに、ある程度の路銀を稼いで次の街へと発ちたい。そうアキラは考えていたのだが、予定通りにはいかないものだ。“私”(アカシックレコード)はあくまで今までの記録であり、確定した未来は記されていない。

 朝食も女将がサービスしてくれた。アキラが食堂のすみを利用して占いをしていたため、ついで利用の客の入りがよかったのだ。夕食後も占いで一稼ぎさせてもらったのである。

 朝食はパンと温かいスープ。四角ではなく山型だが、アキラの知る食パンの形をしている。昨日に占いの代金とは別にオマケでもらったパンより柔らかく、甘い。アキラの舌に馴染みのある味と食感だった。

「おや、ショクパンは珍しいかい?」

「昨日にもらったものと趣きがちがうと思ったんだ」

「異世界知識だよ。このあたりだと、パンの技術が根付いてる。ソーザイパンはあまりよそでは見ないんだってね」

 比較的時代の近い日本人の可能性が高いと予想した。それはすでに根付いた文化となっているとのことなので、ある程度以前のこと。もう故人だろう。わざわざ確かめるほどの興味もない。

 コリーも言っていたことだが、この世界には時々異世界人がやってくる。技術や知識が持ち込まれ、パラダイムシフトが起こるほどであれば広く分布する。だが、やってくる異世界人は、ほとんどが一般人で、影響力のある専門知識を持っているものはめったにいない。村の名物程度でとどまるものがほとんどだ。

「もう占いを聞きたいって人が何人か来ているよ」

「場所、今日も借りるよ」

「もちろん。ついでにお茶飲んで行くように言ってくれる? 今日は当て込んで焼き菓子もあるの」

 いいように使ってくれるのであれば気兼ねなく場所を借りられるというものだ。貸し借りは後腐れのないように早く精算してしまうにかぎる。

 食事を終え、即席占い道具を用意する。

「占いを待っている人だね? どうぞ、こちらへ」

「あの、探しものが得意って聞きましたけど、他の占いはできますか?」

「できるけど、きつい言葉を使ってしまうので、オススメしないよ」

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