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和を以て貴しと為せず(性格的に) 3

 お使いから帰ってきたハチはなにやら神妙な顔をしていた。

「本屋へのお使いもありましたから、少しだけ私の専門だった本も見てきたんです。共著ではありますが、同期の友人の名前を見かけました。アキラ様がおっしゃる志が、まだ私の中にあるのだと自覚したんです。すぐに切り替えることはできませんが、少しずつそちらに関われるようにしていきたいと思いました」

「いい話じゃないか。協力は惜しまないよ」

「では、お聞きしたいのですが、アキラ様は古代魔法を使っていましたよね? 何故それを?」

「話せば長いし、秘密だ(めんどくさい)

(アレクサ、しゃべっていいのか?)

 禁則事項です。

(やっぱり。……お前、私の脳内フルスキャンしてるか、異世界の記録までしてるだろ)

「古代魔法の一つでも使えれば! 判明することは一つや二つではないです!」

ずる(チート)はダメだよ、ずる(チート)は。この世界に対しておもいっきりずるしている私が言えたことではないけどね」


 マジカル3Dプリンタを日がな一日眺めているのも限界があるので(ハチはずっと眺めていられるようだ)、今後のことについて考えてた。今のところ、すべての記録(アカシックレコード)の助けもあって、この世界は元いた世界での生活よりはずっとマシだ。元いた世界では、不慮の事故で死んでしまっている。そもそも戻りたいとは思っていないが、戻りたくても戻れない。戻れたとして、もうあの世行きは確定している。一方通行なのだ。だから、この異世界で生きていくしかない。そう思って安住の地を探した。思いの外、容易く手に入れることができた。別荘まで見つけることができた。目下の大きな目標を達成してしまったのである。

 しばらくは魔法の学習と、十分なたくわえを作る予定は立てているが、すべての記録(アカシックレコード)のおかげでそれも難しいことではないだろう。

 何でも知れるということは知りたいという欲を激減させてしまう。現地まで赴かねばならない安住の地探しのように、フィールドワークが必要な趣味でも見つけたいところだ。できるだけ一人で完結することで。

「わっ!」

 ハチが驚きの声を上げていた。見ると、紙吹雪がひらひらと舞っている。

「……アレクサ、何?」

 修繕完了の合図だ。大規模な修繕の場合に発生するように設定されている。

「アキラ様、これは何でしょうか? もうできあがると見ていたら、急に弾けてひらひらと落ちてきたのですが」

「魔王のお茶目らしい」

「お茶目、ですか?」

「これで魔王城の再生は完了だ。もう君も入って大丈夫」

「いいんですか!?」

 魔王城も古代の範疇であるため、専門ではないものの、もともとその分野にいたハチの喜びはひとしおだ。うきうきそわそわしっぽをぶんぶんと、文字通り体現している。

「い、いえ! アキラ様をおいて、私がそんな!」

「そういうのはいいから、みたいなら見てこい」

「ありがとうございます!」

 ハチは『ございます』にはもう背中を向けて走り出していた。境界の柵もその勢いで飛び越えていく。

「執事然としてた方がかっこいいとか、おべんちゃらっておくべきか」

 アキラはもう不要になった境界の杭と縄の撤去を始めた。

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