北方支部へ〜歓迎1
夜奈から各支部への挨拶周りを告げられてから1週間後、荷造りを終えた一行が各支部へ向かう直通の地下鉄のターミナル駅に集合していた。
夜奈が2人に命じた新人達の挨拶周りと各支部の通過儀礼は字面はこれであるが、内容は野外訓練である。
そもそも戦乙女達とハウンド候補はそれぞれ数年の研修期間を終えることが義務付けられており、野外訓練自体は研修中にこなすがそれはあくまで慣れさせる目的のものである。
「いいかいひよこちゃん達!今日から1ヶ月の間、各支部を巡って挨拶周り兼野外訓練やるから、とりあえずその引っ付けた卵の殻を取っていこう!…………まぁ、ぶっちゃけると普段の訓練よりもキツいから頑張って。さぁ!行くぞぉ!まずは北だ!」
「お嬢。最後のは余計」
愛莉珠の最初の号令に理玖はそう返した。
「いやまぁ、ほんときつかったんだって。リクだって北の方で狩りとかやらなかった?僕の時はそれやらされたんだよ」
「………解体ならやったが、流石に狩りはやってない。雪合戦ならやったけど」
「ちなみに何を解体した?」
「…………中型のアイスエイジマンモス」
「確かにアレの肉は美味いけど、小型でも軽自動車並みのデカさの奴を子供に捌かせるかな普通」
「楽しかった」
「それは良かった……」
こうして一行を乗せた地下鉄は最初の目的地である北方支部へと向かった。
***
テルゼウス北方支部がある北方地区は年間を通して最高気温がマイナス10℃を上回らない寒冷地であり、北へ進むほど気温が下がっていき、現在観測できた地点での最高気温がマイナス120℃でとても人が住める環境ではない。
そしてそんな過酷な環境下で生息している魔獣はどれも強靭で凶暴であるが、肉などの可食部は高級料理店で最高級フルコースに使われるほど非常に美味で、その他素材の方も氷や水系統の魔法の触媒の中でも指折りの優秀さである。
その為、一攫千金を求めて北に向かう者が後を絶たず、肉食魔獣による被害や過酷環境下での遭難などが多発している。
北方支部に駐屯する戦乙女とハウンド達はそんな無謀な狩人の引き留めや遭難捜索、南下してくる魔獣の駆除を主に行っている。
その為かボイド激戦区である西方支部と並べられて『西のゴリラ軍団と北のグリズリー軍団』と他支部から言われる程、そこに駐屯している戦乙女とハウンド達は屈強になっている。
そして、両者のいくつかある共通点の中に『どちらも遊び好き』というものがある。
………何故、この様な説明があるのかというと今の現状が物語っている。
「ちょっとリクッ!君の武器庫に雪玉バズーカなんてない?!」
「ない!あるのは当てた対象をしばらく等身大の雪だるまに変えるだけのビーム銃だけ!」
「むしろなんでそんなのあんn『ドパンッ!!』──ヒィ?!あぶなっ……」
現在、北方支部に到着した第二特殊戦闘部隊は北方の戦士たる北方支部雪中部隊の熱烈な感激を受けていた。
…………レンガをも砕く豪速球の雪玉合戦という形で。
そもそもの始まりは北方支部の地下ターミナルに着いた時であった。列車から降りるて北方支部雪中部隊副隊長のロザリア・エイビスが出迎えてきたのだが、その時に彼女は笑顔でこう言った。
『最近吹雪続きでウチの隊員が暇しています。ですので皆様とゲームをしようとアナスタシア隊長が提案しました。ルールは簡単でターミナルを出て、街の最北端にある拠点まで雪合戦をしながら向かうものです。当たったり捕まったりしたらアウトで翌日予定されている訓練が少しばかりハードになりますよ♪』
その後、付け足す様に全員強制参加ですと言うと、どこからか大型グレネードランチャーを取り出して構えて躊躇いもなく笑顔のまま引き金を引いた。
グレネードの炸裂音を皮切りに現れたのは非常に好戦的な笑みを浮かべた北方の戦士達が雪玉を抱えて現れて、ターミナルは雪玉の嵐に見舞われた。
雪玉が轟音を挙げて飛び交い、命中した箇所の地面やレンガ作りの壁が雪玉状に爆ぜて無くなり、運悪く雪玉に当たった隊員はトラックがぶつかって来たかの様に吹っ飛んでいった。
ターミナルから支部の建物までの道のりはまず倉庫地区を抜けた後に商店地区に向かい、最後に居住地区を突っ切る事で行けるが、建物との間が狭く死角が多い為、非常に精神が削られる。
更に北方都市全体に対戦乙女ハウンド弱体化結界が張られている為、魔法や異能力が充分に使えない状況である。
そして既に4分の3は雪玉に仕留められている。
「オラァッ!!ビビってんじゃないツンドラトカゲッ!!さっさと出て来て玉ブン投げて来なさいッ!!」
「うっさいわッ!!投げて欲しけりゃ少しは加減しろッ!」
「加減したら訓練にならんでしょうがッ!!」
……と普段のお淑やかな雰囲気のシロクマさんから一変して狩りモードのシロクマにチェンジしたロザリアは雪玉仕様のグレネードランチャーを構えながら連射しており、愛莉珠は理玖が出しておいた数体の魔狼を壁にしていた。
ちなみに理玖は既に主人を置いて別のところでドンパチやっており、時折派手な爆発が起きている。
「理玖くんはあんなに楽しそうにやっているんですよ!!主人である貴女がそんな体たらくでいいんですかッ?!」
「相性ってもん知ってる?!というかなんでリクはあんなにはしゃいでんのかなぁ?!こんなの僕が来た時やって無かったじゃんか!!」
「それはこの訓練は元々ウチのグリズリー軍団がまだ幼くてふにゃふにゃだった理玖くんと遊ぶ為に始めたもので、それがだんだん過激になっただけですッ!!」
「リクゥゥゥ!!??君が原因かァァァッ!!!」
「極氷姫、覚悟ォォォォォッ!!!」
「ギャアアアアアアアッ!?!?!?」
──特級戦乙女『極氷姫』の悲鳴が北方都市に響き渡った。




