幕間〜鏡猫の療養記録3
お久しぶりです
昼の手伝いを終えた後、雷毛羊の柵の中近くに生えている木の根本でマーシーさんが持たせてくれたお昼のサンドイッチを食べる。
以前は味なんて感じなくて何か食べるのも億劫だったけど、最近では濃い目の味ならある程度わかるくらいには改善されてきている。
薬を抜いた副作用の怠さもだいぶ良くなって来てるし、定期検診の方でも少しずつ良くなってきてる様に見えた。
…………悪夢の方は別のに置き換わっているが。
でもまぁ、火事の夢か鬼ごっこの夢のどっちがいいかと言われると私の精神安定的に鬼ごっこがいい。
そうして雷毛羊達がクルクルと円を描きながら歩いてその中心に雷の球体を発生させている様子を見ながら、濃い味付けのベーコンサンドイッチを食べていると後ろからピィピィと複数の鳴き声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはカラフルな色のバスケットボールサイズの巨大なヒヨコの群れがいた。
このカラフルなヒヨコは七味鶏の雛で七味鶏は肉は普通の鶏肉だが、羽がその色に対応した魔導具用のインクの材料になるそうだ。
そんなインク何に使うんだと聞いたら、どうやら魔導具に刻印する個人の契約紋の色付けや装飾も兼ねた魔法陣の制作に使うらしい。
…………ちなみに雛の時点でバスケットボールサイズでわかる通り成鶏はかなりデカい。それこそ人が乗れるくらい。
昔、テレビで競馬ならぬ競鳥を見た事がある。もちろん、人を乗せて走っているやつ。フローレン家ではそういった競技用のは育ててない様でデカいから食用かインクの原材料用の2種類しかいない。
そして、そんな七味鶏は基本放し飼いで雛はよく集団で散歩している。カラフルなヒヨコがモチャモチャと進んで行く様はなんとも和むものだ。
………そして何故か毎回私の所で止まる。
最初は進行方向に私が居て邪魔なのかと思ったが、私が退くとこのカラフルヒヨコ達は私の後を付いてくる。進んでも戻っても走っても止まってもピッタリ後を付いてくる。なんなら餌で気を引いて離れてもいつの間にか後ろでピヨピヨ鳴いている。
ピィピィピヨピヨとまるで親鳥にくっついて来るみたいに。
…………………私、コイツらが孵化するところ立ち会ってないからすり込みとか無いはずなんだけど。
念の為、魔獣を魅了するかそれに類似する魔法とか呪いをかけられていないかテルゼウスの方で調べてもらったけど、結果は白。更にフローレンス家の中で『視る』力が強いジェイコブさんとレイチェルとマキリアに診てもらったけど結果は同じ。
強いて言えば時々、現特戦隊隊長のハウンドの使い魔である魔狼?が様子を見にやって来ていた事がわかったくらいだった。
「……………貴方達なんで毎回私のとこに来んのよ。今は貴方達のご飯は持ってないのよ。ほら、散歩の続きをしてらっしゃい」
通じないとわかっていても私はそうカラフルヒヨコ達に言った。案の定、カラフルヒヨコ達はピィピィピヨピヨ鳴きながら首を傾げたりしている。
そうしてカラフルヒヨコ達は私を囲い始めると数匹私の頭や肩に乗ってまたピヨピヨ鳴き始める。
………耳とか突くのやめてほしい。あと尻尾咥えて引っ張るのも。
こうなると私がこの後できるお手伝いも限られてしまう。流石に雛を連れて雷毛羊の柵の中などには入れないからだ。
やれる手伝いはこの子達の親鳥の餌の補充か放牧中のボルフォールカウの餌の干し草運びくらいだ。
私はお昼の後片付けを済ませた後ヒヨコ達を引き連れて、まずは干し草運びを始めることにした。
ボルフォールカウは見た目が赤みがかった毛むくじゃらのバイソンで性格は基本的に大人しく、余程のことがない限り滅多に怒らない。
肉はそれなりにいい値段になるもので乳は栄養価の高い牛乳になり、スーパーとかに行くと売っていたりしているのを見たことある。
あとは魔術側だと骨関係の怪我した時に服用する魔法薬の材料にもなるそうだ。
ピッチフォークで干し草を持ち上げて山にすればのんびりとした脚の速さでボルフォールカウはやって来てモシャモシャと食べ始める。
今日の分の干し草運びが終わったら、次は七味鶏の小屋の方に向かう。
七味鶏の小屋は普通の鶏舎と違って、かなり巨大だ。それこそ牛舎と言ってもいいくらい。
七味鶏の成鳥はカラフルヒヨコをそのまま鶏にして尚且つ身体を馬サイズにした超ビックサイズな鶏だ。
ただし、身体のデカさに反して食べる量は普通の鶏と変わらないからそこが魔獣なんだなぁと思っている。
私は仮にも契約していたビーストだからキロ単位の餌袋を4、5個纏めて持つ事が出来る。以前ダードリーとボブとチェーニの三兄弟は私の真似をしようとして餌袋をひっくり返して中身ぶちまけていたけど。
桶に餌を全部入れて、合図であるホイッスルを鳴らせばコッココッコと鳴きながら親鳥達がやってくる。雛達も桶の中に入って文字通り浴びる様に啄んでいく。
小屋と鳥達の大きさの比率は一見するとおかしく見えないのに親鳥が桶の真横に停めてあるトラクターと同じくらいの大きさに見える。
見ているだけで遠近感がおかしくなりそうなその光景に私は慣れてしまった。




