密林の乱4
諸事情により来週は投稿お休みします
その密林に響くは獣達の歓喜の咆哮。その密林を包むは灼熱を思わせる熱気と熱帯雨林を思わせる湿気。その中心核には肉を撃つ音に骨が砕ける音、そして己の全力を示す咆哮が絶えず聞こえてくる。
その中心核に存在する者は2種類。
片方は特級戦乙女『極氷姫』のハウンドにして最近になって『暴食の猟犬』と呼ばれる様になった理玖。血筋の身体能力と日頃の訓練により未だ成長中でありながら、相方の6割本気の試合に普通に食らい付いていけている。
もう片方は密林内で最も数が多く且つ強大な派閥を有する魔猿軍団。魔猿軍団はその全てが過酷な密林派閥闘争を勝ち抜いて来た歴戦の猛者である。
双方は共に牙剥き出しの殺気MAX状態の笑みで殴り合いの泥試合をしていた。
「……………あのさぁ。なにこの暑苦しくて喧しい地獄は」
「密林の長を決める恒例行事ですよ。皆、熱くなるのは当然です」
そんな試合を離れた位置から眺めていたのは愛莉珠と夜奈であった。前者はともかく後者が何故いるのかというと、密林の案内役として朝一で文字通りの光速で寝起きの相棒を抱えて飛んで来たからである。
ちなみに他の隊員は密林が今1番危険な状況である為に列車付近で待機している。
「元々は血生臭い殺し合いをしていましたが、幸子が長になった時に色々と決め事をしたんですよ。単純な殴り合いで勝った方が長候補となり、全員KOしたらその人物が長となるものです」
「いやまぁ、そこら辺は理解できるけど…………あれは?」
夜奈の簡単な説明に納得を示した愛莉珠はとある箇所へ指差して彼女に聞いた。
そこは試合場と負けじ劣らずの熱気があり、そこには直径が5メートルはある大太鼓と色とりどりの果物が山積みにされて置かれており、その中心には何故かハリセンを持ち、石でできた机に向かって叩いている神崎がいた。
「今じゃ!早う決着付けろ理玖坊ッ!!今付かんかったらわっちの賭け金が──『ドンッ!』─ア〝ア〝ア〝ァァ!!」
神崎が急かす様な言い方の直後に後ろの太鼓が鳴らされて、彼女は悲壮感溢れる表情を浮かべて嘆いた。そしてその隣に腰を下ろしていた老猿が爆笑しながら果物の山を自分の方に引き寄せていた。
「…………あれは見ての通り賭けです。勝敗では無く経過時間での様ですが」
「金じゃなくて果物なんだ……」
「当然でしょ?こんな密林に貨幣など無価値です。そんな金属片や紙切れなんかよりも食料の方がよっぽど価値があります。…………ここの果物は非常に良いですし」
「確かにねぇ。中央でも中々お目にかかれない代物だし、僕も実家でもたまにしか食べれないよ」
そんな会話をしながら2人は完熟マンゴーとココナッツの殻を器にしたジュースを飲んで観戦していた。ちなみにどちらも相場の値段が数千は超える代物である。
時間経過の大太鼓が鳴った事で試合場の2人は一旦端によって休憩に入っていた。補助に回っている外野から水を手渡され飲みながら息を整えて、おおよそ1分後にまた大太鼓が鳴り、両者の咆哮でまた始まり会場も盛り上がりを見せた。
「…………なんかボクシングみたい」
「……そうですね」
「そら行けぇぇぇッ!!突っ込め理玖坊ォ!!やれッ!やれぇぇ!!」
そうして2名は果物を食べながら試合が終わるのを待ち、1名は持ち前の運の悪さからすぐスカンピンとなった。




