夜が明けて
〜side愛莉珠
カーテンの隙間から漏れてくる陽の光で目が覚めた。珍しく怠く感じる体を起こそうとして自分の胸を枕代わりにして寝ているリクに気がついた。
そうして見れば自分達はどちらも裸で布団を捲れば……………まぁ、わかるだろ?虫刺されっぽい痕とか歯形とか。あと色々と。
「……え゛〜〜っと………ん、んん゛っ!あ゛〜………あ゛ぁ?」
喉に違和感を感じて声帯に力を入れるが、口から飛び出すのは普段から何オクターブも下がった、壊れたスピーカーのような音。咳払いを何回しても違和感が取れず、学生時代、授業で学校の備品にあった不良品の魔導具を使わされた時と似た不快感を感じた。
とりあえず喉に治癒魔法をかけながら昨晩のことを思い出してみる。僕は回復系は不得意だが、擦り傷や炎症くらいは治せる。
いやまぁ、別に昨日の事を覚えていないというのはない。というかあんな素敵な夜を絶対忘れるわけがない。
端的に言えば非常に盛り上がった。
普段の薄い表情は快楽で頬を染めて蕩けた表情にいつもの物静かな話し方とは打って変わった砂糖の様に幸せそうな甘い鳴き声。
少し噛み付いたり手で遊んでやれば、大粒の汗が浮かび、全身を激しく痙攣させ、また違う鳴き声をあげるその姿。
普通に良かった。………………ただ誤算だったのはその後。
ひとしきり女同士でのアレコレで楽しんだ後、ニューゲートから貰った例の薬を使おうと探したが何故かどこにも無かった。
脱いでそのままのスーツの中やらポーチの中やら探したけど見つからなかった。
おっかしいなぁ……。クソババァに事後処理の報告に行く前には確かにあったんだけど………。
そんでないないと探していたら先程まで僕の手腕とプレイで息が荒くなっていたリクに腕を引っ張られてベッドに逆戻り。気づいたら僕が押さえつけられてリクが馬乗りになってと体勢が逆になっていた。
アメジストに似た紫色の瞳は瞳孔が開いて黒さが増してその奥で、轟々と燃え盛る炎を幻視した。日頃から手入れを怠っていない大きな3本の尻尾はいつぞやの暴走時を彷彿させる程ブワリッと膨れてゆらゆらと揺れていた。
そして極めつきはその表情。
普段の薄い表情でも先程までの快楽に溺れた蕩けた顔ではなかった。完全にこちらを捕食対象と見做した捕食者の様な獰猛な笑みだった。
『あ、これ食われる』とそう思ったのは無理もない。だってその顔、まんま新しい玩具を見つけた時の華重副隊長だったし。
あとはご想像通りパクッと。
おそらくお節介な狐かエロ河童が教え込んだのだろう手腕にマジで翻弄された。元々、要領がいいのか覚えが早いのか、僕にされた事をそのままやってくれた。
彼女のその紫色の目に宿した炎に巻かれたように、あの手と唇が触れた所全てが熱くなる身体。自分の意志とは全く関係無く力が入り、肺の空気を音に変える声帯。
勿論意味のある音ではなく、殆どが母音だけで形成されたただの音。熱に比例して音階が駆け上がり、身体の中で弾ける感覚と共に音域の限界を迎える。
その度にアメジストと似た色の火は大きく、熱くなる。
やられて音を上げて、やり返して音を上げさせる。そうやってお互いを心ゆくまで貪りあった。
お互いに息も絶え絶え、体力も限界というところまでやって、そうして疲労感からやってくる心地よい睡魔に微睡みながらリクと一緒に眠りについたのだった…………。
「………………うん。マジでハメ外し過ぎた」
どんだけ盛り上がったのかといえばさっき見た時計が昼の11時を指していると言えば分かるだろう。しかも、滅多に筋肉痛とかしない僕が怠いと感じるのもそうである。
今日が非番で本当に良かった。多分、リクもそれを踏まえて誘ったのだろう。そして記憶が正しければいつも良いところで乱入してくる柳龍が来なかったのはリクの釘刺しが効いたからだ。
姪っ子には甘いというかそんな感じか?………いや、絶対乱入して嫌われたくなかったに違いない。あのババァの事だ。昔、一回やらかしたに違いない。
「………………ぅんっ」
そんな事を思い浮かべている時、僕の胸ですやすや寝息を立てていたリクが起き始めた。そして起きたかと思えば僕の胸に顔を擦り付ける様に埋めてそのまま気持ち良さそうに二度寝しだした。
おまけに反射的にか耳をパタパタさせて顔が若干蕩けてる。
「────────ッ」
………………危なかった。あまりの可愛さに危うく朝からおっ始めそうになった。流石に連チャンはお互いにキツい。
名残惜しいけど、とりあえず起こすか。
僕は目の前で気持ち良さそうに寝ているワンコの身体を揺すって起こしてみる。すると小さく呻き出して、しばらくすると目を覚ましてこちらをぼんやりとした表情で見つめ始めた。
「おはようリク。昨日は楽しかったねぇ」
僕がそう言って笑みを浮かべると、リクは始めのうちは寝ぼけ眼でぽけぇ〜とした表情をしていたが、しばらくすると頭が冴え始めて昨夜の記憶を思い出したであろう次の瞬間、まるで熟れたリンゴの様に顔を真っ赤にさせた。
そしてそのまま垂れ気味の耳を更にぺたんと伏せて、モゾモゾと布団のある下の方へと潜ろうとしていた。
「こらこら、逃げない逃げない」
僕はそんな可愛い反応をしているリクを引き上げる。リクは抵抗しようとしているが、昨日のはっちゃけたやつがキテる為か、産まれたての子鹿の様にプルプルと身体を震わせることしか出来なかった。
「昨日、いろんな所を曝け出した後なんだし今更逃げても意味ないじゃないか。というか大丈夫?」
「……………だい゛じょばな──っけほ」
「あぁ〜……無理しないで。無理すると余計に悪化するからさ。………リクは治癒魔法受け付けないから僕みたいに治せないからなぁ。ちょっと待って」
僕はリクの身体を起こしてベッドの上に座らせた後、備え付けの棚に置いてある常備薬箱からのど飴を取り出した。
…………ちょっと遊ぶか。
私はそう考え、一旦飴を口に含んだ。オレンジ色のそれは見た目通りの柑橘系の爽やかな香りと酸味を感じる。
そうして呑気に目を丸くしてこちらをぼーっと見ているリクに素早く近づいて、有無を言わせる暇を与えずに彼女の口を塞ぐ。
驚いて仰反るリクの頭と背中に腕を回して倒れない様にする。そのあとは顎を少しだけ開かせて舌で弄んで少し溶けた飴を僕の唾液と一緒に与える。そうすれば不思議とリクの身体の力は抜けて僕のを受け入れる。
「………んっ、しばらくそれを舐めててね。ほらリク、とりあえずシャワーを浴びてすっきりしようか。今日は身体を休めて一緒にのんびりしよう。ここ最近ずっと離れ離れだったからね」
そうして僕はハッスルし過ぎて産まれたての子鹿みたいになってしまったリクを抱き上げて風呂場に向かった。
……………………………その後。家中を探査魔法ありで探しまくったが例のナニを生やすお薬は見つからなかった。
仮にあの薬は魔法薬だったから魔力を喰って消しちゃうリクが飲んでもリクには効果が出ない。そもそも僕がそんなヘマする筈がない。
ちゃんとビンが破損しない様に結界と魔術封印を施してバレない様に裏ポケットに入れて万が一落としても僕の手元に帰って来る様に仕込んでおいたんだ。
本当にどこいった?




