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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第1章
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ボイド襲撃と覚醒

日常というのは唐突に変わってしまう。



これは必然的なことだ。今ある日常はこれからもずっと続くとは限らないというわけだ。




***




それは突然だった。



空にまるで水面に墨汁を垂らした様に黒い波紋が広がった。そしてその黒い波紋の中心から雫が垂れる様にしてソレは現れた。



蛇の様な姿をしたそれは全身をヘドロの様な何かに覆っており、ビチャビチャと辺りにそのヘドロの様な何かを雨の様に撒き散らしながら降りてこようとしていた。



直後、街中に鳴り響くけたたましいサイレンの音。それはここ数年で全く鳴ることの無かったボイド襲撃のサイレンだった。



都市部には万が一ボイドが襲撃してきた際、民間人の為の避難用地下シェルターが等間隔に配備されている。



民間人はサイレンを聞くと慌てて近隣の地下シェルターへと避難を始めた。しかし、近年ボイドの脅威が身近に感じられなくなった故にボイド襲撃に民間人はパニック状態となった。



理玖達が通う学校でも生徒の殆どがパニック状態で我先にと地下シェルターへと避難して入り口付近は大混雑である。



そして、不幸は続く。



蛇型のボイドはズルリッと音を立てて地面に轟音と共に降り立った。



その過程で鞭のように揺れた尾が学校の校舎に当たり、上部が崩壊し元々老朽化が進んでいた古い校舎はそのまま衝撃で瓦礫と化した。



ボイドはゆったりと鎌首をもたげるとそのまま自らの本能に従い、人が多い場所へとその身を這って進んだ。



その時、上空からボイド目掛けて何かが飛来し当たると同時に爆発が起こる。そして、数十人の無機質な機械の翼を背に持つ人影……戦乙女(ヴァルキリー)が現れて戦闘を開始した。



数十人の戦乙女(ヴァルキリー)の総攻撃を受けてもボイドは特に怯みはせず、それどころかチクチクとした攻撃(ちょっかい)に苛立ちを見せた。



そしてボイドは頭を空へ向けて何かを溜め込んで吐き出す様な動作をするとボイドの口から人間大の大型の黒い蜂が大量に出てきて、戦乙女(ヴァルキリー)達に襲い掛かった。



いくら人類の切り札とも言える戦乙女(ヴァルキリー)といえど、1対多の戦闘には勝機がない。もちろん集団戦に特化した戦乙女(ヴァルキリー)もいるが、不幸にもこの場にいなかった。



戦乙女(ヴァルキリー)達が1人また1人と堕ちていく様子を見て蛇型のボイドは興味を失った様にまた歩みを進めた。




───その直後だった。




突然、崩壊した瓦礫の山から凄まじい威圧感と共に黒い光の柱が上がった。




***




〜時は少し遡ってボイド襲撃直後〜




理玖は1人、瓦礫の間に奇跡的にできた狭い空間にいた。



理玖は昼休みの時間に教師から呼び出しを受け、職員棟まで来ていた。呼び出しの理由は単にバイト許可証の更新についてである。



そして更新が終わり、帰ろうとした時帰るついでにと教師にお使いを頼まれてそのお使いをしている最中にサイレンが鳴り響いた。



その時理玖がいた場所はシェルターから遠く離れており、その結果逃げ遅れて瓦礫に埋もれてしまったのだ。



幸いにも瓦礫に押し潰される事にはならなかったが、理玖は大きな瓦礫に閉じ込められる結果になった。



「…………はぁ。ついてないなぁ………」



と理玖はポツリとそう呟いた。



理玖の心は意外にも穏やかだった。ボイド襲撃に直面していても何故か冷静さを保っていた。



理由は理玖本人にもわからなかった。今もこうして自分の命が危機に瀕しているのにも関わらず、何処か他人事の様に思えてしまった。



理玖は元々感情があまり豊かではない。



笑ったり泣いたりすることもあるが、それはどこか薄いもの。両親が生きていた時はまだ感情が豊かだったが、両親が死んでからは感情をあまり表に出さなくなり、それどころか虚な雰囲気を漂わせていた。



その瞳に映るのは常に諦観。何も期待せず、何も求めず、全てを諦めた目。両親がいたことで埋まっていた心の穴がぽっかりと空いてしまい、その結果今のふとした拍子で無感情となる理玖ができてしまった。



理玖の保護者である日暮と縁流や幼馴染達はそんな理玖を心配してアレコレやったが、結果は変わらずである。



今も理玖はこの状況に「いつか来る日が来たなぁ」といった感じで諦観していた。



その時、理玖の頭上の瓦礫が持ち上がり、勢いよく退かされた。



陽の光の眩しさに理玖が思わず目を背け、やがて陽の光に目が慣れた時に彼が目にしたのは……月の様に輝く長い銀髪の戦乙女(ヴァルキリー)だった。



「──やっと見つけた。あぁ……長かった、ほんとに長かった……」



その戦乙女(ヴァルキリー)はに会うや否や絹の様な長い銀髪を振りまけて、その端正な顔には満点の喜びを付けていた。



辺りは瓦礫で埋もれ、悲鳴と人外の化け物の咆哮と戦闘の音が響き渡っている。



はっきり言って場違いにも程がある。




「さぁ、少年!手を出して!この僕と契約しよう!僕は君をずっと待っていたんだよ!僕の相棒(バディ)!」




その戦乙女(ヴァルキリー)はそう言って理玖の側まで降りて瓦礫の中から引っ張り出した。



「………え、えっと、相棒(バディ)?契約?」



状況が理解できず理玖は目を白黒させた。



「契約は僕と君との契約!相棒(バディ)はハウンド!僕の直感がこう告げているのさ……、君が僕の愛しきハウンドだってね!僕の名は『礼華(らいか) 愛莉珠(ありす)』っていうんだ。さぁ、君の名前を教えて?」



「お、おれは大泉 理玖、です」



「大泉 理玖………なるほどね。わかった。じゃあ、契約だ」



「え、ちょッまっ──ッ?!」



理玖の静止も聞かずに戦乙女(ヴァルキリー)……愛莉珠は理玖の唇を自身の唇で塞いだ。



そして、彼らを中心に魔法陣が現れ、彼ら諸共黒い光の柱に包み込んだ。



───これが最強と謳われる戦乙女(ヴァルキリー)のハウンドの誕生の狼煙であった。


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