来たるイベント〜3
保護者が見ている中で始まった授業は表面上は滞りなく進んでいた。…………そう、表面上は。
教室の後ろの方のちょうど真ん中。今回の授業参観の特大爆弾である愛莉珠と夜奈がいた。2人の両隣は大人2人分ほど空いており、それだけでどれだけ周りが巻き込まれたくないかと語っていた。
片方は魔術家系御三家レイブンハルトの次女、ライブラリーゼ魔法学院首席卒業、テルゼウス第二特殊戦闘部隊隊長『極氷姫』礼華愛莉珠。
片方は魔術師協会十二席円卓会議第四議員長、テルゼウス・ユグドラシル本部局長『炎獄の魔王』柳龍 夜奈。
色々と肩書きが強烈な彼女達が無言で熾烈な攻防を繰り広げていた。
(まったく………。せっかくのイベントが台無しじゃないですか)
(それはこっちのセリフだ。というかどうやって知ったのさ?僕ですら当日になってわかったんだよ?)
(それに関しては黙秘します)
(あっそ。………というかまだ認めてないわけ?僕とリクのハウンド契約)
(それは認めていますよ。アレは互いの合意の元で成り立つ契約ですので。…………まぁ、最初のアポはかなりグレーでしたが。私が言いたいのは貴女の存在があの子の教育に悪いからです)
(………それはアンタにも言える事でしょうがキチガイ万年発情期)
(情欲の発散は日頃のストレスと疲労回復の効果的ですよ?それの何処がおかしいので?)
(その発散が7日ぶっ通しで続くのがおかしいって言ってんの。お前はガラガラヘビか?)
(それは最長です。普段は1日で済みます。というかキチガイとはなんですか?私は至って普通ですよ)
(妹と相棒を馬鹿にした前任の第四議員長の爺の絶滅寸前だった毛根を物理的に死滅させた後に枯れ果てているタマを金槌でスマッシュした挙句、ケツ穴に爆竹突っ込んで爆破して再起不能にして無理矢理席獲得したのが普通?)
(…………?当然では?)
(……………コイツ頭おかしいって)
(それはあなたがですよ)
(あ゛ぁ゛????)
………………といった感じに言葉を発さずに魔法による念話で会話していた。
はたから見れば微笑みを浮かべて仲良く?並んでいる様に見えるが、実際は普段通りの汚い言葉のやり取りである。
しかも微笑みを浮かべた状態で時折湧き出る様に殺気とその感情の起伏に合わせて威圧的な魔力を発している為、強力な魔力と殺気に慣れていない者達には酷である。
特に可哀想なのは2人と距離が近い最後列の生徒である。魔力と殺気に充てられて、顔面蒼白である。ちなみに魔力に慣れている筈の保護者組は今にも吐きそうであったが放置されている。
………そして授業が終わった後、理玖は2人に自身の影から引っ張り出してきた仔犬サイズの魔狼2匹の首根っこを掴みながら2人に手渡した。
「まだいる気ならコイツら持っていて。殺気はともかく魔力は抑えられると思うから。というか殺気も抑えろ」
────この時の理玖について2人はこう語った。『声はいつも通りだけど顔は真顔で瞳孔が思いっきり開いていて若干怖かった』と
そうして2人は理玖に言われるまま仔狼を抱えると夜奈の方は大人しく彼女の腕の中で丸くなっているに対して愛莉珠の方は容赦なく彼女の手を丸ごと口に入れてガジガジと噛み始めた。
「ね、ねぇ……リク?この子めっちゃ噛んでくるんだけど?というかなんで局長の方は大人しくの??」
「そりゃあ、お嬢が常に邪な考えを持っているからだよ」
「…………リク。もしかして、この前のこと怒ってるの?い、いやあれは僕もやり過ぎたとは思うけど、ちゃんと謝ったよ?しばらくしないって約束したでしょ?」
「…………………アリス・ドラゴローズ・レイブンハルト。後ほどゆっくりオハナシしましょう」
「そのオハナシでどんだけ建物が崩壊する予定?それって経費で落ちるの?」
「貴女の給料から差し引きます。……理玖はしばらく私のところで預かります」
「夜奈姉……俺またあのペンギン着なきゃ駄目なのか?」
「今後はペンギンでは無く、シロクマです」
「…………対して変わらないと思うけど」
「いやシロクマとかペンギンとかどうでもいいからこの子齧らせるのやめッイダダダダダ」
そうして表面上は穏やかであるが、裏面は地獄の授業参観は幕を閉じた。
***
地獄の授業参観が終わり、皆が保護者と会話の花を咲かせるであろう放課後で理玖と愛莉珠と夜奈の3人は素早く準備を済ませて帰宅していた。
授業中や授業の準備の合間ならまだしも放課後など纏った時間になれば囲まれるのは確実であり、更に言えば3人は大勢の人に囲まれるのが苦手である。
そういう事で愛莉珠と夜奈は放課後になるのと同時に転移魔法を使って退散し、理玖は準備が終わってから影移動で退散した。
「いやぁ〜……ずっと齧られてたから手が真っ赤だよ。まぁ、途中からあんまり痛くなくなってきたけど」
「それはこの子達が飽きてきたからでしょう。同じおもちゃでもずっと遊んでいられませんし。それはそうと理玖。この子、ウチに貰えませんか?」
「それは無理。どんだけ離していても必ず戻ってくるから。無理矢理抑えつけると暴れ出すよ」
「なるほど、帰巣本能ですか。なら仕方ありませんね。…………理玖。これから久しぶりに外食に行きませんか?場所は『金ちゃんのカレー王国店』です」
「あー……あそこか。確かに最近行ってなかったから久しぶりに食べたいなあそこのカレー。お嬢がいいなら行きたい」
「なら決まりですね。では行きましょう」
「いや僕の意見は?」
そうして一行は夕食をカレー屋で済ませる事にした。
………………ちなみに神崎はというと夜奈謹製の結界をぶち破った愛莉珠に正面衝突されて吹っ飛ばされた後、瓦礫の山とかしたビルの上で犬○家状態で気絶していた。




