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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第1章
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幕間〜愛しきハウンドとの出会い2

ここから先は百合要素が多くなります。



苦手な方はご注意を

それを感じたのは突然だった。



愛莉珠はいつもの様になんの面白味のないボイド討伐の補助に向かっている途中だった。



戦乙女(ヴァルキリー)の中には4つの階級がある。



まず1番下の4級。これは戦乙女(ヴァルキリー)に成り立てのいわば見習い状態。



次に3級。ここでようやく戦乙女(ヴァルキリー)として認められるがそれでも一兵士の様な扱いだ。



2級は小隊長を1級はその上の中隊長を任せられる。どちらも任せられるくらいのそれ相応の実力を持つ者で構成されており、一般人と距離が近い戦乙女(ヴァルキリー)はこの辺りまで。



最後に特級。大隊長を務める者で様々な審査を得て任命される。いわば戦乙女(ヴァルキリー)の顔ともいえる。もちろん戦乙女(ヴァルキリー)としての実力も申し分ない。



愛莉珠はその特級戦乙女(ヴァルキリー)である。



愛莉珠は別にその階級を目指していたわけではなく、ただ戦乙女(ヴァルキリー)としてその技術を磨き続けていたらいつの間にか特級になっていただけである。



昔は楽しかった。



前線に出て何十匹もののボイドと戦った時、愛莉珠自身は非常に胸が踊った。人類の存亡なんて関係無しにただひたすら己が武器を振るい、魔法を打ち続けた。



だが、今は退屈だ。ボイドの侵攻もほとんど無くなり、来るとしても弱い輩。しかも、特級になってしまったせいで戦力保持などという上層部の判断で前線に立つことすらできない。



いくら歴戦の戦乙女(ヴァルキリー)でも権力には勝てない。



またハウンドを得ようにも彼女について行けるビーストはおらず、また彼女自身も自らのハウンドを探す気力もない。



ちなみにハウンドは自身の直感に合わなくても得ることはできる。むしろ本当の意味でハウンド(相棒)を得る戦乙女(ヴァルキリー)は少ないのだ。



そうして愛莉珠の日常は次第に色褪せて見えていった。



「………ッ、………?」



普段なら気にも留めない瓦礫の山。だがその一角、先程ボイドの尾が当たり崩れた建物の瓦礫の下にひどく興味を惹かれた。



心臓がざわざわして何故だか無性に心が落ち着かない感じがして愛莉珠は常にない自身に僅かに動揺した。



その瓦礫の山に近づけば近づくほど内側から溢れ出てきそうな何かを抑えつけながら、愛莉珠は慎重に歩みを進め瓦礫を退かし始めた。



戦乙女(ヴァルキリー)の愛莉珠にとって重機を使わなければならない瓦礫など苦にはならない。



そして愛莉珠は瓦礫を退かし終えてそこにいた背の低い青年の姿を捉えた時、溢れ出てきそうな何かは弾け飛び、変わりに出てきたのは歓喜であった。



『会えば分かる』



前に本当の意味でハウンドを得た同僚が言っていたのを思い出した。



あぁ、確かにその通りだった。会えば分かる。



何故分かると聞かれても言葉で伝えること出来ないが、間違いはないと自身の直感が告げていた。そして彼が自分の中の欠けていたナニカだと理解できた。




「──やっと見つけた。あぁ……長かった、ほんとに長かった……」




気づけば愛莉珠はそう口から溢して笑みを浮かべていた。



「さぁ、少年!手を出して!この僕と契約しよう!僕は君をずっと待っていたんだよ!僕の相棒(バディ)!」



愛莉珠は早く彼と契約したいという思いで彼の側まで降りて瓦礫の中から引っ張り出した。



対する彼は困惑した表情を浮かべていた。それもそうだろう。急に見ず知らずの女性にそう言われたら困惑の1つや2つ抱く。



けれど、今の愛莉珠には関係ない。



愛莉珠は自身の名前を教え、彼の名前を聞いた。ハウンドとの契約はお互いの名が必要なのだ。そうして愛莉珠は彼……大泉 理玖の名を覚え、契約した。



彼が人間で明らかにビーストでないのは誰から見ても明らかだが、愛莉珠は彼こそが自分のハウンドだと直感で理解できた。






そして、その直感は正しかった。






契約の簡略化の為に直接魔力を流し込む行為である真名を知る者同士の粘膜接触……つまりはキスをした途端、契約の魔法陣が展開され2人諸共黒い光に包まれた。



「あ、があああああああッ!」



理玖は苦しそうに身体を縮ませ、苦痛の叫びを上げる。彼の体からは人体からは鳴ってはならない音が鳴り響き、彼の身体を人間からビーストの物へと再構築していった。



「あは、あはははは!!最ッ高だよリク!最高な気分だよ!あはははッ!!」



一方で愛莉珠は自身の内側に存在する魔力がまるで湧き水の如く増えていく感覚に酔っていた。



もがき苦しむ理玖と高笑いする愛莉珠は何も知らない者からすれば明らかに愛莉珠が悪役なのだが………



そして、光の柱は全て理玖へと集まっていき、彼女(・・)の身を鎧の様に包み込んだ。



「ガアアアアアアア!」



理玖の目には理性が感じられず、新しく生えた2本の尾と耳は大きさが2倍に見える程膨れ上がっていた。



「は、ははは、凄いや。………さてリク。狩りの時間だッよお?!」



愛莉珠が理玖に向かって『狩り』と言うと理玖はその単語に反応していつの間にか手にしていた禍々しい黒い大鎌でボイドへと突貫した。



瞬きの瞬間で理玖はボイドの目と鼻の先にまで跳躍して、理玖はボイドの頭の頂点から身体の中間まで一息で切り裂く。



辺りに真っ黒な血が雨の様に降り注ぎ、瓦礫の山を黒く染めた。



しかし、ボイドは簡単には死なない。



2つに切り裂かれた頸は双頭となり、ボイドは理玖を忌々しく睨みつけた。特大の殺気に理玖は怯むことなく、また切り刻み始めた。



切り裂かれれば切り裂かれるほどボイドの頸は増えていき、最終的にインド神話のナーガに頸をてんこ盛りにした様な見た目になった。



増え続ける頸を見て理玖は戦法を変えた。



ボイドの頸の1つに貼り付くと口を大きく開けて鋭い犬歯を突き立て喰べ始めた。



自身が喰われる痛みにボイドは身を捩り理玖を振り落とそうと必死になった。それに対して理玖は喰らい付いていた箇所からボイドの内側へと喰い進めて体内から喰べ始めた。



当ボイドを討伐する為に来ていた戦乙女(ヴァルキリー)とハウンドは呆然とした表情でその凄まじい光景を見ていた。




次第にボイドの動きも鈍くなり、ボイドの無機質な目には恐怖の感覚が宿り始めた。腹の中を喰い散らかされて、骨を噛み砕かれ、徐々に自身の身体が無くなっていくことに対しての恐怖とその元凶である小さな獣に対しての恐怖からだ。



やがて頸が全て無くなり、ボイドは黒い霧となって消えた。そして残されたのは全身をボイドの血で真っ黒に染めた虚な目をした理玖だった。



残された戦乙女(ヴァルキリー)とハウンドは新たに発生した脅威に対して取り囲む様にして戦闘体制を取り警戒する。



理玖はその理性が感じられない赤黒い目で辺りを見渡し………ゾッとする様な笑みを浮かべて狩りの続きをしようと足に力を入れたその時───




「はいはい、ストップ。待てだよリク」




先程まで静観していた愛莉珠がやって来て理玖を止めた。



ハウンドとの契約には力を得て暴走したハウンドを抑える為に戦乙女(ヴァルキリー)が自身の魔力を乗せて発した言葉に対して絶対服従するという効果がある。愛莉珠はそれを使用したのだ。



「随分とド派手に喰い荒らしたねぇ………。しかも、まだ喰い足りないときた。余程の大食いワンコだ。まぁ、それが僕のハウンドらしいってことだけど」



愛莉珠は呆れながらも嬉しそうにそう言って理玖の元へと歩みを進める。もちろん武装などしていない丸腰でだ。



「た、隊長!危険ですッ!退がって」



「退がるのはお前たち。あの子は僕のハウンドだから」



愛莉珠はそう言いながら周りの静止も聞かずに軽い足取りで理玖に近づいた。



「ヴゥゥゥゥゥ……」



理玖は近づいてくる愛莉珠に対して牙を剥き出して唸り声を上げ、先程ボイドを切り刻んでいた大鎌に握り直した。



「……リク──"待て""おすわり"」



それを見て愛莉珠は理玖に再度"命令"を下す。すると理玖は糸が切れた人形の様にその場に座り込み、動けなくなった。理玖自身も自分の身に何が起こったのか理解出来ず、困惑した様子を見せた。



「あんまり使いたく無いんだけど、今回は仕方ないからね。──ねぇ、リク?お腹空いているでしょ?あんな蛇や周りの戦乙女(ヴァルキリー)なんかよりもずっといい物あげるからじっとしていてね」



愛莉珠はそう優しい声で未だ唸り続ける理玖に語りかけ、まるで慈しむ様に彼女(・・)の顔に手を添えた。



そして、何をされるのか分からず唸り声を止めた理玖に愛莉珠は契約時と同じ様に彼女(・・)の唇を塞ぐ。



今度はちょっとした触れ合いではなく、濃厚なやつを。



理玖は最初は抵抗しようとしたが徐々に力を抜いていき受け身に入った。見れば、彼女(・・)は恍惚とした表情になっていた。



愛莉珠はそんな様子の理玖を見て楽しみ、味を覚え込ませる為に自身の唾液と一緒に魔力を流し込む。それと同時に理玖の口の中を蹂躙していく。



ぴちゃぴちゃと水っぽい音を響かせながらの長い濃厚な口付けは数分もかかった。やがて、愛莉珠は名残惜しそうに口付けを終わらせた。



ようやく終わった口付けに理玖は頬を染め、とろんとした様子で目を細め、肩で息をしていた。身体は完全に力が入っておらず、その場にぺたんと座り込んでいた。



「あはっ♪リクぅ〜?そんなに蕩けちゃうくらい美味しかったの?」



「……………」



嗜虐的な目で心底楽しそうに聞く愛莉珠に対して理玖は反応を見せず、ふっと気が抜けた様にパタリと倒れ込み眠りについた。



「あらあら………お腹いっぱいになったみたいだね」



愛莉珠はスゥスゥ眠りこける理玖の頭を愛おしいそうに撫でた後、ほぼ裸同然の理玖の身体を来る途中で見つけた布で覆って抱き上げた。



「さぁ、今日からよろしくね。僕の相棒(バディ)……」



愛莉珠はそう自分の腕の中で眠る狂狼に向かってそう囁いた。



───これが『極氷姫』と呼ばれ最強と謳われる戦乙女(ヴァルキリー)のハウンドの誕生と出会いであった。

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なんだこのえっちすぎる小説は......! えっちの波動を感じる!
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