和を以て貴しと為せず(性格的に) 4
片付けが終わったころにハチは戻ってきた。
「片付けなら私がしましたのに」
「そういうのはいいから。私はできることは自分でしたいタチなんだ」
自分で完結して人との関わりを極力抑えるために。金銭はそれを解決してくれる。貨幣経済はいいものだ。
「いつでもお申し付けください。私はアキラ様のため……申し訳ありません、訂正します。私がアキラ様のお願いを聞きたいという、私の欲求のために!」
「うるさい」
「はい……」
おためごかしよりずっといいとアキラは思った。マシになったとはいえ、アキラの評価はマイナスのままであるのだが。関わってこようとするかぎり、マイナスである。
「常にアキラ様のお願いは聞きたいのですが、ところで、私からお願いがあります」
「その前フリ必要か? 聞くかどうかは内容による。何だ?」
「城に、資料室として作られたであろう部屋があるんです。今は空っぽですが、棚がたくさんあり、作りが強固で、窓も小さい。アキラ様にご使用の予定がなければ、私に貸していただけないでしょうか? 賃貸料はお支払いします。魔王城の調査の許可もいただきたい」
「かまわないよ。賃貸料はいらない。私は君を雇っている。福利厚生の一環と思ってもらっていい。私はパトロンだ。存分に学問に励むといい」
「いえ、私の本懐はアキラ様に仕えること。学問は二の次……」
「それ、いらない。学問を第一にしてくれ。金なら出す」
「お仕えさせてくださいお世話させてください! お金で解決しないでください!!」
「できるなら金で解決するのは当然だ! なんせ自称小金持ちだからな! ひとつの“報われる”に対して、何十倍何百倍の“浮かばれない”があるだろう! コスパが悪すぎる! 計算しろインテリ!!」
「ひとつの成功のためには、99の失敗や実験が積み重ねられるものです!」
「何だよそのエジソンみ! アレクサぁ! ヨークの屋敷の最短ルート検索~!!」
恋に落ちると赤い実がパチンと弾けると言うが(国語の教科書参照)、社会性擬態耐久値が急降下したときにも音はするのだろうか。音がしそうなほど身体が冷え、ひどいめまいでぐらつくような最悪の心地だった。
アキラは思う。初手で間違えた。しかし、ハチを利用しなければ城の脱出は叶わず詰んでいた可能性も高い。“私”を信じて一人で脱出するのがアキラの最適解だったのだろうが、それは今だから導き出せる選択だ。二周目でもなければアキラにはありえない。ナビゲータ役が付与される異世界転生物は、よく初見でそのナビゲータ役を信じられるものだ。ナビ役を装った何かの場合、物語として見つけられることなく消えていくだけで、ただの生存バイアスなのだろうが。
今の状態が最適か、それは時の流れが不可逆である以上やり直してみることはできず、誰にもわからないのである。
「時々独り言でもおっしゃっていましたけど、アレクサとは何者ですか! 私というものがありながら!」
「お前がいるからだよ驕るな思い上がるな省みろ! ただのイマジナリーフレンドだよ! ……ちがうな、ただのイマジナリーGoogle、それも最近ノイズばっかりか。イマジナリーChatGPT……イマジナリーAIチャットボットだ」
「ぐーぐる? ちゃっとが何かはわかりませんが、“ただの”とつけるには、ただごとでないのでは?」
「それ以上は秘密だ」
******
こうして、アキラは魔王城の主となった。
悠々自適に暮らすには、まだ貯蓄が必要だが、財を得る最適は“私”が選別できる。時間の問題だ。
アキラの望む静かな生活があるかといえば、言うまでもなく。アキラが再来した魔王と呼ばれるまでも、時間の問だ「おいちょっと聞いてない聞き捨てならない、やっぱりフラグが立ってるんじゃないか、どういうことだ! ワーグナー、じゃなかった、シューベルト的な魔王になるぞ!?」
お疲れ様でした。オチ? ないよ。
とはいえ、ちまちまがんばって書いたので、感想とかいただけるとうれしいです。
Twitterで書いたよーくらいしか言ってないけど、そこ以外からも見てくださる方はいるんですね。公開してるから当然なんですが。
見つけてくれてありがとう。ここまで読んでくれてありがとう。うれしいです。




