鏡に咲く二季草〜6
サブタイトル変更いたしました。
ゴウ──ゴウ──パチッ──パチッ…………
──なにかがもえている。
『私』は知っている。何が燃えているのかを。
燃えているのは家だ。
幼い頃から住み慣れた家で濡れ衣着せられて社会から弾き者にされた『私』を、こんな厄病神な私を最後まで信じてくれた家族がいた家。
私のせいで仕事がクビになった頼れるお父さんと私のせいで大怪我を負ってしまった優しいお母さんと私のせいで進路が絶たれてしまった可愛い弟がいた家が。
燃えている。燃やされている。私以外の家族全員が魔法か何かで閉じ込められたまま燃やされていた。
野次馬がみんな嗤っている。ザマァ見ろと笑い声を上げて嗤っている。ゲラゲラゲラゲラ嗤っている。
目が真っ赤になって、気づいたら辺りは血みどろで野次馬はみんな汚い肉塊になっていた。
『私』は笑った。涙を流しながら燃えている家の前で笑った。
そこでふと気づいた。
これは夢だと。
──パキンッ…………
***
〜sideウィステリア
「──────ッ!!ハッ………ハッ………ハァ………。あぁ、さいあく……」
あまりの頻度で見るために見慣れてしまった悪夢で朝から気分は最悪だった。
私はその最悪な気分を少しでも和らげる為と気持ち悪い寝汗を洗い流す為にシャワーを浴びる事にした。
ソファと爆弾作りの作業台以外家具が無く、カップ麺や弁当の空き容器や空き缶などのゴミが散乱する部屋を突っ切って風呂場に向かって寝汗でじっとりとしている服を下着ごと洗濯機にぶち込む。そしてそのままシャワーのバルブを思いっきり捻って冷水をぶち撒ける。
頭から冷水を被れば嫌な気分も少しは楽になる。
浴びながらふと鏡を見てみると目元に濃い隈を拵えた酷い人相の自分自身が写っていた。
「…………酷い顔」
頭が冷えて多少は良くなった気分もまた沈んでいく。
これだから鏡は嫌いだ。だけど私の異能力の都合上、嫌でも見なければならない。
…………………ほんと嫌になる。散々家族に迷惑かけて見殺しにした挙句犯罪に手を染めている自分が、生きる価値が無いのに死ぬのが怖くて踏ん切りが付かない惨めな自分を見る羽目になる。
外そうにも埋め込みタイプだから外せないし、割ると後々面倒になるから放置している。
寝汗がさっぱりとしたら風呂場から出て貯め買いしてある菓子パンやらを腹に詰め込む。味なんてとうの昔に感じなくなっている。
そうして私はもそもそと菓子パンを食べながら床に放置してあるノートPCを起動していつもの様に何回か面倒な手順を踏んで自分の運用サイトにログインする。
私が今やっているのは殺し以外の何でも屋。企業の機密情報を盗んだり、薬物の運び屋だったり、この前みたいに建物とか爆破したりと色々とやってきた。
社会から蹴落とされた私にマトモな仕事に就けるわけがないし、特にあのクソ女に見つかったら、もう何も奪われるものが無いにしても、今度こそ何されるかわからない。
多分、犯罪者だとかなんとか大義名分を振り翳して捕まえて、その後は他人には言えない様なことをするんだろう。
だからこうやって深層Webでサイト開設して仕事を請け負っている。殺しは怖いから基本無視するか拒否している。というか殺しの依頼専門のところ行け。
そうして依頼がないか見てみると一件来ていた。メールを開けば先日のテルゼウスのテナントビルの爆破を依頼してきた同じアドレスの人物がまた似たような依頼を複数出していた。
この人物はここへ定期的に依頼してくるやつだ。
今までだったら魔術師関係の建造物の爆破依頼とかだったが、急にテルゼウスに矛先を向ける様になった。
……………大方、支援金をぶった斬られた腹いせだろう。
最近、テルゼウスは使えない魔術師への支援金を徐々に打ち切ったりしてるらしい。理由無しに害虫にわざわざ餌与えたりする人はいやしない。
私個人としてはテルゼウスに恨みを抱いているわけではない。だって、あそこは当時まだ社会から腫れ物扱いされていたビーストである私を受け入れてくれたから。
嫌な奴とか蔑んでくる奴もいたけど、いい奴も確かにいた。よく飲みに誘って愚痴に付き合ってくれた医療部の兎とそのバディの技術部長とかあの頃の状況を改善しようと色々やっていた無表情がデフォの隊長さんとか。
恨むのは私に暴力とか振るった挙句、魔法薬や魔術触媒の横流しとか私にとって1ミリも利益にならない濡れ衣を着せてきたクソ女と取巻き。
………まぁ、金払いはいいから受けるんだけど。
一体どこからそんな金が湧くか知らないけど金は金だ。…………それがどんなに汚い所業で生まれた金だとしても。
自給自足の生活をしていなければ、このご時世金が無いと何もできない。
日陰者の私には手段を選ぶ権利なんてないから。
私はそうして仕事道具の爆弾の材料の収集と仕事に必要な物を受け取りに外に出る事にした。




