はたして魔王城は買えるのか? 1
はたして魔王城は買えるのか? 4分割
「モンタギューの魔王城と何がちがうかといえば、この街がヘイウッドというくらいですね。あちらの持ち主はミックさんでしたか。こちらはヒューゴーさんなのですが、山を隔ててあまり交流はないはずなのに、仲が悪いんです。今回の件も、向こうが交渉に失敗したと聞いて、ヒューゴーさん喜んでましたよ」
「私は性格が悪いものでね。ちょっと嫌なことを言われたので断ったんだ。顧客の情報をもらしてもいいのか?」
「それくらいは、ぜひこの売買を成立させたいと、ヒューゴーさんが」
あちらは失敗した。こちらは成功した。それが彼らには優劣なのだろう。
「私はあくまでこの土地を買いたいだけだ。確執は理解したが、持ち出さないでほしい」
「あぁ、そうですね。人のケンカには巻き込まれたくはないですよね」
「候補地はまだある。面倒だと思ったら候補地から外すだけだ」
「あぁ、はい。伝えておきます」
アレクサによると、モンタギューの魔王城とかわりはないということで、街の様子を見てまわることにした。人里離れたというほどではないが、魔王城は人の賑わいから離れたところにある。とはいえ、街とまったく関わらずに生活はできない。
できるだけ興味は持たれたくないのだが、エレンから引き継いだ容貌と、“魔王城”がそれを許してはくれまい。鏡を見る習慣がないのでよく忘れるが、アキラは今、“美少年”なのである。
街中を歩いてみた。可もなく不可もなく、ほどほどに活気づいている。あとはほどほどに無関心であってほしい。
アラート。ハチが接近中。
アレクサのアラートにアキラは眉をしかめる。
「アレクサ、逃走経路は?」
やり過ごすにはすでにハチがアキラを察知してしまったので難しい。また、転送陣等に辿り着く前に追いつかれる計算になる。
“私”のアラート設定が甘かった。一定距離に入った場合としていたが、距離をもっと長く取るか、逃走経路や時間も組み込んで指定するべきだった。一定距離に、逃走時間は計算して組み込んでいたのだが、ハチの執着と鼻のよさがそれを凌駕してしまっていたのだ。初めての計算外である。
「試算が100%を保証しないいうことは承知の上だ。どうにもならないなら、今更だ」
アレクサは指定通りにアラートを出した。それ以上の気は使われたくない。気を使われては、まるで人格があるように感じてしまう。アキラは“私”に“人”を不要だと思っている。そんなものが付いてきたら、人間嫌いは悲鳴をあげる。
「……しかたない、利用するか。アレクサ、安全に迎え撃つ方法は?」
エナジードレインの陣がある。そこまで間に合うようにナビをする。呪文は■■■。
「■■■、合ってる?」
発動可能。陣を起動させる特殊な発声にも慣れたものである。
少年が四人いる。屋台での食品での買収が有効。
「わかった。発動のタイミングはお願い」
了解。
「アレクサ、なんでエナジードレインの陣なんてあるんだ?」
そこに屋敷があった頃の、セキュリティのために設置していた。呪文で直接起動するか、別の陣と連動させて起動する。連動したもう一方を撤去したので、もう一方はいいだろうと放置されたものが残っている。
なお、一つの陣に複数の機能を埋め込むことは可能だが、複雑さは指数的に増加する。機能を分割して連動させる方がはるかに単純な作りになるのだ。
「陣の不法放置だ。危ないなあ」
ナビに従いしばし歩く。指定の角で曲がると、少年二人が棒切でチャンバラをしていた。それを、もう二人の少年がやいのやいのと囃し立てている。ケモ分はそれぞれだ。
「少年たち、そこの屋台で奢るから、少しここを空けてもらっていいかな?」
「えぇ~? 空けるって、どれくらいだよ」
(アレクサ、ハチの到着まであと何分?)
13分と推測。
思ったよりも早い。間に合うようにと言ったので、急がずのんびり歩いてきたのはアキラだが。ハチは全力疾走しているところなのだろうとアキラは予想した。
「30分もかからない。そうだね、」
(アレクサ、陣を私に可視化)
投影。
少年の足元に陣があった。少年たちを奥に追いやり、陣から少し距離を取る。
「ここまで出てこなければ大丈夫だ」
「いいよな?」
「肉串!」
「オレ、フルーツ飴!」
「オレもいいぜ。兄ちゃん、何するんだ?」
「待ち伏せだ」
キャンディで少しだけ先払いしておいた。知らない人から食べ物をもらうことに抵抗がないようだ。
アレクサの予測通り、13分後、彼はアキラのもとにたどり着いた。全力疾走の名残で、肩で息をしつつ、一歩一歩と近づいてくる。あと二歩、一歩、そこ。
「アキ「■■■」
ハチはどちゃっと膝から崩れ落ちた。地に伏したところで、陣が停止した。
「君を雇ってあげよう。私は今、ちょっとした小金持ちなんだ」
どこかに定住すると決めたのだ。下手に逃げ回るより、コントロールしたほうがいい。
「はいっ!!」
体力を奪われた状態ながら、ハチの返事は元気いっぱいだ。
「しばらくここで待機していろ。少年たち、協力ありがとう。報酬を渡そう。どの屋台だ? 一人一品だ」
「やったー!」
「今度、ここに住むことになるかもしれないんだ。ついでにいい食事処を教えてもらえるかな? 教えてくれるなら、もう一品追加しよう。静かな店がいいんだけど」
「じゃあ、オレの母ちゃん働いてるとこ、あとで教える」
「ありがとう」
「あの兄ちゃんはいいのか?」
「いいよ、あのままで」
「わかんねえけど、なんか喜んでるからいいんじゃね?」
「ホントだ」
ハチは体力を吸い取られながらも、ぱったぱったしっぽを揺らしていた。




