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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第4章
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講演会〜2

講演会というのをあまり行かないものでなんか違和感を感じるかもしれませんがこれはフィクションですので気にしないでください。





『はいはい、叫びたくなる気持ちはわかるけどお静かに。出来るだけつまらなくない様にするからね』




予想だにしてなかった人物の登場に湧き上がる生徒を愛莉珠はそう言って宥めると幾分か静かになった。一部の者………具体的には愛莉珠のファンの者はソワソワしているが。




『───では始めようか』




そうして愛莉珠が講師を務める講演会は始まった。




***




まずこの講演会は次世代の戦乙女とハウンドを発掘する事とハウンドの重要性を知ってもらう事が目的だ。



まぁ、僕が来る前の皆さんの反応からするに前任は色々やらかしていた様だけど………。



彼女……元第一近衛部隊副隊長のグラシウスはこっちでも色々やらかしててね。結局、近衛部隊は無くなって副隊長は僕のr…ハウンドに手出した結果、どっか行っちゃったんだよ。



どこに行ったかって?………さぁ?どっか遠い辺境の地か激戦区じゃないかな?



……話が逸れちゃった。



さて、では今回の講演の内容であるハウンドの重要性について語ろうか。



まずハウンドは戦乙女及び魔術師と魔法的な侍従契約を交わしたビーストの事を指すのは知っているね。では何故その両者がビーストと契約を結ぶのか。それは己の力を最大限まで発揮する為だ。



もちろん従来の契約獣……有名どころだと猫や梟、比較的大人しい類いの魔獣などと契約しても能力は上がる。だけど、今のところビーストが1番上がるんだよ。理由はわからないけど。



あ、本人の意思関係無しの契約は重罪だから魔術師の卵の少年少女は気を付けなよ。裁判沙汰になっても今の法律じゃあビースト側の方が分配が上がるから。それに既に契約しているビーストもといハウンドを無理矢理奪って契約更新するのも当然アウトだから。



次にビースト側のメリット。



ハウンドになる契約はもちろんビースト側にもメリットはある。それは異能力が使える様になる事さ。



通常のビーストは戦乙女もしくは魔術師のハウンドないし契約した際、2種類の異能力を使える様になる。1つはビーストの外見上の生物に合った能力でもう1つが本人自身の能力だ。



あ、ちなみに例外はあるよ。先天性の異能力持ちとか、この後話す覚醒ビーストとか。



通常のハウンドの具体例を挙げるならば執行官(ジャッチメント)………まぁ、戦乙女内の警察かな?それのトップの縁流 芽衣子1級戦乙女のハウンドである闘牛のビーストの日暮 伽耶子契約者(コントラクター)の能力は『収納』と『鼓舞』。前者が本人自身の能力で後者が闘牛のビーストに多く発現する能力なんだ。



『収納』は彼女が触れた対象を中身の物質ごと角砂糖サイズまで小さくできる異能力で制限は自身の体重の10倍まで且つ生きていない物のみ。だけど、その範囲内ならばどんな物でも持ち運びが可能だ。



『鼓舞』は一定範囲内の味方の能力を限定的に底上げするもの。ただし、効き目が出るまで時間がかかる上にその日の体調によって強化倍率が変動してしまう。これは魔術師の強化魔法と似た様なものだ。違う点は魔力を使うか使わないかだ。



では次に例外に属する覚醒ビーストについて。



覚醒ビーストは特殊条件を満たしたビーストの事で現在たった16人しか確認されていない。見た目も普通のビーストと違って幻獣を模していて尚且つ異能力を3つ所持している。ちなみに僕のハウンドはその16人いる覚醒ビーストの中の1人さ。



そんでその覚醒ビーストになる条件が…………これに関しては機密保持の観点で言えないんだ。ただ、数から分かる通り非常に厳しい。しかも、覚醒ビーストは契約しないとビーストにならない……つまり最初は普人となんも変わらない姿をしてるのさ。そして覚醒ビーストとの契約は魔力の波長がドンピシャ合わなきゃ出来ない。



その難しさを例えるなら砂場に小麦粉の粉をばら撒いて混ぜた後に砂と小麦粉を道具や魔法を使わず手作業できっちり分け切るくらいかな。



まぁ、はっきり言って無理。しかも覚醒ビーストって本当に魔力の波長が合致する人物じゃないと見つけられないから余程の運がないと無理だよ。



だってこの世界に何億人もの人がいてその中からたった1人、それも天然の隠蔽魔法擬きかかった見た目普人の覚醒ビーストを見つけ出すなんて至難の業だよ



しかも契約するに術者本人の実力が無きゃ、逆に喰われちゃうよ。僕だって何度か喰われかけたし。普通のビーストの契約が梟とか猫と例えるなら覚醒ビーストは気性の荒い魔獣か凶暴なドラゴンだね。



あ、そもそも使い魔とかビーストの契約はまず仮契約してしばらくの間、自分の魔力で染め上げてから本契約するからね。



だけど、それだけリスクと手間を要してまで契約した覚醒ビーストはそれはもう強い。下手すると魔術師御三家の筆頭が束になっても勝てないくらいにね。身体能力は当然ながら覚醒ビーストは個人の差はあれどそれぞれチート級の異能力を持っているんだ。



1番有名なのはテルゼウス『ユグドラシル』局長の柳龍 夜奈特級戦乙女のハウンドの神崎 澪ビースト管轄長。彼女は見た目は九尾の狐で異能力は『炎操作』と『幻影魔法』と『虚無反転』。



前者2つは名前の通りの能力だけど、1番ヤバいのが後者の『虚無反転』だ。



この能力は簡単にわかりやすく言うと幻を現実に、現実を幻に変える異能力。はっきり言ってチート能力だよ。



だって『幻影魔法』で虚像を描いて『虚無反転』を発動させればそれは実体を持って現実のものとなる。怪我も上から幻影を被せて発動させれば治っちゃうし。



そんで僕のハウンドの異能力は『魔喰い』。効果は魔力を含むありとあらゆるものを無効化し一切の制限無しに喰らい自らの糧にするっていうもの。



………察しのいい子はわかるね。この異能力は魔獣や魔導具や魔力触媒、果てにはボイドや魔法や魔術師の誰もがその身に備わっている魔力回路に至るまで魔力に関係するもの全て無意味になる。言ってみれば魔術師にとって天敵だ。



普段は僕の魔力と魔力を永遠に生み出す触媒から出した魔力を喰べているから大人しいんだけど。



いつも澄まし顔なのに魔力与えると目をキラキラさせてでっかい尻尾をはち切れんばかりにぶんぶん振って抱きついてきてほんと可愛ッ…………



…………話が逸れちゃった。



まぁ、覚醒ビーストは話した通り非常に強いけど、もちろんそれだけ強力な能力にも代償はある。



まず神崎管轄長は天から見放されたとしか思えない不幸体質とヤバいやつホイホイ。



何故か知らないけどあの人出張行くと行き先でストーカー引っ掛けて来るんだよね。しかもヤバめの。まぁ、そのストーカーは次の日にはセコムの柳龍局長の手で塵になってるけど。



僕のとこは感情の欠如とボイドを視認したら絶対滅殺鏖殺血狂いバーサーカーにクラスチェンジしちゃうくらいかな。



感情の方は最近は良くなってきてるけどバーサーカーは無理。一回ぶん殴って正気に戻さなきゃ止められない。



他の覚醒ビーストも似たり寄ったり………いや監獄にいるアレはやばかったな。放送禁止レベルのエグい性質持って尚且つそれが主従共々ってやつで……………この話はまたいつか。



………そろそろ時間かな。それじゃあ最後にこれだけ言わせて。



いくら契約できて縛る事ができてもビーストは僕達と何の変わらない人間だ。ただちょっと尻尾や角とか生えているだけの普通の人間。



ハウンドとしての契約は僕達の身勝手な理由でその人のこれから先あり得たかもしれない未来を奪ってしまう行為だ。最低でもその人から罵詈雑言やら暴力やら浴びせられ、最悪殺される覚悟を持つべきだ。



例えその契約が互いの了承を得たものであってもね。僕もその覚悟を持って今のハウンド……あの子と契約した。



というか普通に殺されてもおかしくない契約の仕方だったね。殺されなくてもガチで嫌われても仕方なかった。でもあの子は僕を受け入れてくれた。それどころか側にいると落ち着くとか居心地がいいとか言ってくれた。



こんな面倒くさい僕のハウンドになってくれたとよく思うよ。



いいかい?僕はたまたま運が良くて最初からいい関係を築けた。だけどそれは日頃の積み重ねで悪くもなれば更に良くもなる。



お互いが居場所になって共に歩んでくれる、お互いにとっていい関係を作る事。これがビーストとのハウンドとしての契約の大前提だからね。



ハウンドは物じゃない。人間で仲間で自分が最も信頼を置ける最高のパートナーに成り得る存在だ。



この事を常に頭に中に入れていて欲しい。



………………時間だね。



ではご静聴ありがとうございました。




***




そう言って愛莉珠が締め括ると会場に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。




『いやぁ、長く喋ると疲れるね。それじゃあ講演会が終わった事だしちょっと別行動していた僕のハウンドを呼ぶとしよう。あ、別行動の理由はこの講演会に茶々入れに来た輩を捕縛するって理由さ─────マイクテス〜マイクテス〜こちら猟師。講演会終わったよ。そっちはどうだった?』



『────こちら猟犬。羊の群れが30くらい来た。囲い込みの後無力化した。種類は多分成り金ガキ大将とその取り巻き関係…………なぁ、お嬢。この報告の仕方意味あるのか?』



『あるある!だって雰囲気でるでしょ?』



『雰囲気の問題かそれ?……それで終わったんだろ。どこで待てばいい?』




愛莉珠が講演会用に付けていたヘッドマイクを操作してどこかと通信を始めるとあまり感情がこもっていない様に思える平坦な報告と少し高めの男みたいな口調の声が聞こえてきた。ちなみにまだ会場の体育館のスピーカーに繋がっている為会話はダダ漏れである。



会場にいる生徒たちはその会話の相手が目の前の愛莉珠のハウンドであると気付き、どんな人物かを声から想像していた。



一方で一部の生徒はその声に聞き覚えのある様子であった。




『ならこっち来てよリク。みんなに紹介したいからさ』



『は?嫌だよ。別にそっち行かなくてもいいだろそれ』



『良くない!ほら来てよリクゥ!みんな待ってるからさぁ』



『嫌だ』




愛莉珠の口から"リク"という名前が出て来て一部の生徒………つまり理玖のクラスメイトは確信した。間違いなくあの最近特別科に転校して来た普段から不思議な空気を纏っていた彼女であると。




『お願いだよリク。帰ったら思いっきり構ってあげるからさ』



『それはいつもやってるだろ』



『………最高級魔獣のジュエルマンモスの霜降り肉 (100g10万)の食べ放題!』



『脂っこい肉好きじゃない』



『………………僕を1日中好きにしていいよ』



『それは逆にお嬢が喜ぶだろ』




あぁ言えばこう返されて愛莉珠の顔はだんだんと顰めっ面になっていく。そして愛莉珠は最終手段に移ることにした。




『……………………仕方ない。これは使いたくなかったんだけどな』




愛莉珠はそう言って懐から小さなボイスレコーダーを取り出した。もちろん理玖には見えていない。




『ここに!この前録った僕とリクの《ピーーー》の音源があるッ!もちろんリクの大好きなプレイの時のだッ!!今すぐ来なければそれを爆音で流すッ!!』




先程までハウンドとの関係がどれだけ大事かを解いていた人が言っているとは思えない最低な事を声高々に愛莉珠は言った。一部の生徒 (1名)が席から立ち上がった。




『さぁ!逝くぞォォォォッ!!さぁぁんッ!!!にぃぃ──《バリィィィンッ!!》ヨシ来たぁ!』




愛莉珠が地獄のカウントダウンを始めてすぐ体育館の2階の窓ガラスが割れて黒い塊が勢いよく飛び込んで来た。



その黒い塊はそのまま愛莉珠の方に突っ込んで行ったが、愛莉珠はそれを逃げもせずに真っ正面から受け止めた。




「おいお嬢ッ!!なんでそんなもん持ってんだ!こっち渡せッ!!」



「や〜だ〜よ♪これ聴いて書類仕事頑張るんだからさ〜♪………それよりも」



「それよりもじゃねぇよ!さっさとわたs──」




理玖がその先を言おうとしたがそれは出来なかった。何故なら愛莉珠がその口をキスで塞いだからだ。



鳴り響く黄色い歓声と一部ファンの絶叫。



理玖はあまりに自然な流れでされたキスに固まったがすぐに引き剥がしに掛かる。だがそれは愛莉珠に止められ、更に口の中に舌を入れられて蹂躙されてダメ押しと言わんばかりに魔力を流し込まれる。



2人が繋がる口の境目からは愛莉珠の魔力が可視化され、紫色と水色が混ざった光がバチバチと音を立てて漏れていた。普段の優しい魔力譲渡とは違う慣れていない荒々しい魔力譲渡に理玖はその平均よりも遥かに大きい尻尾をブワリッと膨らませて身体を硬直させる。



そして何度か痙攣を起こした後、顔を真っ赤にしてぐったりとなってしまった。




「………ありゃ?これは流石にきつかったか。……まぁ、いいか。それじゃあ、紹介するね!僕の愛しいハウンド、大泉 理玖さ!」




そうして未だ顔を赤くして湯気が立っている理玖を横抱きにしたまま愛莉珠は笑顔でそう言った。

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― 新着の感想 ―
[一言] くっそwww 今までのまともな話を全部吹き飛ばしおったwww
[一言] やはり仕事モードは長続きしなかったか(ʘᗩʘ’) 一応講演終わるまで続いたから保った方か?(٥↼_↼) そして今度のやらかし者はタダのガキの火遊びか(´-﹏-`;) そんなこんなの締めが…
[一言] 草はえました
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