転生したら殺人事件の被害者でした 6
「そろそろ聞いてもいいかな。オレはほとんど何も知らされずに協力するハメになったんだが、何が起こってこうなったのかを」
「聞いても面倒なことになるだけですよ?」
「もう関わってしまったんでね。き・か・せ・て。あと、敬語いいから」
「……チッ。根拠はあるけれど、大体は推測だ。おおいに私の勝手な想像も含んでいるのであしからず。まず、私について、の前に。この世界で社会を構成している者をまとめて人とするが、もともとはコリーさんのようなもふもふだけで、そこにちょいちょい異なる世界から客人が現れるようになり、私のような姿の者から、交わることのよってその中間のハチのようなものまでが現れるようになった。この解釈で合っているかな?」
「あぁ。今も時々、異世界からやってくるものはいる。お前も、なのか?」
「半分は異世界から。異世界という概念があるという確認させてもらった。私は、精神だけこの世界にやってきて、殺されたエレン身体に入った。ここからはエレン殺人事件の話だ。昨夜、この身体の持ち主は首を絞められて殺された。まず、ざっくり流れを話す。夜の祈りの時間になり、スレイは“神官”を呼びに行った。“神官”は殺されたエレンを発見した。スレイが呼び出しにいった僅かな時間に殺された。そういうことになっている。少し戻って昨日の昼から始める。昼食後、エレンは不調で寝込んだ。今日のように、昼食はハチが毒見をした」
食堂を使う場合はその限りではないが、自室で食事をする場合はハチも同じものを食べる。毒味という役割で。脱出前に摂った昼食でも、ハチの毒味が入った。
「はい。具合が悪くなったのは昼食後でしたが、同じものを食べた誰も不調はありませんでしたから、関係ないと思いますが?」
「偶然だったかもしれないが、もし関係しているなら、エレンの身体には軽い毒だったんじゃないかと思う」
隅々までは調べられなかったが、図書室の医学に関する本棚で、タイトルからの判断だが、アレルギーに関する書物はなかった。アレルギーがないのか、まだ発見されていないのか、わからなかったが。異世界から時々人がやってくるようだが、まだもたらされていない概念なのかもしれない。
「何か珍しくて初めて食べたものはなかった?」
「ナンベリーという珍しい果物が献上されましたので、それが出されましたね」
「それかもしれないね。何にせよ、嘔吐して寝込んだ。ここで、自分だけ嘔吐したエレンは勘違いした。自分は、妊娠したのではないかと思った」
「おい、美少年、それは──」
「後で話すから、殺人事件についての顛末を話させてくれ。妊娠したと思ったのは、心当たりがあるからだ。ではその心当たりの相手は誰なのか。“神官”と王だ。私の中に残っているエレンの記憶にもある。ハチ、鼻が利くなら、知っていたんじゃないか? 祈りの時間は席を外していたそうだが、においくらい残っていただろう」
「……はい、知っていました。アキラ様、そこまで詳細なエレン様の記憶を持っているのですね」
「記憶があると知られると、危険があると思ったから、少しごまかしていたんだ。夜の祈りの時間は、エレンと“神官”の逢瀬の時間でもある。エレンは“神官”に告げた。妊娠したかもしれない、と。エレンにはとても喜ばしいことだから、開口一番に。それを聞いた“神官”はエレンを殺した。強盗に見せかけた偽装は拙いものだが、たいした調査が入らないため、十分だった。警備も厳しい城内で強盗なんて不自然も極まりないと思うけど、可能性はゼロではない。エレンはおおやけにされていない存在だ。調査はほとんど行われなかった。それっぽいストーリーがあればよかったんだろう。話を戻す。開口一番に告げられ、殺してしまった“神官”は第一発見者のフリをして、スレイに助けを求めた。スレイは早めに“神官”を呼びに行く。“神官”も多少の準備で時間は前後する。ごまかせなくもないくらいしか時間が経過していないと思ったからだ。以上が、殺人事件の流れだ。ミステリ小説のトリックとしてはあまりにも拙い。その後は、エレンを生き返らせようとして、私の精神が入ってしまった。憶えているよ、“神官”に首を絞められたことも。さて、ここで疑問が何点かある。まず、この身体は妊娠はしない。コリーさんが美少年と言ったとおり、この身体の性別は“男”だ。だから、私はこの身体が自分のものでないとすぐにわかった。念のため、この世界では男も妊娠するのか調べてたけど、せいぜい伝承の中でしか見つけられなかった」
医学の本棚で、妊娠出産に関する本をざっと読んだが、そこはアキラも知るとおり、妊娠するのは女性である前提で書かれていた。伝承の本棚で見つけた神話の中では、男でも産んでいたが。調査時間が短かったとはいえ、男性妊娠に関してはおとぎ話レベルだと判断するには十分だった。
「何故、エレンはそう勘違いしてしまったのか。一言でいうと、アホだからだ。性行為は子を成す行為であることを知っていたが、男は妊娠しないと言うことを知らないいびつなアホだ。筋金入りの箱入りで、勉強もあまり得意ではない。何もせずとも生きていけた。それで許されたのは、王の愛玩具だったから。話は前後するが、エレンにとって性行為は愛し合う行為だと教えられた。王の舌先三寸だが。だから、エレンは“神官”にも教えた。愛し合う行為だと。では、“神官”も真に受けたのは何故か。“神官”もたいがい箱入りだったからだ。特に王族にかかわる神官は、穢れのないように、ほとんど外にも出さず、神の教えだけを学び、祈り続けるとあった」
「生まれた時から神につかえるとは、そういうことだったのですか」
「王はエレンを性的な愛玩具としていたため、隠していた。知恵もいらないので、たいした教育はしなかった。都合の良いアホができた。それとは別に、神バカというアホを作るシステムがあった。自分の息子を“姫”として閉じ込め愛玩具にできる倫理観を持った王とアホ二人によって引き起こされた悲劇かつ喜劇というところかな。隠すからには、関わる人は少ない方がいい。だから、ハチがすべての世話をしていたんだろう。ちなみに、城脱出の際に私は女中服を着て変装したのだけど、その服は王の戯れで女中が毒牙にかかるプレ……ごっこのための服だ」
「いやな情報重ねるなよ」
「聞きたがったからには、聞いて責任を取ってもらおうかと。あぁ、もしかするとそんなに特殊な性癖でもないし、この世界ではよくある慣習だったかな? 私の価値観で話してしまったね。すまない」
「ほらー、ハチが泣いちゃってるだろうが」
コリーの言う通り、ハチは膝を抱えてグズグズ顔から水分を垂れ流していた。
「私が……私が、もっとエレン様にお勉強するようにと強く言っていれば……こんなことには……なっていなかったのでしょうか?」
「知らないよ、どうなってたかなんて。責任を負うのは勝手だけど、こっちにまで同意を求めて何かを負わせようとしないで」
「ほらー、ハチがもっと泣いちゃうだろー。もっと言葉があるだろ。無駄な軋轢は嫌だったんじゃないか?」
「多少の軋轢が起きようが、独りよがりの勝手に押し付けられた責任は負いたくない。私は私を優先するだけだ」
「お前、いい性格してんな」
「ありがとうございます」
「ホントいい性格してんな!!」
「いいんだ、コリー。あとから嘆くから後悔なんだ。時間は戻せない。これから後悔しないために、誠心誠意アキラ様に尽くすと決めた!!」
「うわこいつめんどくさい知ってたけど」
アキラは顔を歪めた。コリーはケラケラ笑っていた。