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タコっちの怪 2

 街の目抜き通りを歩く。テイクアウトのために通り側を大きく開放している店も少なくなかった。衣をつけて揚げた海老にソースを掛けたものを買ってみた。クラーケンのテンプラよりも衣は薄くて柔らかく、甘辛いソースとよく絡む。火の通りがちょうどよく、海老の身はぷりぷりだ。

「アレクサ、ここでのお宝探しはやっぱりやめだ。次の計画を立ててほしい」

 承知した。

 海老が入っていた器をゴミ箱に捨てると、近くの屋台の若い男が早速売り込みにきた。

「お兄さん、この街の名物なんだけど、もう食べたかい? ディープフライってんだよ」

 魚肉の団子に細切りにしたじゃがいもをまぶして揚げたものだ。

「何故、ディープフライというんだい?」

「さあ? この街じゃ、ずっとそう呼んでる。今は何の魚でも作るけど、昔は馬鹿みたいに発生した海産物に困って作ったらしい」

「それも流浪の料理人?」

「お、よく知ってんな」

 アキラは苦い顔になる。

「揚げ物ばかり食べているんだ。何かさっぱりしたものはないかな?」

「あっちにフェイクミードがあるよ。花の蜜とレモンのドリンクだ」

「レモネードではないのか?」

「この街じゃ、フェイクミードだな」

「そう、ありがとう」

「今度は食べていってくれよな」

 海とは反対側には、山があった。その山中にお宝が眠っているということで訪れた街なのだが、不穏が過ぎた。“私”(アレクサ)はその宝を持ち出しても問題がないと言ったが、アキラの答えは『触らぬ神に祟りなし』であった。それがたとえ架空の神話の神であったとしても。

 山中に隠されたアルデバランという神殿には、“王の衣”(お宝)が眠っている。なお、クラーケンの浜上りは、その神殿へ引き寄せられるために起こっている。

 アキラは再度思う。触らぬ神に祟りなし。たとえそれが面白半分でつけられた名だとしても。

「趣味がいいのか悪いのか……」

 流浪の料理人とやらは本当に料理人だったのだろうか。アキラは少し疑問に思う。異世界人が勇者に祭り上げられ、たまたまその勇者の趣味が料理ができたとかで、倒して食べてしまったのではないか、と。

 もちろん、すべての記録(アカシックレコード)には記されているが、

「アレクサ、言わなくていい。……すみません、フェイクミードを一つ」

 もし、お宝を手に入れて何かが目覚めたとして、この街の住人ならばどうにかして食べてくれそうな気はする。人より大きなクラーケンを、おいしいという理由で食べてしまえるのだから。

 アキラは甘くて酸っぱいジュースを干した。

 ミードでアルデバランまでの道中も無事なのでは?

すべての記録(アカシックレコード)は黄衣の王に改題したのか? お前の起動呪文(コマンド)をアルアジフに変えるか?」

 “アレクサ”は呪文(コマンド)にすぎず、判別できるのであれば何も問題はない。起動呪文(コマンド)の変更を行いますか?

 →はい

  いいえ

  いあいあ

「……いいえ」

 ツッコんだら負けだ。余計な言いがかりをつけるべきではなかったと、アキラは反省する。

 “私”(アレクサ)はただのユーザーインターフェースだ。途方もないすべての記録(アカシックレコード)から必要情報を取り出し、アキラにわかりやすい形で伝える機能にすぎない。そこに意思はなく、人格もない。ユーザーフレンドリーであるために、このような言語体系で出力しているだけなのだ。

「邪神ジョークは必要なのか? あっ……」

 ツッコんだら負けである。何に対してなのかはわからないが、ツッコんだので、アキラの負けなのだ。


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