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タコっちの怪 1

タコっちの怪 2分割

ネットミームレベルのクトゥルフは必修だと思っている。

 そのダニッチという街では、ちょうど祭りが行われていた。

 クラーケン祭り。クラーケンとは、アキラ目線でいうと『5メートルほどのタコ』だ。見た目のとおり、処理をすれば煮ても焼いても食べられる。この街では普通に食べられているが、他では忌避されていた。ダニッチは海を臨み、(ラグーン)のある街だ。この時期に大量に発生するクラーケンが潟の内部にも迷い込み、そのまま浜へ上がってこようとする。アキラの知るタコはそれほどアクティブでアグレッシブではないが、クラーケンはそういう生き物なのである。祭りは、その浜を上がってこようとするクラーケンをバッサバッサと退治するものだ。力自慢が集まったり、子どもが徒党を組んで度胸試しをするなど、浜にクラーケンの山を築くのである。

 そしてクラーケンは処理される。タダ同然で各ご家庭に持ち帰られ、あるいは冷凍魔術がかけられた倉庫で保管された。一部、調理して振る舞われる。クラーケンをふるまう屋台は出ているが、人出のわりに小規模だ。串に刺し、焼いているクラーケンを配っているくらいである。地元以外ではほとんど食べられていないために、観光客は足が向かないのだ。

「おや、見ない顔だね。食べるかい?」

「ありがとう」

 クラーケン串を受け取って躊躇なくかじりつく。味付けは塩だけだが、十分にうまい。

「もしかして、あんたは異世界人かい?」

「そうだが、タ……クラーケンを食べると異世界人なのか?」

「この街以外でクラーケンを食べるところが全然なくてね。この街の住人じゃなけりゃ、それこそ異世界人くらいしか食べないのさ。とくに、黒髪の異世界人はよく食べる」

 そのうちのどれくらいが日本人なのだろう。思いながらクラーケンを噛みしめる。一口大に噛み切りやすいようにちょうど包丁が入っている。いい歯ごたえと旨味だ。ヨーロッパでは、スペインやギリシャにタコの料理があったとアキラは記憶していた。日本以外でも、おそらく地中海では食べている。

「今は、なんだけどね。このへんではクラーケンの浜上りは昔からあったけど、食べてはいなかったらしいんだよ。けど、流浪の料理人が、捨てるなんてもったいないっていって、みんなに振る舞って、調理法を残していってくれた」

「テンプラの衣、追加持ってきたよ」

 ボウルを抱えた女性がひょこりと顔を出した。焼き物だけでなく、揚げ物も振る舞っているようだ。

「お兄さん、テンプラも食べていくかい?」

「あぁ、もらおう。テンプラという料理はその料理人が?」

「そうだよ。衣をつけて揚げる料理だ。その当時と衣は全然ちがうらしいけどね」

 揚げたてをもらった。衣は薄くサクサクではなく、厚くザクザクしていた。天ぷらというより、フィッシュアンドチップスの魚の揚げ衣の食感だ。テンプラという名前の名残を考えるに、その流浪の料理人とやらは日本人か日本食マニアであろう。アレクサに聞けばわかるが、聞くほども興味はなかった。掘り返せば深みにハマってしまうのは、Wikipediaが証明している。

「このあたりはよそでは食べない海産物もよく食べるのさ。クラーケンが代表みたいなものだけど、ナマコやウニなんかも食べるんだよ。その流浪の料理人が、この街の財産になるようにって、料理の先生をしていったらしい。今となっちゃ、テンプラみたいに変わってしまったものも多いけどね。海鮮物の料理がおいしいところだって観光の目玉にもなってる。クラーケンはなかなか食べてくれないのよね。おいしいのに」

 クラーケンはよほど他では忌避されているらしい。

「このあたりの海は遠浅で、大きな港には向いてないが、海産物は豊富なのよ。そういう物は鮮度が命だからね。冷蔵魔法の保冷箱もあるけど、やっぱり現地で食べるのが一番。他もいっぱい食べていってちょうだい」

「ありがとう。ごちそうさまでした」

「どういたしまして」

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