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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第5章
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鏡に咲く二季草〜2

「えーー………では、これより明星都市テナントビルテロ事件の犯人であるウィステリア・チェシャルの保護作戦会議を始めるよ」




ユグドラシルの第二特殊戦闘部隊本部。その会議室にて愛莉珠がいつに無く真剣な表情を浮かべて議題を読み上げた。




「まず、今回の件の根本的な元凶は現在表向きは(・・・・)行方不明の元第一近衛部隊副隊長アナ・グラウシスでアイツがやらかしたハウンド虐待に恫喝に一部備品の横領などの犯罪行為を本人の意思を無視して強制契約させた自身のハウンドにまるっと全部被して追いやったのがそもそもの始まり。


…………んで、しかも後から何か言って自分が不利にならない様にとグラウシスは自分の実家の権力を使って出鱈目な噂を流してウィステリア自身を孤立無縁にさせた」



「何度聞いてもクソやな」



「ちなみに家族は最後まで彼女のこと信じていたみたいだけど、周りからの迫害やら何やらあって半年後に放火で家ごと全員丸焼けにされてる。ウィステリアはちょうど買い出しで外出していたから無事だったらしいけど、それ以降行方知れず」



「理玖ちゃんや、今すぐそのクソを影から出して。痛覚倍加の魔法薬と血液中に結晶ができて悶え苦しむ薬ありったけぶち込むから」



「後で訓練場の片隅に出しときますから今は我慢してください。というかもう既に20人ちょっとと俺と魔狼の食べ残しが混ざってぐちゃぐちゃになっちゃってますよ」



「…………………理玖ちゃん、何やったん?」



「この前のリクのお披露目講演会の時にさ、グラウシス家のアホ老害どもがちょっかい掛けようとしてきてさ。僕が戸籍消したから好きにしていいよって言ったら、ワンコ達が我先にと躍りかかって生きたまま肉団子にして混ぜ混ぜしちゃったんだよ。………あれは凄かったよ」



「またデカくなったんかあの肉餌………」




今回のテロ事件の実行犯ウィステリア・チェシャルの大まかな経歴を聞いていつもの太陽の様な笑顔から絶対零度の真顔になっていたレイチェルは理玖と愛莉珠の補足で表情をまた変えた。



理玖の影の中にある肉餌については既にユグドラシル内の戦乙女とハウンド及びビースト全員に周知させられている。



最初に特戦隊内で見せた時に理玖は流石に引かれると思ったが、隊員の殆どは『よくやった』だの『アレらの自業自得』だのと言って気にしていなかった。



そもそも魔術師界隈では罪人が魔獣の肉餌になったりするのはそれ程珍しくないものである。寧ろ、グラウシス一行はかなり周りからヘイトを集めていた為に肉団子になった件については"ザマァw"としか思っていない。



結局、ユグドラシルに所属している麗しいお姉様方の熱い(殺気立った)ご要望によりその肉団子お披露目は1週間続き、その間お姉様方は肉団子でストレス発散しまくるという世紀末とも言える地獄が勃発した。



しかもそのストレス発散会場には夜奈も来ており、作り過ぎて処理に困っていた魔法薬1リットルバケツ4杯分を全て投入して肉団子をゲーミングカラーにして帰っていった。



そんな絶叫と怨嗟と狂笑に満ちた地獄を見て理玖は少し怖くなり、側で笑みを浮かべていた愛莉珠に慰められていた。



…………尚、その愛莉珠も違法魔導具などを突っ込んで絶叫を上げさせた後、大爆笑しながら携帯で動画を撮っていたが。




「…………ま、とにかくだ。あの肉団子の件は後にして。今回の作戦は早期保護と被害の最小化及び背後関係の摘発だ。主な主軸は早期保護だけど……………これはマジで早くしなきゃなんなくなった」




愛莉珠は大きくため息を吐いた後に一枚のカラー刷りの用紙を会議に参加している者全員に配った。



その用紙には今回の保護作戦の対象であるウィステリア・チェシャルの近衛部隊除隊前の顔写真と主な身体的特徴と異能力について書いてあり、その顔写真には青みがかった灰色の髪をボブカットにして伸びた前髪で片目を隠した丸みを帯びた猫耳の女性が写っていた。




「知っている者もいるけど、ウィステリアの異能力は『鏡面潜伏』と『部分透過』。


『鏡面潜伏』は鏡とかガラスの反射とかの映るものの中に潜る事ができるけど、反射面が歪んだりして実像が保てなくなると強制解除される。尚、自分以外の他者を引き摺り込む事はできない。


『物理透過』は自身が触れている対象に限り常時あらゆるものをすり抜ける様にさせるもの。対象が人であるなら何も見えず、何も聞こえず、呼吸さえもできなくして一時的に完全な無感覚状態にする事も可能。ただし、非生物に対しては自身の身体の体積の2倍まで。生物に対しては20秒が限界とのこと。


───もう気づいてるかもしれないけど、証言者の報告と照らし合わせても明らかに異能力が過剰に強化されている。違法強化ドラックの可能性が出てきた」




愛莉珠の最後の言葉で会議室の空気は一気に張り詰めた。



魔法が日常化してきた今の世界でも薬物に関する問題は旧世界の時から続いている。更に魔法の日常化に伴い、薬物の種類も増えてきており、従来の植物や化学合成の物に加えて効果は あるが依存性が高い錬金術由来の物も出回ってきている。



中でも一部の強化系の魔法薬は効果は絶大ではあるが依存性と副作用が凄まじく、一般での流通はおろか魔術師協会でも厳しく制限されている。




「新たなバディを得て異能力が強化されたという可能性はあったけど、証言を集めた限りバディ契約としての強化にしては異常だ。魔法や魔導具による一時的な強化は現場に魔力の残滓が発見されなかったからその線は限り無く低い」



「………………だからドラックってこと?」



「そう。ちなみにそのドラックってのはリクのワンコ達が時々ハイテンションで頭突っ込んでがぶ飲みしているサイコパス化学部が処理に困っていたタンクの中身と同じやつ」



「何やってんのアイツら……」




愛莉珠が示した見解に理玖がそう聞いた。そしてその後の彼女の暴露に理玖は頭を抱えた。



ちなみに理玖の魔狼はそれぞれの個体ごとに好みを持っており、サイコパスの巣窟と言われている化学研究部門…略して化学部に出入りしている魔狼達はその化学部のお姉様方の魔力が好みで味の方は理玖が伝え聞いた限りだとカリ○リ梅だとか。




「その魔法薬だからリク達には全く効果ないんだけど、小瓶サイズの服用で魔法や異能力が軽く10倍くらい効果が上昇する。ただし、摂取したら1週間に1回は飲まないと正気が保てなくなるくらい依存性が強いものだ。


幸い……って言ってどうかわからないけど、直接命に関わる様なものじゃない。………けど、服用を続けていれば身体の免疫機能の低下や精神病の誘発とか色々とヤバいからね。とにかく早期保護が大事。


あとはそのドラックが流れているルートの摘発やら組織やらを締め上げたりすることだけど、それらは班分け後に各自確認して。


それじゃあ、解散!!」




愛莉珠はそう言って締めくくり、ウィステリア・チェシャルの保護作戦が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今更ながらも新たに解った真実ってか?(ʘᗩʘ’) つくづくカスじゃの〜(´-﹏-`;) そんな奴も今じゃ、一応餌だから生ゴミ未満・モザイク率120%過ぎてバイオハザード系クリーチャーにも採用…
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