北方支部へ〜2日目朝
今回は少し短めです
北方支部………というよりもテルゼウス全体の朝は早い。
夜勤の交代であったり訓練であったりと様々な理由があるが、大体日が昇り始めてから目覚め始める。
そして本日の北方支部の朝はマイナス12℃と比較的暖かく、珍しく吹雪ではなかった。
「晴れてるならランニングから始めなきゃネェ!まぁ、吹雪いててもやるケド!」
「ねぇ?遂に頭の中にまでプロテインを直で注射したの?馬鹿なの?ねぇ?」
そんな吐いた息が一瞬で凍りつきそうな寒さの中でも変わらずバニー姿でいるクリスティーヌの隣には何故かタンクトップとホットパンツの愛莉珠が肩を抱いて震えていた。そして、その周りにも特戦隊の殆どの面々も同じ様な格好をしており、全員でおしくらまんじゅうをして寒さを凌いでいた。
クリスティーヌを除いたここにいる者達は先日の雪合戦で敗北した者で罰ゲームとしてクリスティーヌが毎朝行っているメニューに付き合う事になってしまったのだ。
「あらヤダ、これを提案した林杏隊長は最初素っ裸でやらせようとしたのヨ?流石に可哀想だったから、私がせめてそれ着せたらって言ってあげたの。薄いとはいえ服着てやれるんだからいいじゃなイ。それでも文句あるなら脱いでもらうケド?」
「ごめんなさい。ありがとうございます」
クリスティーヌの言葉に先程までぶー垂れていた愛莉珠は掌返してその場に土下座した。着ていても変わらないとしても流石に裸でランニングはしたくない。
「さて、始めましょうカ。終わったら合格組が作っているスープがあるワヨ。あ、愛莉珠ちゃんはこれを付けてネ」
クリスティーヌはそう言うと愛莉珠の腰にベルトの様な物を付けて、更にそこから後ろに伸びていた鎖を何故かそこに置いてあった巨大なタイヤに連結させた。
「……………なにこれ」
「愛莉珠チャンは武闘派の特級だからすぐ終わっちゃうでショ?理玖チャンも貴女ならこれくらい余裕だって言っていたシ」
クリスティーヌがそう言うと愛莉珠は訓練所の端の方で大鍋を掻き回しているいつぞやの着ぐるみペンギン状態の理玖に向かって恨めがましい視線を向けた。
一方で雪合戦で合格………というよりかは生き残った7人は手分けして朝食の準備をしていた。…………着ぐるみペンギン姿で。
「随分と………ファンシーな集団ですね」
料理するペンギン集団を見て、様子を見に来ていたロザリアはなんとも言えない表情でそう言った。
「これ、下手な防寒具よりも高性能で着心地がいいんだよ」
「………具体的にはどんな」
「寒熱両対応で上限が140度で下限がマイナス60度。防水防火防塵防弾仕様で口を閉じれば120分潜水可能。内部に仕込まれた魔法陣で軽度の怪我の治癒と自動洗浄が出来て物を掴む際には中の手と魔術リンクをして念力で掴んだり触ったりできる。ただし、お値段が一着ゼロが8桁以上になるし、これ以外の形は出来ない」
「見た目の割に無駄に高性能ですね?!…………いやでも値段からして妥当ですか?」
「エイビス副隊長。大泉のそれはオリジナルで私達のはその複製品ですよ。なんでオリジナルはさっき大泉が言った性能で私達のは少し下辺りの性能です」
理玖の簡単な説明に驚いていたロザリアに理玖の隣で火加減を見ていた別の隊員が補足を付け加えた。
「………はい?ちょっと待ってください。その着ぐるみの製作者誰ですか?」
「夜奈姉………柳龍局長が自分の寝巻き用に作ったって」
「あぁ………………あの人ですか」
ロザリアの質問に対しての理玖の回答で納得した。
というのも夜奈は局長になる前から何かと高性能な装備を作っては売り出したりしていたのだ。ただし、見た目は理玖達が着ている着ぐるみペンギンの様に奇抜な物ばかりではあるが。
その後、極寒のランニングが終わった者から素早くコートを着て、朝食である温かいスープにありつくのであった。
……………一方で白黒犬コンビはというと。
「リクッ!さっさとジッパー開けて中に入れろッ!」
「お嬢氷みたいに冷たいから嫌だ!入るならあっちで体を熱くしてから来い!というかこれ1人用だ」
「温まる為にリクの所に入るんだよ!リクはちっちゃいから僕でも余裕に入れるさ!だ・か・ら、入・れ・ろッ!」
「嫌だッ!!」
ペンギンスーツのジッパーを開けようとする愛莉珠とそれを阻止して訓練所に併設されているサウナに突っ込もうとする理玖の攻防を繰り広げていた。