転生したら殺人事件の被害者でした 5
「出発は明日じゃなかったのか?」
「うちの祖母さんが、明日は日が悪いから今日に行けってせっついてきたんだよ。祖父さんが死んでからも元気なこった」
「ははっ! 気をつけて行ってこいよ。最近、夜は冷えるからな」
コリーと門兵の会話を、アキラは荷台で荷物のふりをしながら聞いていた。
移動手段は馬車。明日の出発のために用意はできていたので、すぐに出立することができた。門兵と言ったが、城壁があるわけでもなく、街道へつながる通りに、人の流動を知るため、人が置かれているだけだ。馬車の何かを調べられるでもなく、挨拶程度で進められた。
街を離れ、やっと緊張が解けた気がした。
「これでエレンは死んだ。私は世間に疎いただの美少年(※他称)だよ。それでもついてくるのかい? スレイ」
「もちろんです。何かご都合が悪いのですか?」
「うーん、半々かな。当面は路銀と案内人が必要だ。この世界に慣れるまでは。ただ、私は一人大好きの人間嫌いだからね」
「ご安心ください。私、犬でございます」
「私が言う人間は、言葉と人格と知性を持った者、くらいの意味だから、十分に対象だよ」
「犬で! 犬でいさせてください!!」
「……コリーさん、古くからの知り合いみたいだから聞きますけど、もとからこうなんですか?」
御者台のコリーに問う。
「崇拝の対象が変わっただけで、あまり変わらないな」
首輪のせいかもしれないと思っていたが、本来の姿らしい。
「人間嫌いというわりに、そうは思わせない人当たりに見えるけど?」
「一番面倒なのは無駄な軋轢です。適当に付かず離れずが、面倒がないですから。ただし対人関連動作は何でも社会性擬態耐久値が減少します。メンタルポイントと同種なので、寝て回復するわけでもないです。今も少しずつ減っています。スレイは、もうしばらくは割り切るしかないかなと思っています」
「ポイント? スレイは、頭はいいはずなんだが、夢中になると一辺倒になる。頭はいいはずなんだが」
「頭がいいからこそ、だと思います。直接身体への刺激でなく、思考や感情といった脳への刺激で快楽を得られる」
「あぁ、うん。そういう感じだ。それで、美少年くん。エレンが死んだっていうなら、美少年くんは何者かな?」
「“アキラ”です」
「アキラ様ですね! 聞いたことのない響きですが、どのような意味なのでしょうか?」
スレイはやっと聞けたアキラの名前に飛びついた。
「私の国では表意文字をつかっている。太陽を表す文字を三つ組み合わせて一文字で、“晶”と読む。明るくてキラキラ輝くという意味だ。あぁ、アキラという名前は男でも女でも名付けられる名前なんだが、私は元の世界では女だったよ」
「……エレン様のお名前も、輝く光という意味を持っています。スレイという名は、エレン様にいただいたものです。エレン様にお返ししますので、新しい名前をいただきたいです」
「え、やだめんどくさい。コリーさん、スレイの前の名前って何ですか?」
「新しい名前をくださいぃ~!!」
「ポチとハチ、どっちがいい?」
「それはどのような意味が?」
「ポチは一般的な犬の名前。ハチは有名な忠犬の名前だ」
「これからはハチとお呼びください!」
スレイあらためハチは食い気味に宣言した。
「ハチ」
「はいっ!」
「うるさい。声だけじゃなく、まとわりついてくるのもうるさい。静かにして」
「……はい」
ハチはしょぼくれて隅の方に縮こまってしまった。