はたして魔王城は買えるのか? 4
翌日、アキラはまた銀行にいた。アキラの口座から制限付きでアキラ以外が金を引き出す事ができるカードを作るために。大きな支払いは済ませてしまっているが、事務処理にはある程度の金額がまた必要になってくる。それを、ハチが引き出せるようにするためだ。必要なことは昨日に確認しておいた。
「アキラ様……。昨夜にあのようなことをしたにもかかわらず、私を信頼してくれているのですね……」
「君は私から逃げないだろう。持ち逃げしたいならしてもいいよ。一時的な懐の痛みで君を追い払えるなら、金くらい出す。手切れ金か退職金だ。私に深く関わってこようとする者がいなくなるなら、それはそれでいい」
万が一、ハチがアキラの財を持ち逃げしたとして、金のあてはまだいくらでもある。自ら逃げたのであれば、そう簡単に戻ってくるまい。使い込みが発覚すれば、それを理由に解雇して近づけさせないこともできる。何かあったとして、アキラにはリカバリー可能な懐の痛みにしかならないのだ。
「酒を飲むなとは言わないが、あまり飲まないほうがいいと思うよ。じゃあ、留守番は頼む。私はしばらくぶらぶらしながら稼いでくるから」
「街の外までお見送りします!」
「いらない」
ハチはしょんぼりしているが、まだめげてはいない。
「行ってらっしゃいませ」
「いってきます」
(アレクサ、しばらく黙っていて)
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アキラがアレクサを黙らせたにはわけがある。
ハチは、アキラの返答を期待していたが、期待していなかった。
アキラにとって、挨拶は最低限の社会性に含まれていた。
アキラは定型文を返したにすぎないが、ハチがそれを重く受け止める可能性があると思ったのだ。どう受け止めようが、アキラはハチのリアクションを知りたくなかった。
だから、アレクサを黙らせた。
黙らせた意味がないほどのリアクションを背中に感じたのだけど。




