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(エセ)占い師始めました 3

 彼女が現れたのは、喉を潤すために茶を飲んで一息ついたときだった。

 割り込んできたのは、見るだけでわかるほど上質な服を着た少女。帯刀した男と、女中(メイド)然とした女を連れた、絵に描いたようなお嬢様だ。

「あんたが探しもの占い師?」

「ちがいます」

 めんどくさ案件が目に見えていたので反射的に否定していた。

「聞いてるわよ! 怪しい美少年が石を使って占いしてるって! あんたじゃなかったら誰なのよ!」

「わかりきってるなら聞くな」

(アレクサ、──)

「私はオリヴィア・アストリー。この街の「鍵は後ろの女中(メイド)のポケットの中。エプロンの、女中から見て右のポケット。理由はお前を困らせるためだ」

 すべての記録(アカシックレコード)を利用したRTA(リアルタイムアタック)である。

「えっ……」

 オリヴィアは下ろしかけた腰を落ち着かせず、女中に飛びついた。アキラが指摘したポケットから、鍵を引きずり出し、顔を歪める。

「どういうこと?」

 睨みつけられたが、アキラは微動だにしない。

「何故、私に聞く? 見るからにそちら側の問題じゃないか」

「なんでわかったのか聞いてるのよ!」

「失せ物探しが得意な占い師が失せ物を探し当てただけだろう。占い師を信じていないのに、その占い師のところまできたのかい? 旅人が泊まる宿に臨時でできた怪しい少年の占い師のところまで。わざわざ訪れるほど切羽詰まっていた失せ物じゃなかったのかな? 見つかってお礼を言われるならまだしも、見つけて罵られるのは、遺憾に思うよ」

「私を馬鹿にしてるの!?」

「そうだよ。理知的とは言い難い、己の感情でしか動けていない、合理的でない行動は、とても幼稚だね。すまない、見た目で判断してしまった。私が思っているより実年齢は幼かったかな?」

 オリヴィアは顔を真赤にして乱暴に出ていった。好感度はおおいに下がっただろうが、RTAとしては成功している。評価はタイムのために犠牲になったのだ。RTA界隈ではよくある話である。

「すまないが、占いは店じまいだ。女将さん、私は今から発つよ。明日までの宿泊費ははらっているが、そのまま取っておいてくれ」

「もう?」

「あの手の輩は苦手なんだ。三十六計逃げるに如かず。あぁ、焼き菓子ははけたかな?」

「そこは心配するところかしら? 申し分なく売れてるよ、おかげさまで。用意したら言ってね。せっかくだから、ソーザイパンを持っていきなさいな」

「ありがとう」

 たいした量もない荷物をまとめると、女将は惣菜パンと焼き菓子を持たせてくれた。

「もし、何か文句を言ってくるなら、私のせいにしておいてくれ。すぐにまたここを訪れることもないだろうからね。あのお嬢さんが分別ある淑女に育つことを願っているよ」

 宿を出る直前、女性に引き止められた。

「もう占いはしていないんですか?」

「すまない。急遽発つことになったんだ。──この街では許容されているのかもしれないが、妻子持ちの男との恋愛は、個人的にはオススメしない」

「えっ…………聞いてない」

「女将自慢の焼き菓子を一つあげよう。食べて気力をつけるといい。人間の急所は中心線上にあると聞く」

 女性に焼菓子を握らせ、ポンと肩を叩く。

「確認します。ありがとうございます」

 善行を成した。アキラは思った。


 携帯食を買い足して街を出た。転送陣のショートカットができるので、夜遅くになってしまうが、次の街には今日中にたどり着ける。

 この街の名前はアストリー。あの少女は領主の孫である。あまり女性が産まれない家系であるため、甘やかされて育った。そして出来上がったのが、絵に描いたような高慢ちきなお嬢様。下働きの者たちも手を焼くくらいの。その下働きの者たちの鬱憤が、オリヴィアが大事にしている宝石箱の鍵を隠すということで晴らされようとした。オリヴィアが気づいたのが早かったため、主犯の女中は隠しきれずポケットにしまった。オリヴィアは藁にもすがる思いでアキラを頼った。たった一日で美少年占い師は(範囲は限られているが)名を馳せたのである。

 アキラの失せ物発見RTAの影響がどう転がるかは、アキラの知る由もない。オリヴィアが分別ある淑女に育ってほしいというのは本心ではある。とはいえ、もう去ってしまった街のこと。もうどうでもよくなっている。最初からどうでもいいことではあるのだが。


******


 数年後、すっかり分別ある淑女になったオリヴィアは語った。

 あの占い師が己を見直すきっかけとなった。彼がいなければ今の私はなかった、と。

 それはアキラが知る由もなく、まだすべての記録(アカシックレコード)にも記録されていないことだった。

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