北方支部へ〜宴会
雪合戦は魔獣の乱入により中断され、特戦隊も含めた全員で乱入してきた魔獣の解体を行った。
カプラサウルスは名前に『カプラ』とある様に肉は山羊の様な感じで食べられる。ただし、カプラサウルスは獰猛で一日の殆どを食べるか群れの中でバトるしか費やさない為に筋が多い。
それでも流通の少なさからそれなりの値が付く。
内臓類は珍味として親しまれ、骨は砕いて肥料に混ぜたり建材の材料にしたりでき、皮は防寒具の下地に使われたりする。
魔獣というのは極々一部の魔獣を除いて基本的にその身体を余す事なく使うものである。
そうして短時間で全ての肉を削ぎ落とされたカプラサウルスの巨大な骨は一旦放置され、ひとまずは大量に出た肉の処理をする事になった。
食べられる肉の処理方法はただ1つ。文字通り食べること。そして、体力が命の戦乙女とハウンドにとって食事というのは非常に大切なものである。
よく関係者以外の一般人からは戦乙女はその出自からお淑やかだと思われがちである。しかし内情は学校の運動部の男子部員の様なノリでガッツリ食べて死に物狂いで訓練に励んでいる。
そして、ほぼ毎日百合の花々が各支部に所狭しと咲き誇っており、クリスマスなどの祭日などは頭ドピンクになり、アダルトショップは大繁盛してする。
ちなみにユグドラシル内での外食チェーン店や雑貨店など種類別売り上げのランキングで優勝準優勝争いをしているのがアダルトショップと大食い専門ステーキ店となっており、それを見るたびに神崎は死んだ目になる。
箱庭に納められている乙女達は基本的にいろんな意味で食べるが好きなのだ。
そんなお淑やか (笑)な乙女達が好む食事は牛丼やカツ丼といったとにかく腹に溜まって尚且つ満足度が高いスタミナ系と分厚く食べ応えのある肉類と性……ではなく精の付く食べ物である。
そして、北方支部では食事を娯楽とし肉食系の動物が元となっているビーストが多いことから肉類が非常に好まれている。
数トンあるユグドラシル内では少しお高めの肉に肉食系 (物理)の北方の戦士達と突然の雪合戦で昼食をろくに食べれなかった特戦隊。
この3つが揃うことで起こる事はただ1つ………どれだけ肉を得られるかという乱闘騒ぎである。
辺りを飛び交うのは炎弾や雷撃といった初級魔法やフォークなど食器類に怒声と拳。既に何人かは地面に沈んでいる。
最早、戦乙女というよりも海賊やヴァイキングと言われた方が納得する惨状だった。
この乱闘に上司部下や先輩後輩、果てにはバディ関係など存在しない。ただ、自分がどれだけ食えるかという事だけが重要である。
流石に生肉を食べるまで切羽詰まっていないが、それでも焼けた側から壮絶な奪い合いが勃発していた。
「やっぱり始まったよ。北方名物の物理フードファイト。流石は肉に飢えた肉食女子だ」
「毎日しているわけでは無いですよ。今日が一際激しいだけで」
「それ以上は言い訳にしか聞こえないぞロザリア」
隊長クラスともなれば、自分達の周りに簡易結界を張って守りを固めながら平和に食事を楽しんでいた。
「取ってきたよ」
その3人がいる簡易結界の中に戦利品を手にして入ってきたのは理玖だった。
「お〜、ありがとうリク。そんじゃあ、焼いていきますか」
「お嬢はそのまま何もしないで。肉が消し炭になる」
「いや流石に焼くだけだから消し炭にならないよ?!信じてよ!」
「この前、マシュマロ焼いてて爆発させたのは誰だ?」
「……………………」
愛莉珠の抗議に理玖は静かに反論すると愛莉珠は大人しく黙って待つことにした。
「アリスお前………まだその呪い解呪できてなかったのか?」
「いや……呪いじゃない。呪いじゃないんだよ………。ポーションとか錬金術とかは普通にできるんだよ。でも何故か料理だけが駄目なんだよ」
「やっぱり呪いじゃないのか?それ」
そんな2人が会話している最中、理玖とロザリアは黙々と肉を焼いていた。役割としてはロザリアが肉の切り分けで理玖が焼く係である。
「こうして火を囲むのも久しぶりですねぇ」
「確かに。というかここってこんなに騒がしかったですか?」
「昔はほら……理玖くん幼かったですから。流石にこの馬鹿騒ぎはここの脳筋共も教育に悪いと思ったんですよ」
「なるほど……あ、焼けましたよ。どうぞ」
「ありがとうございます。………やっぱり筋が多いですね。カプラサウルスは」
「今度はアイスエイジマンモスが食べたいです」
「アイスエイジマンモスは今の時期だと更に北方に行ってますからしばらく会えませんよ。会えたとしても脂身が少なくてあまり美味しくないですし」
「ねぇねぇリクゥ?お肉まだぁ?」
「ほら焼けたよ」
「おぉ〜……やっぱ固い。リク〜、解してよ〜」
「いつから年寄りになったんだお嬢」
そうして騒がしい北方支部の初日は終わりを告げた。




